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コラムウイスキーコラムクライヌリッシュ 14年 ...

クライヌリッシュ 14年 46% Re:オフィシャルスタンダードテイスティング

ご無沙汰しております。
現行品のオフィシャルスタンダードリリースにスポットライトを当て、その変化や魅力を様々な視点から紹介してきた本コラム。
更新が(非常に)暫くぶりとなってしまいましたが、この暫くの間にウイスキー市場はシングルモルトの更なるブランド化が進み、大手、クラフト含めて様々な蒸留所から魅力的なリリースが数多く誕生しています。

しかしボトラーズリリースに目を向けると、2024年現在から5年弱の間であっても、長期熟成原酒の枯渇や、原酒供給が行われなくなった(あるいは限られた)蒸留所も増えたことで、価格高騰と共にリリース数の減少、シークレット表記のリリースが増え、かつてはありふれた銘柄がいつの間にか稀有なものとなっているという市場変化も、昨今の代表的な傾向の1つ。
今回取り上げるクライヌリッシュ14年は、まさに上述の変化に当てはまる代表的な銘柄であり、今飲むべきオフィシャルリリースの代表格と言える1本です。

クライヌリッシュ14年 2023年ロット テイスティングコメント

ややドライで麦芽の香ばしさを伴うスパイシーなトップノート。続いて洋梨やすりおろした林檎を思わせる白色果実、微かに青みがかったニュアンスも。
口当たりは甘くとろりとしてオイリー。麦芽、蜂蜜、洋梨を思わせるワクシーな風味が広がる。余韻はほのかにスパイシー、麦芽風味の残滓が若干の野暮ったさ、ほろ苦いウッディネスが甘みを引き締め長く続く。ハイボールにしても香味は伸びて柔らかい麦芽の甘さが悪くない。

クライヌリッシュ蒸留所について……は、専門書籍から酒系WEBサイトを中心に多数紹介されています。本コラムではブローラ蒸留所の経緯とか、愛好家にとっては親の名前より見たであろう、擦られまくった話を再度擦ることはしませんが、全カットでは話が繋がらないので要点だけ紹介します。

現在のクライヌリッシュ蒸留所の稼働は1967年、基本的にはジョニーウォーカーを中心としたDCL社(現ディアジオ社)傘下のブレンデッドウイスキーの、中核的な構成原酒としての役割を果たしてきました。
蒸留所設立の経緯は、1960年代のアメリカ市場でのウイスキー需要増といった背景から。当時の先端的な設備を導入し、ポットスチルは6基(初留容量25,060ℓ、再留容量26,241ℓ)、年間生産量は約350万ℓという記録が残っています。これは旧クライヌリッシュ蒸留所、所謂ブローラ蒸留所のスチルが初留、再留とも13500ℓで1基ずつだったことを考えると、ポットスチルの容量だけで見ても10倍以上の生産力を持つ設備だったことになります。

当時、DCL社はクライヌリッシュ蒸留所以外に、リンクウッドやグレンダランなども新しい設備を建設するなど、グループ全体で積極的な増産に動いていましたが、1970年代後半に入りウイスキーの需要が低迷し始めたことで傘下蒸留所の見直しや原酒調整が行われ、これがいくつかの閉鎖蒸留所を生み出すと共に、ブレンドメーカー、ボトラーズメーカーに提供された原酒が後の様々なリリースに繋がることとなります。

クライヌリッシュ蒸留所外観 Photo by K67

2002年、ディアジオ社のブランド戦略によって、傘下蒸留所のシングルモルトが展開されるようになる中、クライヌリッシュのオフィシャルリリース・シングルモルト14年が発売。
しかし当時はシングルモルトブームの兆しがあったとはいえ、基本的にはブレンデッドウイスキー全盛の時代。ブランド確立はこれからという時期でしたので、このリリースは特段大きな話題になるものではなかったと言えます。

一方、ウイスキー需要低迷の時代、大手メーカーから他社に対して供給されていた原酒が、2000年代以降ボトラーズブランドで様々な仕様のシングルモルトとしてリリースされるに至り、愛好家を中心に一定の知名度を持つようになっていきます。
勿論、ブローラ蒸留所の姉妹蒸留所という位置づけも、認知のきっかけを担ったことは間違いありませんが、中でも1972年、1982年、1993年等のビンテージの原酒が特に高く評価された結果、その評価を確たるものとしたことに異論の余地はありません。

クライヌリッシュと言えば、ワクシーなフレーバーが個性の1つとして挙げられます。
ワクシーを別の表現にするならば、例えば塩も醤油も加えていない、プレーンなお粥を食べたときのような少しのっぺりとしたような穀物由来の甘さに近いですね。
なぜクライヌリッシュ蒸留所のリリースにその個性が備わっているのかと言えば、それはポットスチルのネック部分を洗浄しないからという説、あるいは製造設備の違いによるものという説、いくつかの説があります。このワクシー系統の麦芽風味は、大量生産時代前の内陸蒸留所で多く見られた個性であることから、設備がベースを造り、洗浄しないという点がそこに独自の“らしさ”をもたらしているのでは……と予想していますが、真相ははっきりとしていません。

さて、若い熟成年数の原酒では、このワクシーなフレーバーは多少の青臭さ、あるいは野暮ったさに通じるところがありますが、熟成を経ていくなかで樽由来の要素と混ざり合い、蜂蜜からオレンジなどの柑橘類、洋梨、苺、様々な果実を連想させる複雑な香味へと変化していきます。
一定の熟成年数を越えたクライヌリッシュの魅力は、単にワクシーというだけでなくその複雑さと香味のスケールにあると言っても過言ではないでしょう。一方で、若いクライヌリッシュは魅力に欠けるかと言うと決してそのようなことはなく。蒸留所限定でリリースされているシングルカスクなど、洗練されつつもワクシーな風味とオーク由来のバニラや柑橘を思わせる要素が混ざり合う、香味に一本筋の通った銘酒であると言えます。

クライヌリッシュ蒸留所限定 12年 57.5% ハンドフィルボトル

さて、なぜクライヌリッシュ14年が今飲むべきオフィシャルボトルの代表的な1本かと言えば、それは上述のハウススタイルをしっかりと踏襲し続け、量産品でありながらも同じベクトル上にある香味が主体的なリリースであることと、昨今のクライヌリッシュを取り巻く市場動向が大きく変化したことにあります。

世界的なウイスキー需要増、そして公式ブランドとしてのシングルモルトのブランド化が進んだことで、クライヌリッシュのみならず様々な蒸留所からの他社への原酒提供が行われなくなった、または非常に限られた量となった結果、かつては専門店に行けばありふれたリリースだったクライヌリッシュは、その個性を纏うボトルが滅多に市場に出てこなくなりました。

最近ではシークレットハイランド表記で「実はクライヌリッシュらしい……」とするリリースが見られますが、率直に言ってこの手のリリースは本当にクライヌリッシュであるか疑問符がつくものが多数あります。
特に違いが目立つのは2000年蒸留のもの。それはまず、クライヌリッシュのリリース全般に備わっているワクシーな個性が見られず、枯れた草や和紙、異なる傾向の香味のものが目立つこと。さらには20年を越える熟成のシングルカスクリリースでありながら、樽のスペックとボトリング本数の相関が成り立たないことが、疑問の理由として挙げられます。
確かに前者だけであれば「ハウススタイルと違う原酒が出来てしまったから、ボトラーズに売った」という説明も成り立つでしょう。
しかし特定のボトルを指すものではないですが、例えばホグスヘッド樽(約250ℓ)のシングルカスクの無加水リリースで、ボトリング本数350本というような、樽の容量とボトリング本数の間にエンジェルズシェアを無視したリリースが見られるのも特徴であり、何かと疑問を感じてしまうわけです。

G&M クライヌリッシュ 1972-2016 果実や洋菓子の複雑さと枯れたような要素、最後の飲み頃と言える1本

確かに、30年~40年という長期熟成を経たクライヌリッシュがもつ、ワクシーなフレーバーに溶け込んだ複雑な香味は時間の芸術と言えるものです。1年に数本程度リリースされるクライヌリッシュの名を冠したリリースは非常に高額であり、どうにか近いものをとシークレットリリースに手を出す愛好家の気持ちも非常に良くわかります。
ですがここで原点回帰し、オフィシャル現行品の14年を飲んでみてください。確かにまだまだ粗削りなところはありますが、ちゃんとワクシーで、そして大器の片鱗たる複雑さ、果実味も備わっています。
なるほど、青い鳥ならぬ山猫は案外身近にいたのか。注ぎたてはちょっと硬さ、あるいは野性味とも言える野暮ったさがありますが、何と言っても“山猫”ですからね!

この記事を書いた人

くりりん
くりりんhttp://whiskywarehouse.blog.jp/
1984年生まれ、東京都出身。22歳の頃にウイスキーに惹かれ、以来琥珀の世界の住人となる。2015年、ウイスキーレビューを主としたブログ「くりりんのウイスキー置場」を開設、レビュー数1500本、月間約30万PV の媒体に成長。現在も日々レビューを更新する傍ら、ニューリリースやカスクサンプルの評価に関わることも。
くりりん
くりりんhttp://whiskywarehouse.blog.jp/
1984年生まれ、東京都出身。22歳の頃にウイスキーに惹かれ、以来琥珀の世界の住人となる。2015年、ウイスキーレビューを主としたブログ「くりりんのウイスキー置場」を開設、レビュー数1500本、月間約30万PV の媒体に成長。現在も日々レビューを更新する傍ら、ニューリリースやカスクサンプルの評価に関わることも。