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フードペアリングの楽しみ方vol.9:「チェイサー」の役割とは?

皆様こんにちは。少し間が空いてしまいまして申し訳ございませんでした。

今回もフードペアリングの記事を書かせていただこうと思いましたが、少し見方を変えた「チェイサー」のペアリングをご提案させていただきます。

チェイサーの役割

BARでのチェイサーは、ミネラル・ウォーターが提供されることが多いと思います。

役割としては

  1. お酒の強さを緩和させる
  2. 味わいの濃いものを中和させる
  3. 口の中を洗う

などの要素が含まれております。

しかし、果たしてミネラル・ウォーターはお酒の味わいを壊していないのか?
せっかくの余韻を封じてはいないだろうか?
そんなふうに考えるようになりました。

実際に、浅草の名店Bar DORASの中森氏はコニャックを提供する際には水出しのアールグレイをサービスとして提供していることで有名です。私も実際に伺った際にその理由に感嘆し、また共感を覚えました。私もその後、コニャックなどをご提供する際にミネラル・ウォーターではなく紅茶などで提供するようになりました。

「では、シングルモルトなら? クラフトジンなら? テキーラなら? その他諸々のお酒は?」

BARにお見えになられる方々は、大抵がお食事を済ませて来られることが多いと思います。なので、フードペアリングをしたいけれど、お腹がいっぱいで……とおっしゃる方も多いです。そこで私は考えました。チェイサーという脇役を、名脇役に変えて主役であるお酒をさらに活かすようなペアリングができないものか?

まずは、手始めにシングルモルト・ウイスキーのチェイサーとして煮出した麦茶とミネラル・ウォーターを一緒にお出しするようにしました。はじめは2種類のチェイサーを出されたお客様も「これは何?」と、見慣れない色のチェイサーに怪訝な顔をされておりましたが、「同じ麦から作られている同士ですから、相性がいいですよ」と説明させて頂くと合点がいったように麦茶とシングルモルトを交互に口に入れて、その効果と相性に驚きの声を上げて、最終的にはミネラル・ウォーターのグラスには一度も口をつけずに、最後の一滴まで麦茶をチェイサーにしたペアリングをお楽しみ頂く事が出来ました。その瞬間からチェイサーペアリングの可能性を確信し、様々な組み合わせの実験をし始めました。

まだまだ研究段階ではありますが、その中でも特に効果を発揮しているペアリングの組み合わせを例として書かせていただきます。

「ピート香のやや強めのシングルモルト・ウイスキー」
×
「金木犀ウォーター(茶葉の入っていない桂花茶)」

お勧めはLONGLOWBOWMOREで、面白い反応を見せてくれます。

このペアリングを見つけたきっかけは、新しく入荷したモルトウイスキーをテイスティングしていた際に、金木犀のような香りがあると感じたからです。たまたまテイスティングをしていた時期が秋だったからなのかと思っておりましたが、実際に金木犀の香りをつけたミネラル・ウォーターをいつもの様にアルコールの刺激を緩和させるために口につけると、モルトウイスキーの余韻が崩れる事なくむしろ増幅していく事に驚きました。

これはペアリングで言うところの成分的な同調があるのではないかと考え、金木犀の主要な香気成分を調べてみると、γ—デカラクトンと言う甘い桃の様な香りを発する成分が含まれているとありました。その成分を調べていくと、アサヒビール(株)の研究開発部門・鰐川彰氏が研究発表をされた『ウイスキー醸造における乳酸菌の役割』の中に

「モルトウイスキーの中の甘い香気成分として、このγ—デカラクトンとγ—ドデカラクトンを見出した」

と書かれていました。しかも、樽での貯蔵前のウイスキー(ニューポット)からもこの桃の様な香気成分は存在しているらしいのです。

と言うことは当然、γ—デカラクトンが主要香気成分である金木犀との相性がいいのも納得がいきます。

私はたまたまこの研究結果を後から知りましたが、前に書いたペアリングを見つけるための「テイスティング」の重要性を改めて感じます。

私のお店では、お酒とチェイサーのペアリングとしてお勧めしたい組み合わせをメニューに書き込んで、今のお勧めのお酒と一緒にサービスとしてご用意させていただいております。モルトウイスキーなどが高騰する中、いかにしてスタンダードなお酒を美味しくご提供して、さらに楽しんでいただく事ができるのか、バーテンダーの皆様は、調合をするテクニックを使ったチェイサーの提供方法を探ってみてはいかがでしょうか。

一般のお客様は、自分なりの組み合わせを、身近な飲み物で見つけて、また違う楽しみ方をしていただけたらと思います。

この記事を書いた人

井谷 匡伯
井谷 匡伯https://ameblo.jp/barnoage/
静岡県袋井市生まれ。地元で2000年にBAR NO'AGEを開店し、2007年に現在の静岡市へ移転。料理人を目指していた頃に培った、料理の技術とお酒に合わせて提供するスタイルを開店当初からベースとしている。様々な料飲専門書にローカル・カルチャーを基本としたカクテル・ペアリングを提案。現在も研究を推し進め、SNSを通じて様々な可能性を発信している。
井谷 匡伯
井谷 匡伯https://ameblo.jp/barnoage/
静岡県袋井市生まれ。地元で2000年にBAR NO'AGEを開店し、2007年に現在の静岡市へ移転。料理人を目指していた頃に培った、料理の技術とお酒に合わせて提供するスタイルを開店当初からベースとしている。様々な料飲専門書にローカル・カルチャーを基本としたカクテル・ペアリングを提案。現在も研究を推し進め、SNSを通じて様々な可能性を発信している。