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桜尾蒸留所 訪問記:地元広島産ボタニカルと日本らしい味わいのウイスキー

広島県の西南部、広島市内から宮島へ向かう途中、廿日市にその蒸留所はある。駅を降り、海に向かってゆっくり10分ほど歩くとお洒落なヨットハーバーにたどり着く。その奥の白壁に黒文字で「SAKURAO DISTILLERY」と書かれた建物。ほんのりと潮風を感じ、まるでアイラ島にテレポートしたかのような錯覚に陥る。

広島から世界へ

中国醸造は1918年(大正7年)にアルコール製造会社として創業。原料などを船で輸送するため、この海沿いの立地になった。1963年(昭和38年)には清酒製造を開始し、「一代弥山シリーズ」や発泡性日本酒、広島カープラベルなどをリリースしている。さらに焼酎も甲類「ダルマ焼酎」のほか、乙類の芋や麦も製造するように。ウイスキー製造は昭和40年代になってからだ。

創業100周年事業の一環として洋酒造りにより注力するため、2017年にホルスタイン社製ハイブリッドスチル1基を導入し、本格的にウイスキーやジンの製造を開始。2019年にもう1基ウイスキー初留用のスチルを導入し、現在は2基にてモルトウイスキー製造を行っている。

2021年に社名を中国醸造からサクラオブルワリーアンドディスティラリー(サクラオB&D)に変更。より世界を目指しての改名だ。

3つの棟

敷地内にはウイスキー・ジン用に3つの棟がある。通りから見えた棟はセラー、そこから海側へ向かってグレーンウイスキー製造棟、一番奥にモルトウイスキー&ジン製造棟となっている。建物正面と屋根は黒色だが、もともとは建物全体を黒にしたかったようだ。しかしこの地は瀬戸内海気候で、年間を通じて雨は少なく温暖、夏は暑いため、遮熱塗料を施し側面は白壁とした。そのため、見た目はアイラのような印象になったとのことで、真似したわけではないらしいが……否めない感はある。

ローカルボタニカル

クラフトジンといえば、その土地ならではのローカルなボタニカルを使用することで、オリジナリティや個性を表現できるのが魅力だ。桜尾ジンでも地元広島産のボタニカルにこだわっている。

スタンダードな「SAKURAO GIN ORIGINAL」では、海外から取り寄せたジュニパーベリーなど基本となる5種類のボタニカルのほかに、柑橘類を中心に広島産のボタニカルを9種類使用している。

さらにそのプレミアムとして、ジュニパーベリーを含むすべての原料を広島産にこだわった「SAKURAO GIN LIMITED」もリリースしている。これには桜の花やクロモジ、木の芽、ワサビなど日本らしいボタニカルを使用しており、注目すべきはジュニパーベリーも広島産であること。多くの蒸留所ではマケドニア産を使用しているが、国内産は成分が異なるそうだ。基本的にジュニパーベリーは乾燥した状態で輸入されるが、国内産の場合は乾燥前のフレッシュな状態でも使用でき、さらに葉や茎なども使用できるため、より複雑な香味をもたらすことができる。国内でも自生しているが、栽培は難しいようだ。5~8mの低木ではあるが、10年経たないと実はならない。緑色の実は熟すと黒くなるのだが、完熟までもかなり時間がかかる。そのため収穫の際に選果が必要となり、手摘み作業もしくは樹木を揺らして落としての選果となるがその場合はロスが多くなってしまう。桜尾でも栽培しており、7年目で樹高1m程度だという。

その他にも夏限定品として「SAKURAO GIN HAMAGOU」もリリースしている。ハマゴウは真夏の浜辺に紫色の花を咲かせる、爽やかな香りの植物。世界遺産宮島に自生しているハマゴウをボタニカルとして用いている。

ベーススピリッツには、沖縄など国内の島々で育ったさとうきびを原料として造られる「しまきび(アルコール95%)」を使用。

蒸留は全てのボタニカルを仕込むバッチ式で、原酒ブレンドは行っていない。

モルトウイスキー製造におけるハイブリッドスチルの可能性

モルトウイスキーは、その都度もろみを蒸留器に入れ蒸留するバッチ式にて製造する規定があり、多くの蒸留所ではポット型の蒸留器を使用している。

近年のマイクロ蒸留所の台頭により、容量の小さい密造時代様のひょうたん型の蒸留器も用いられるようになった。スコットランドのストラスアーン蒸溜所や日本の長濱蒸溜所などがその例だ。

さらに連続式蒸留機で用いられるカラムをポットに組み込んだハイブリッドスチルも使用されるようになってきている。この蒸留器はジン製造で多く用いられており、モルトウイスキーでの使用はあまりない。台湾のカバラン蒸溜所など、いくつかの蒸留所で試されたが、商品化に至ったものは多くない。桜尾蒸留所ではこのスチルを使用しているのだが、その可能性を示してくれるだろうか。

1回の仕込みに使う麦芽は1トンで、ノンピーテッド麦芽とヘヴィリーピーテッド麦芽(50ppm)を使用している。その多くはスコットランドの製麦工場(クリスプ、マントン、ベアーズなど)から輸入しており、一部はオーストラリア産だ。

糖化槽はステンレス製セミロイタータン(ハンガリー・バーバリアン社製)で、麦汁約4500リットルを得る。

発酵槽もステンレス製(同社製)で容量約5700リットルが3基(今後増設予定)あり、1仕込み分の麦汁を張り込む。ディスティラリー酵母を使用。

初留は新設したハイブリッドスチル(ホルスタイン社製・容量5500リットル)に5000リットルのもろみを張り込み行う。

再留用のハイブリッドスチルは容量1500リットルで、蒸留時はカラムも使用する。2基のハイブリッドスチル本体はどちらも銅製で、冷却器(コンデンサー)のみステンレス製。

樽詰めは当初60%にて行っていたが、現在は63%になった。

熟成は桜尾蒸留所内ウェアハウスと、蒸留所から北へ25kmほどの戸河内のトンネル内で行っている。

戸河内は中国地方の中心部を貫く中国自動車道沿い、中国山地の山あいにある。海沿いと山間部という異なる熟成環境にて熟成させることで原酒に幅をもたせている。これを体感できるのが、2021年7月にリリースされた「シングルモルトジャパニーズウイスキー桜尾1st Release CASK STRENGTH」と「同・戸河内」。3年というやや短い期間ではあるが、その香味には相違が見られ大変興味深いウイスキーとなった。冷涼気候である戸河内ではきれいに熟成が進むため、バーボン樽ファーストフィルのみを使用したという。一方、桜尾は様々な樽で熟成させた原酒のほか、ピーテッド麦芽で仕込んだ原酒もブレンドし、複雑でふくよかなウイスキーに。また、2022年6月に第2弾「シングルモルトジャパニーズウイスキー桜尾43%」「同・戸河内」もリリースされている。

他に類を見ないグレーンウイスキー

日本のマイクロ蒸留所では今のところ唯一であろうか・・・・・・。桜尾蒸留所ではグレーンウイスキーも製造している。一般的にグレーンウイスキーは連続式蒸留機にて製造し、一度にライトな酒質の原酒を大量に得ることを目的とするのだが、ここではモルトウイスキーと同じように2基の蒸留器を使ったバッチ蒸留で行っている。

主原料は国産大麦(丸麦)で、殻を35%削ったものを使用。もともと大麦焼酎の知見があり、国産原料としては大麦のほうが有利なようだ。これに糖化剤として1割の大麦麦芽を加える。各原料はハンマーミルで粉砕。1バッチに1トンの大麦を使用し、1日3仕込み行っている。粉砕した原料を湯と合わせてかゆ状にし、冷却後、糖化・発酵を行い蒸留となる。初留は焼酎で用いられているのと同型のステンレス製蒸留器で、減圧にて蒸留を行う。再留にはステンレス製の円筒型タンク(バーボンで用いられているダブラーに似た形状)にホルスタイン社の銅製コラムを組み合わせた独自の蒸留器を用いている。樽詰めアルコール度数はモルトより少し高く、パラタイズ式で熟成を行っている。

ウイスキーはまだまだ試行錯誤中

まだ3年熟成品も少なく、安定的に製品をリリースするのは少し先のことになるようだ。ウイスキーはまだ読めないことが多いのだが、日本らしい味わいに仕上げるのを目標にしているとのこと。

モルトウイスキーのほかに、バッチ式ではあるがグレーンウイスキーも製造しており、キリン富士御殿場蒸溜所同様、「単一蒸留所ブレンデッドウイスキー」のリリースも楽しみだ。

現在のところ大麦麦芽は輸入品であるが、国産大麦麦芽を使用することで、すべての原料を国産としたブレンデッドウイスキーも計画しているようで、こちらも楽しみにして待ちたい。

この記事を書いた人

谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。