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フードペアリングの楽しみ方vol.10:『古典×古典』クラシック・カクテルからペアリングを考える

昨今のカクテルのペアリングでは、バーテンダーによって、それぞれの持ち味とアプローチの仕方でさまざまな可能性が示されていると感じております。

これも個性が光る職業であるバーテンダーの人間性が出ていて、とても楽しい時代になったと思っております。

その中で「クラシック・カクテルのペアリングは出来るのか?」という問いがあります。

クラシック・カクテルのペアリング

バーテンダーによっては、カクテルと料理を合わせる事に否定的な考えの方もいらっしゃることも耳にしております。確かに、カクテルはアペリティフやディジェスティフとして飲まれることが多く、昔からその位置は変わらないと思います。それもとても重要な文化であり、残すべき、そして継続するべき文化だとは思います。

しかしながら、本当にクラシック・カクテルが料理とペアリングすることができないのか? 私には疑問符が浮かんでしまいます。

今の時代は多くの素材に恵まれており、ベルモットやジン、テキーラ、ウォッカにビターズ、ウイスキーに至っても目覚ましい進化を遂げています。それらをクラシック・カクテルに当てはめながら考えていけば、ペアリングとしてのクラシック・カクテルが見つかるのではと思います。

クラシック・カクテルは料理に合わないと断言するのは、時期尚早なのでは無いかと私は思うのです。

むしろクラシック・カクテルを料理とのペアリングでまず考えて、それをツイストしていく作業をすれば多くのひらめきと気づきが生まれるのではないでしょうか?

私はそう考え、過日に行ったペアリングのコースで、あえてクラシック・カクテルのペアリングを提案させていただきました。

そのペアリングの組み合わせを一部ご紹介させていただきます。

「スズキのパイ包み焼き ソース・ショロン」×「ハーベイ・ウォールバンガー」

料理通の方にとってはあまりにも有名なフランスのポール・ボキューズの料理です。本来ならばスズキを一匹丸ごと使い、ホタテとオマールエビ、トリュフのムースを詰めてパイで焼き上げた料理ですが、今回はホタテのムースとエストラゴンを混ぜ合わせたもので作りました。ソース・ショロンは卵をベースに、煮詰めたトマトを合わせたソースです。

そこにウォッカをベースとした「ハーベイ・ウォールバンガー」を合わせることに致しました。

バーテンダーの皆様はご存知かと思いますが、ウォッカ、オレンジ・ジュース、ガリアーノを使ったカクテルです。

ガリアーノは、バニラやアニス、ジュニパーベリーなどにサフランを使ったリキュールで、その背の高さによりバック・バーに収まらない厄介なものです。このガリアーノが「スズキのパイ包み焼き ソース・ショロン」との架け橋となるペアリング・ポイントの重要な役割を担ってくれます。

もともとフランス料理には砂糖を使わないという点がありますので、リキュールの使い方はほんの少量でよいです。そこにパイやスズキにも相性のいいオレンジの甘酸っぱさと香り高さが加われば、それはもうカクテルがソースの一つとして存在していくわけです。これは補完というペアリングですが、ワインが苦手な方にとっても楽しんでいただけるのではないかと感じます。

骨つき仔羊の香草焼

もう一つは、「骨つき仔羊の香草焼」です。

これもフランス料理の中で定番中の定番料理だと思います。ソース・ペルシャードと呼ばれるパセリとパン粉を合わせた物を骨つき仔羊肉に乗せて、オーブンで焼いたものです。

これには、ライ・ウイスキーをベースとした「ホット・ウイスキー・トディ」をペアリングカクテルとしてご用意させていただきました。

これは、羊の脂が持つ独特なミルキーさとクセを利用したペアリングです。普段ならもう少し高めの温度でご提供をする「ホット・ウイスキー・トディ」ですが、口の中で羊の脂との融和性を感じていただくためにも50〜60度の温度で提供いたしました。ベースにしたウイスキーは、アメリカン・ライ・ウイスキーとバーボンをブレンドして、より料理とのバランスを整えました。

羊肉が口の中にほんの少し残っている状態で、カクテルを飲むと……羊の脂が持つミルキーな味わいが溶け出し、カクテルの味わいがカフェ・オ・レのような味わいに変化していきます。そしてウイスキーが、より羊肉の旨みを引き立てます。これは「変化」と「相乗効果」を狙ったペアリングです。ただのウイスキーのお湯割ではなく、角砂糖とアンゴスチュラ・ビターズ、シナモン、クローブ、オレンジピールが入っているからこそ成り立つペアリングとなります。

クラシック・カクテルからペアリングを考える

このように、「クラシック・カクテルは、料理に合わない」という考えではなく、クラシック・カクテルからペアリングを考え、そしてそこから+、—、×をしながら、新しい組み合わせを作り上げていくことも重要な作業であると感じていただければ幸いです。

この記事を書いた人

井谷 匡伯
井谷 匡伯https://ameblo.jp/barnoage/
静岡県袋井市生まれ。地元で2000年にBAR NO'AGEを開店し、2007年に現在の静岡市へ移転。料理人を目指していた頃に培った、料理の技術とお酒に合わせて提供するスタイルを開店当初からベースとしている。様々な料飲専門書にローカル・カルチャーを基本としたカクテル・ペアリングを提案。現在も研究を推し進め、SNSを通じて様々な可能性を発信している。
井谷 匡伯
井谷 匡伯https://ameblo.jp/barnoage/
静岡県袋井市生まれ。地元で2000年にBAR NO'AGEを開店し、2007年に現在の静岡市へ移転。料理人を目指していた頃に培った、料理の技術とお酒に合わせて提供するスタイルを開店当初からベースとしている。様々な料飲専門書にローカル・カルチャーを基本としたカクテル・ペアリングを提案。現在も研究を推し進め、SNSを通じて様々な可能性を発信している。