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フード・ペアリングの楽しみ方 vol.8「分解と再構築をするペアリング」

今回のペアリング

分解と再構築をするペアリング

「熟したアーウィン種のマンゴー」=「Etrange」
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「胡麻団子」

ガストロノミー料理の世界では、元々の伝統料理を分解してから再構築をしていく新たなアプローチでお客様たちを楽しませるというスタイルがあります。私どもバーテンダーの世界でもスタンダード・カクテルの再構築が、近年では「ツイスト」というスタイルとして定着してきているのではないかと思います。

今回は、夏のトロピカルフルーツである「熟したアーウィン種のマンゴー」を分解、再構築して、ペアリングをさせる方法を私なりの考え方で示したいと思います。やや高等なテクニックも要しますが、一つの方法論として今後の皆様のカクテル・メイキングやカクテル・ペアリングの楽しみ方のお役に立つ事ができましたら幸いです。

まずは、マンゴーの甘み、食感、酸、余韻、香り、成分を分解していきます。細かい成分は割愛しますが、まずマンゴーの成分で挙げられるのは「カロテン」です。「カロテン」はご存知のとおり人参に多く含まれておりますので、素材の一つに人参を使います。

次に、酸を考えます。熟したマンゴーから感じる甘みの中には、少し発酵をしたような酸を感じます。発酵ジュースなどに置き換える事も可能ですが、ここは酸を効かせてより輪郭をはっきりとさせたいので、人参にワイン・ヴィネガーと砂糖を加えて茹で、グラッセに近い状態にしておきます。

続いて、香りと味を分解します。エキゾチックな香りと濃厚な甘さはマンゴー独特の香りでもあるのですが、私なりの官能方法で分解した結果、「胡麻油」「アプリコットリキュール」「レモングラス」「オレンジ」となりました。実際にグラスの中でこれらを合わせてみますと、熟したマンゴーの香りと味わいに近い物が出来ました。

次は余韻を作ります。これは独特の甘い香りとエキゾチックな香りを持つアジアのバニラ「パンダン・リーフ」をウォッカに浸けた物で、独特な余韻の香りを表現することが出来ないかと考えました。確認のため先ほどのテストカクテルの中に加えますと、マンゴーの持つ余韻に近い味わいを予想どおり与える事ができました。まずは、これで味わいの骨格が完成いたします。

最後に、食感を作ります。とろりとしたマンゴーの食感は、カクテルで表現するならばフローズンカクテルだと考えます。本来はクラッシュド・アイスを加えてブレンダーで作り上げていくのですが、濃厚な味わいと食感を表現したかったので、今回は液体窒素を使うことによってより凝縮した味わいと香りを作り上げていくことにいたしました。これにより、マンゴーの滑らかな食感を再構築します。

そして今回はペアリングでの再構築でもありますので、私が感じ取った味わいと香りの素材の中から「胡麻」をカクテルのレシピから抜き出し、甘さと油分を合わせるために中華デザートの胡麻団子をペアリングの料理として添えることにいたしました。さらに、卵の殻に見立ててホワイトチョコレートで作った器にカクテルを盛り付けて、お客様にはスプーンで割るワクワク感と、最高級のマンゴーとも言われる宮崎県産「太陽のたまご」をイメージしていただけるような仕掛けで、ペアリングとしての遊びも入れながら完成させます。

このカクテルは一年前から当店でもお出ししておりますが、多くのお客様が不思議な顔で「マンゴーだ!」とペアリングを楽しまれているようです。

このように「分解と再構築」でのペアリングは、他のお酒でも出来ると思いますが、様々な材料を加えることのできるカクテルだからこそ、より深いアプローチで表現ができるのではないでしょうか。少し難しいかも知れませんが、皆さんも身近にある食べ物を分解して再構築をするペアリングを考えてみて下さい。新しい発見がきっと見つかると思います。

カクテル:「Etrange」

  • エギュベル・クレーム・ド・アプリコット:30ml
  • パンダン・リーフ・インフュージョン・ウォッカ:30ml
  • オレンジジュース:30ml
  • レモングラス・ウォーター:30ml
  • 人参のグラッセ*1):50g

*1)人参のグラッセ

  • 人参 :1本
  • 白ワイン・ヴィネガー :30ml
  • 水 :500ml
  • スターアニス :1個
  • グラニュー糖 :100g

グラニュー糖以外を鍋に入れて、とろ火で煮る。人参に火が通ったらグラニュー糖を入れ水分が1/3になるまで煮詰める。粗熱をとり、冷蔵庫で一晩冷やして味わいを人参に染み込ませておく。

☆ホワイトチョコレートで作った卵の殻(2枚分)

  • ホワイトチョコレート :60g
  • 無塩バター :10g

材料をボールに入れて湯煎にかける(湯温は60度に保つ)。溶けたら卵型のモールドに刷毛で厚さ3mm位になるまで塗り、冷蔵庫で冷やし固める。固まったら割れないように気をつけモールドから外す。

☆胡麻団子

胡麻団子(市販の冷凍ものでも可)1個を直前に揚げておく。

仕上げ

カクテル材料全てをブレンダーにかけて、口当たりを滑らかにする為に裏漉してボールに入れる。液体窒素を材料にかけて、泡立て器で少し撹拌をしながら空気を含ませる気持ちで冷やし固める。

固まったら、ホワイトチョコレートの卵の殻に入れて、揚げたての胡麻団子を添えてスプーンとともにサーブする。

この記事を書いた人

井谷 匡伯
井谷 匡伯https://ameblo.jp/barnoage/
静岡県袋井市生まれ。地元で2000年にBAR NO'AGEを開店し、2007年に現在の静岡市へ移転。料理人を目指していた頃に培った、料理の技術とお酒に合わせて提供するスタイルを開店当初からベースとしている。様々な料飲専門書にローカル・カルチャーを基本としたカクテル・ペアリングを提案。現在も研究を推し進め、SNSを通じて様々な可能性を発信している。
井谷 匡伯
井谷 匡伯https://ameblo.jp/barnoage/
静岡県袋井市生まれ。地元で2000年にBAR NO'AGEを開店し、2007年に現在の静岡市へ移転。料理人を目指していた頃に培った、料理の技術とお酒に合わせて提供するスタイルを開店当初からベースとしている。様々な料飲専門書にローカル・カルチャーを基本としたカクテル・ペアリングを提案。現在も研究を推し進め、SNSを通じて様々な可能性を発信している。