“テキーラバー”と冠するにも関わらず、最近、店の棚に他のスピリッツが急増している。アメリカやヨーロッパを中心に海外で人気高騰中の「メスカル(MEZCAL)」だ。
スモーキーな香りと複雑かつ個性的な味わいが面白く、ウイスキー愛好家にも受け入れられやすい。薦める機会が増えるにつれて、毎日のように尋ねられるのが、表題の問いである。日本での知名度は、まだ極めて低い。
メスカルは、テキーラと同じく「アガベ(和名は龍舌蘭)」を原料としたメキシコの蒸留酒。テキーラよりも歴史が古く、元をただせばテキーラ地方のメスカルが「テキーラ」と呼ばれるようになったという背景があるため“テキーラの母”とも言われる。
かつてはアガベの蒸留酒を全て「メスカル」とひとくくりに呼んでいたが、今は原産地呼称の認定を受け、メスカルはメキシコの9つの州でのみ生産が許されている(2019年現在)。「メスカル規制委員会(CRM)」という管理機関も設立された。
テキーラとの違いは、大きく分けて「品種」「地域」「製法」の3点。
メスカルの品種
まず「品種」。テキーラは単一品種のアガベ(アガベアスール)だけが原料として認められるのに対し、メスカルは何十種類ものアガベを原料にすることができる。
例えばワインのシャルドネとリースリングの特徴が異なるように、メスカルもまた、原料の品種や育つ土壌によって味わいが大きく異なる。さらに、葡萄よりも面白い点は、品種によって生育年数に大きな差があること。例えば、メスカルで最もポピュラーな品種「エスパディン」は生育年数が6~8年であるのに対して、野生品種の「テペツタテ」は、なんと収穫できるまでに25年以上も要する。お酒造りの原料として、こんなに長い時間をかけて育てるものが他にあるだろうか?
メスカルの製法
また、「製法」に関して述べると、ほとんどのテキーラ作りが機械化されているのに対し、メスカル作りはとても原始的で、人や動物の力に頼るところが大きい。
多くのメスカルは、パレンケと呼ばれる、山の中の小さな蒸留所で作られる。熟練のメスカル職人が長年培ってきた経験に基づいて、伝統的な製法で作るので、一度に少量しか生産することができない。クラフトのお酒が注目を浴びる昨今、メスカルこそ“手作り”というにふさわしいように思う。
メスカルの生産地域
そして「地域」。メスカルが生産を許されるのはメキシコの中の9つの州のみだが、この中には、テキーラの生産量が最も多いハリスコ州が入っていない。
メスカルはテキーラよりも質が低いお酒、と誤認されている方にたまに出会うが、そんなことは決してない。むしろ価格的にはメスカルのほうがより高価なものが多い。 近年の世界的メスカルブームを受け、日本への正規輸入もどんどん増えている。もし、メスカルに興味をもたれた方は、日本メスカル協会が実施する「メスカレロ講座」の受講をおすすめしたい。全4回の講座で歴史や製造法、種類など、豊富な試飲を交えながら楽しく学ぶことができる。
まずは一度、未知のお酒「メスカル」を試してみて欲しい。