今回も、お酒とチェイサーのペアリングになります。
前回のフードペアリングは、「ピート香がやや強めのシングルモルト・ウイスキー」と「金木犀ウォーター(茶葉の入っていない桂花茶)」とのペアリングでした。ウイスキーの乳酸菌発酵により得られる成分と、金木犀の香気成分にγ-デカラクトンが共通して含まれていることから発想したペアリングで、金木犀ウォーターによってウイスキーの余韻に膨らみがもたらされることを発見いたしました。
今回は、もう少しシンプルな形にして、日本古来より愛されるお茶をチェイサーとしたペアリングを考えていきたいと思います。
私の出身地がお茶の名産地である静岡県ということもあり、カクテルの素材としてお茶を数年前より取り入れてきました。お茶とアルコールとの相性には様々な発見があり、その中でも面白かった組み合わせをいくつかご紹介させていただきます。
Tea Pairing for Hard Liquor no.1
キルホーマン マキヤ・ベイ
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静岡産 深蒸し茶の水出し
抽出方法
水100mlに対して茶葉5g 急須にて1時間
可能であれば、小瓶を使ってワインの保存用真空器で真空状態にして行う
効果
キルホーマンは、アイラ島で造られるとてもピーティーな味わいのシングルモルトスコッチウイスキーです。キルホーマン・マキヤ・ベイの中にもフルーティーな味わいがあるのはプロフェッショナルな方々ならご存知でしょうが、一般の方にはあまり感じることができないかもしれません。これを水出しで抽出した深蒸し茶をチェイサーにして飲むと、ピーティーでスモーキーな中に隠れていたフルーティーな味わいが姿を現します。
初めに、そのままストレートでウイスキーを味わい、その後通常通りに水を飲みます。続いて深蒸し茶を飲んで、再度キルホーマンを口に含むとその違いがよくわかります。そして、そのままもう一度深蒸し茶を飲んでみてください。すると一気にキルホーマンのフルーティーな味わい、グレープフルーツや麦芽の甘味が余韻とともに爆発していきます。そして、お茶の持つ渋みがちょうどいいところで口の中を洗ってくれます。
これは、お茶をお湯ではなく水出しにすることで得られるテアニンという旨味成分がウイスキーの中にある旨味やシトラス系の味わいを浮き上がらせる役割を持っているからと感じております。
Tea Pairing for Hard Liquor no.2
ブッシュミルズ 10年
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埼玉県狭山産 深蒸し煎茶(ふくみどり)
抽出方法
温度70度のお湯70mlに対して茶葉4g 2分間
効果
アイリッシュ・ウイスキーの人気が高まる中、トロピカルな味わいを求めている方が多いかと思います。
確かにこの南国風味は魅力的ですが、本来のアイリッシュ・ウイスキーの持つハーバルでフラワリーなフレーバーを忘れてはいけません。このアイリッシュが持つ香りに余韻と甘味をもたらせるために選んだ茶葉は、埼玉県入間市で栽培されている「ふくみどり」です。
この茶葉はグレープフルーツピールのような、それでいて草原の中にいるかのようなハーバルで鮮烈な香りを楽しむことができます。このふくみどりを飲んだ後にアイリッシュ・ウイスキーを飲むと、驚くほどさわやかな香りと甘味を感じます。
南国感のある長熟のアイリッシュ・ウイスキーとのペアリングも面白く、ウイスキーを飲んだ後にふくみどりを飲むと南国フレーバーの中に隠れていたアイリッシュ・ウイスキーの香りが表に出てきて、より味わいのグラデーションを楽しむことができます。
Tea Pairing for Hard Liquor no.3
オールド・プルトニー 12年
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静岡産 釜炒り茶+乾燥みかんの皮
抽出方法
温度70度のお湯70mlに対して茶葉5g 2分間
効果
釜炒り茶は、茶葉の製造工程で通常行われる「蒸し」をせずに釜で煎ることによって勾玉状になる茶の製造方法の一つです。宮崎県など九州の地方でよく見られる製造方法ですが、静岡でも一部作られています。
この方法で作られた茶葉は香ばしく、花のような香りや余韻に柑橘系の香りがするものがあります。これをオールド・プルトニーを飲んだ後に口に含むと、プルトニーに花の香りが加わり、塩気のあるプルトニーによって花の香りと蜜柑の皮の香りが口の中で広がっていきます。海辺に咲く花々が満開になるような情景を彷彿とさせてくれます。これは口の中でカクテルを作るような口中調味の要素を含んだペアリングとなります。
Tea Pairing for Hard Liquor no.4
アードベッグ10年
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高知県 碁石茶
抽出方法
温度70度のお湯60mlに対して茶葉一枚 2分間
効果
碁石茶は、高知県で栽培されている後発酵茶というものです。これは紅茶の発酵とは違い、乳酸菌発酵を施した酸味や独特な癖を持つお茶になります。
後発酵茶には碁石茶の他に、富山のバタバタ茶、徳島の阿波番茶、愛媛の石槌黒茶があります。中国でいうプーアール茶がこの後発酵茶「黒茶」になります。今回は、この碁石茶とアードベッグ10年とのペアリングです。アードベッグは大変にスモーキーで、ヨード香が強いウイスキーとしても有名ですが、このアードベッグにラズベリーやクリーミーな味わいがあることを見つけられるでしょうか?
碁石茶を飲んだ後にアードベッグを飲むと、このラズベリーの香りやクリーミーな味わいをよりはっきりと感じることができます。そして驚くほどの甘さをウイスキーに与えてくれます。これは、フード・ペアリングでいう製造工程の中でのペアリングとも言えると思います。
アードベッグは木桶発酵槽であるため、ウォッシュが乳酸発酵より与える味わいが強いウイスキーでもあります。同じ乳酸菌による発酵をさせた黒茶との相性がいいことは、今までのペアリングの理論の中でもわかりやすいのではないかと思います。
また、黒茶はやや土っぽい味わいがします。これがピート香とリンクして、より一層アードベッグの味わいに膨らみをもたらす効果があります。
お茶とウイスキーのペアリングまとめ
チェイサーとしてのTea Pairingは、ウイスキーに限らず、まだまだ多くの組み合わせを発見しております。
今回はウイスキーに焦点を当ててご紹介をしましたが、カルヴァドスやコニャック、バーボン、テキーラ、ジン、ウォッカと組み合わせには枚挙にいとまがありません。また徐々にご紹介をさせていただきますが、当店にお越しのインバウンドの方々にも大変にご興味を持っていただき、楽しんでいただけることに日本人としての喜びと可能性を感じております。
中国ではウイスキーのお茶割りが人気を博しているとも聞きますが、割り材としてではなく、お茶を飲みながらBARという空間で洋酒を飲むという、新しい文化が芽生えてくれたらこの上ない喜びです。是非一度、お試し頂けましたら幸いです。
次回は、バーテンダーとしての「モクテル(ノンアルコールのカクテル)」をチェイサーとした場合のペアリングをご紹介させていただきます。