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蒸溜所を通して見る世界:アシエンダで製造される唯一のテキーラ・エラドゥーラ蒸留所

メキシコに住み始めて約1年が経過して少し余裕ができたということもあり、テキーラ蒸留所を見学すべく旅行会社に相談したところ、エラドゥーラ蒸留所が良いと勧められました。

住んでいた町から、プレミアムエコノミー並み(トイレ付・Wi-Fi完備・リクライニング席)に快適な長距離バスで、4時間ほど揺られてハリスコ州の州都・グアダラハラのバスターミナルに辿り着きました。出口のところで、ガイドさんの車が待っていてくれました。バスターミナルに到着した唯一のアジア人だったため、すぐにわかったそうです。

グアダラハラを東西に抜ける幹線道路沿いには様々なブランドのテキーラの看板があり、そして西に向かって市街地を抜けて少し経つとテキーラ街道(”Ruta del Tequila”)に入り、そこから一面のアガベ畑が目の前に広がりました。テキーラづくりに使われる品種であるアガベ・アスール・ウェーバー(”Agave Azul Weber” 学名Agave Tequilana)の名の通り、想像していた緑より青(“Azul”)がかっており、そのように名前をつけたフランスの植物学者のウェーバー博士のセンスが光っていると思いました。

テキーラ街道

1時間弱乗車し、テキーラ村より手前のアマティタンの村に入って幹線道路から少し逸れたところに、目測10メートル近くの壁のある敷地前に車を停めてもらいました。その壁に大きく”Casa Heradula”と看板があり、目的地についたのだと知りました。年間6万人以上訪れる蒸留所と聞いていたのに巨大な門扉は閉ざされていたのに驚きましたが、さらに驚いたのが中に入ろうとした時です。

門が開けられると自動小銃をもった警備員がおり、身分確認をされたことでした。これまでに100箇所以上の蒸留所を見学してきましたが、そんな体験は初めてです。形式的な職務質問の後に何事もなく通して貰いましたが、中に入ると鮮やかな彩りの住居が並んでいました。高い壁、自動小銃と住居を見て、ここはメキシコなんだなぁと妙な感慨に浸っていたところ、ツアーが開始されました。

蒸溜所入り口
内部の住居

エラドゥーラ蒸留所の歴史

エラドゥーラ蒸留所は、1870年にフェリックス・ロペス氏が仕えていた女主人の死の際に譲渡された牧場に建てられました。後を継いだ息子アウレリオ・ロペス・ロザレス氏がアガベ畑で、幸運のシンボルである蹄鉄(”Heradula”)を発見したのがきっかけとなり、以来カサ・エラドゥーラと命名しています。この蒸留所の歴史的意義、それは世界で現存する唯一のアシエンダ(“Hacienda”)として登記された蒸溜所だということです。

アシエンダとは、17世紀以降スペインによるメキシコ統治時代に誕生した地主の家長的支配による大農園であり、メキシコの歴史において欠かすことができない存在です。(このアシエンダ制からの解放が、1911年のメキシコ革命につながりました)

そのアシエンダとして登記するには以下の条件があります。

  • 18から19世紀に建造されていること。
  • 土地の所有権を有すること。
  • 従業員が敷地内に住んでいること。
  • 敷地内で農業もしくは牧畜業を行うこと。
  • 領主の館があること。
  • 内部に礼拝堂があること。
領主の住居

これらの条件が全て揃っていることを誇らしげに語るガイドさん自身も、この敷地内に住んでいるそうです。そのような説明を受けてから敷地内を見て回すと、領主の図書館、今もオーナー一族であるロモ・デ・ペニャ一族が住んでいる領主の館など、風格のある建物そのものがメキシコの歴史を体現しているように思えてきました。なお、蒸留所とブランドは、2006年からアメリカのブラウン・フォーマン社傘下にあります。

エラドゥーラ蒸留所のテキーラ造りの特徴:アガベ

製造エリアに入るとアガベ畑があり、そして奥には15ものの伝統的なマンポステーラ(石の蒸し焼き釜)がある建物があります。22万エーカーにもおよぶ自社農園でとられた10年もの年月をかけて育てられたアガベの、重さが数十キロもする根の部分・ピニャが、文字通り山のように積まれて蒸されるのを待っています。なお、ピニャ7kgでおよそテキーラ700mlが1本できるそうです。

マンポステーラ

なお、現在では、最短8時間で蒸すことができるアウトクラベという圧力釜が使われている(もしくは併用)されていることが多いですが、マンポステーラで蒸した方が手間も時間もかかる分、よりコクが深まるという蒸留所もあります。ひとつのマンポステーラで約40tのピニャを26時間かけて蒸し、そして9時間かけて冷ましているので、アウトクラベの4倍以上時間をかける手間のかけようです。

そのようにして蒸したアガベの断片を食べさせて頂きましたが、とても筋っぽさはあるものの、とてもジューシーで黒糖のような甘みに溢れていました。テキーラの原料となる蒸したてのアガベを食べることができて、遠路はるばる蒸留所を訪れた甲斐があったと思いました。

その後、蒸されたピニャはベルトコンベアで圧搾機に運ばれ、ジュースが絞られます。そして、絞られたジュースは、次の発酵工程に回されます。

試食用のアガベ

エラドゥーラ蒸留所のテキーラ造りの特徴:酵母

発酵棟は少し離れた所にあるため、暑い中敷地内を歩くことになります。ガイドさんと雑談しながら歩いていくと、マンゴーや柑橘類など、様々な果樹があることに気が付きます。従業員のデザートにでもなるのかな?と考えながら発酵棟に辿り着いた時、本当に驚きました。なぜなら、発酵棟が半屋外になっていたからです。

外から見えるステンレス製発酵槽は65,000ℓとかなり大きいですが、それらはオープントップとなっていると教わり、さらに驚きました。そして驚きを通り越して衝撃的だったことは、エラドゥーラ蒸留所では歩いていた際に見かけた果樹16種による野生酵母で発酵を行っているという事実でした。

野生酵母による自然任せの発酵ということもあり、暑い季節には3日、寒い季節には7日と発酵時間に大きなばらつきがあるそうです。醪も約5%とアルコール度数が低いのも、この自然発酵由来なのではと思いました。

発酵工程についてガイドさんが説明し終わった後、近くの果樹からザクロの果実をもいできてくれました。そして勧められるがまま食べると口内に酸味・苦味、そして甘みが口に広がりました。そして、楽しそうに案内していたガイドさんが真顔に代わり、言われました。

『この味を覚えておいてください。』

果樹と発酵槽

その真意がわかったのは、蒸留工程においてでした。蒸留棟にはメキシコらしくイエスキリストの祭壇があり、その前に数多の小ぶりなステンレス製蒸留器が並んでいました。そのような蒸留器で2回蒸留とミドルカットを行い、一回目の蒸溜で25%、2回目の蒸溜で46~55%のアルコールをとるそうです。その出来立てのテキーラを飲ませて頂きました。そして衝撃を覚えました。

蒸留器

未加水のテキーラであるため、スピリッティで白コショウを思わせる刺激はあるものの、先ほどかじった果実のニュアンスがあったからです。驚愕している中、ガイドさんからしたり顔で、エラドゥーラ蒸留所で作られるテキーラ(ブランコ)の味わいのうち、8割が16種の果実による野生酵母の影響だと教えてくれました。野生酵母の影響力を実体験した時の衝撃は一生忘れることはないと思います。

そのように作られたテキーラは、44.5度まで加水され、オーナーであるブラウン・フォーマン社の傘下にある蒸留所(ジャックダニエル、オールドフォレスター等)の樽で主に熟成されるそうです。

歴史を経て作られた『エラドゥーラ』

興奮冷めやらぬまま、次に案内されましたが、いきなりタイムスリップしたかのような空間。

それは創業当初から1963年まで稼働していたテキーラ蒸留所でした。直火式のマンポステーラ、馬に曳かせた溶岩石で作られた石臼(タオナ)、地面に掘られた発酵槽、そして直火式の蒸留器などを見学することができました。この旧蒸留所の厳かな雰囲気とグアダルーペの聖母※の祭壇を見て、ここはまるで神殿であり、日本の酒蔵のように、感謝の気持ちを込めてテキーラ造りを日々勤しんでいたのだと思いました。

※カトリック教会公認のメキシコにおける聖母の顕現で同国において最も敬愛される存在の一人

旧蒸留所の祭壇

そのようにして、技の伝承が今のテキーラ造りに繋がっていったことを考えると感慨深いです。

そして、蒸留所のフラグシップである『エラトゥーラ』は、ブランコ(法定熟成期間0日~60日未満→エラトゥーラ45日熟成)、レポサド(同 60日~1年未満以内→11ヵ月)、アネホ(同 1年以上→25ヵ月)と熟成期間が法律で定められている中、各区分において長めに熟成されていることが特徴です。そのような樽の熟成の拘りもあり、先の白コショウや柑橘に対し、熟成具合に応じてキャラメルや蜂蜜が乗り、口内で素晴らしいハーモニーを奏でられます。 このような素晴らしい味わいのテキーラに加え、メキシコとテキーラの歴史と伝統が経験できるエラドゥーラ蒸留所は、唯一無二の存在でした。

この記事を書いた人

Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。
Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。