オーセンティック・バーをより楽しむための基礎知識
カジュアルなお店と比べて、オーセンティック・バーでは多少マナーが求められます。お店によってその度合いは異なりますが、より楽しむために心がけておきましょう。
入店前に
TPOにあわせてどのようなお店に行くか決めましょう。大勢でワイワイするのか、一人でお酒を楽しむのか、そのときの状況によってマッチするお店は変わります。カジュアルなのか、オーセンティックなのか、まずはSNSなどで情報を確認しましょう。
Q、バーに入る時の服装は?
A、あまりカジュアル過ぎるのはNGです。短パンやサンダルは好ましくありません。できれば男性は襟付きのシャツが良いでしょう。お店によってはドレスコードもあります。
Q、人数は何人まで大丈夫?
A、バーは基本的にカウンター席が主体ですので、数名までといった人数制限のあるところが多いです。全員の飲み物を一度に提供するため、またどうしても声が大きくなることが多いため、団体のお客様はお断りされることがあります。
Q、バーの料金はどれくらいなの?
A、スタンダードなウイスキーやカクテルは1杯1000~2000円程度です。これにチャージやサービス料がつくお店では、2杯頼むと3000~5000円程度になります。また最低料金(ミニマム・チャージ)が設定されているお店もありますので、1杯だけでも数千円かかることがあります。
Q、チャージ、サービス料って?
A、チャージは席料のことで、居酒屋と同じように軽いお通し(ナッツやチョコレートなど。お店によっては、1プレートの前菜をご用意しているところもあります)がついてくることが多いです。通常、チャージ料は500円~千円前後、サービス料は5~10%程度です。これらは、お客様によりゆったりとした時間を提供し、ご満足いただくため、グラスや備品などを含めた空間を維持するための費用ともいえます。
Q、カードは使えるの?
A、多くのお店ではカードが使えますが、念のため確認しましょう。決済手数料・5%前後をお店が負担することになりますので、小額の場合は現金での支払いが望ましいです。
Q、予約はできるの?
A、お食事と違い、お客様がどれくらい滞在されるかが読みにくいため、お断りされるかもしれません。ただ、「これから10分後に○名で伺いますが、いかがでしょうか?」といった直前の時間で、人数もはっきりしていれば対応してもらえると思います。
また、電話については注意が必要です。バーによっては一人で営業しているお店もあります。電話対応でお客様との会話やお酒の準備を中断することになりますので、あまり頻繁にかけたり、長話はしないほうが良いでしょう。
入店時
バーの扉を開けて入店すると、バーテンダーが声をかけてきますので、入り口で誘導されるまで待ちましょう。
Q、荷物はどうするの?
A、足元に置きましょう。カバンなどの荷物を隣の席に置く際は、バーテンダーに一言断りましょう。底にビスのあるカバンは、靴と同じ扱いになりますので床に置きます。テーブルの上にはタバコ程度にして、あまり物は置かないようにしたいですね。
PCやタブレットなどは、そのライトがお店の雰囲気と合わないことがありますので、使用するときはバーテンダーに確認をとりましょう。動画を再生する際の音声は、他の方にとっては耳障りになりますので、消音にするか、再生自体を控えましょう。
お客様のいない席は、空いているから自由に使ってよいという訳ではありません。次に来るお客様のための予約席という感覚が必要です。席数の少ないバーでは、お互い譲り合って楽しみましょう。
Q、テーブル席がいいのだけど……
A、その旨をバーテンダーに伝えてください。バーによっては、テーブル席はあくまで予備席で断られる場合もあります。オーセンティック・バーの醍醐味はカウンター席です。人数が多くテーブル席を希望するのであれば、少しカジュアルなお店に行かれる方がよいでしょう。
オーダー
席に着くと、タイミングを見てバーテンダーがオーダーを取りに来ますので、バックバーなどを見ながら待ちましょう。バーテンダーは順番に対応していますので、声をかける必要はありません。
Q、メニューが出てこないのだけど……
A、オーセンティック・バーでは、ドリンクメニューがないお店もあります。席に着き、待っている間に何を頼むか考えましょう。とりあえず「ハイボール」や「ジントニック」などが定番です。
お勧めを聞くのも良いですが、カクテルなのかウイスキーなのかなど、ある程度絞っておきましょう。「私をイメージしたカクテルを……」という方もいますが、初対面では情報が少ないのでバーテンダーは困ってしまいます。
バーでは、新たなお酒との出会いも魅力のひとつです。好みや飲みたいもののイメージを伝えて、バーテンダーと対話して決めるのもよいでしょう。メニューがない理由のひとつは、このためでもあります。
Q、何か食べるものは?
A、フードが充実しているお店はメニューが用意されていますので、確認して注文しましょう。メニューがないお店では、口頭で教えてくれます。
Q、二杯目を頼むタイミングが難しいのだけれど……
A、軽く手を挙げるか、バーテンダーが近づいたときに声をかけましょう。他のお客様のお酒を用意している場合は、コースターから開いたグラスをバーテンダー寄りに出しておけば、注文を取りに来てくれます。
お店によっては飲み終わるとすぐに次の注文を取りに来るところもあります。まだ何を飲みたいか決まっていない場合は、「少ししたら注文します」と断わっても大丈夫です。何を飲みたいか決まったら、バーテンダーに声をかけましょう。
バータイム中
ゆっくりと自分のペースでお酒を楽しむのが基本ですが、お店や他のお客様に対して迷惑をかけないように配慮しましょう。
「自分はお客様なんだから……」
「お金を払うんだからいいだろう……」
というのは好ましくありません。
バーは大人の空間ですので、他人を思いやる気持ちを持って楽しみましょう。混んできた時は、まだ飲みたくても切り上げて、他のお客様に席を譲りましょう。お店を数軒回るバー・ホッピングも楽しいですし、時間を空けてまた訪れてもよいですね。
楽しくなると、ついつい声が大きくなりがちです。手をたたいたり、大笑いしたり、バーはワイワイと楽しむ居酒屋とは異なります。またカウンターを叩いたり、椅子に反り返って座ったり、大きく足を組んだり、靴を脱いだりは止めましょう。場合によっては注意されることもあります。それなりの緊張感を持って楽しんでください。
Q、バーテンダーに好かれるスマートな飲み方は?
A、1杯で長居をするのはよくありません。バーは喫茶店ではないので、それなりのペースで、それなりの杯数を飲むようにしましょう。1杯30分程度で、2~4杯を楽しむのがよいでしょう。あまり長居をするのではなく、2時間程度で切り上げましょう。
もちろん1杯で帰っても構いません。無理に飲む必要はありませんので、バーテンダーに「お酒が弱い」「時間がない」など伝えて下さい。何も言わないで帰られると、バーテンダーはあまり満足してもらえなかったのではと考えてしまいます。
逆にあまり杯を重ねるのも好ましくありません。明らかに飲み過ぎな場合は止められることもあります。
酔っぱらうのではなく、ほろ酔いで楽しみましょう。カウンターで寝たり、トイレで吐いたりするのは論外ですので、気を付けましょう。
Q、ボトルが目の前に置かれたのは、なぜ?
A、今何を飲んでいるのか、把握できるように置かれています。決して勝手に注いでよい訳ではありませんし、触ってもいけません。ラベルなどを見たい場合は、断ってから見るようにしましょう。高価な場合やオリがある場合などもありますので、あまり揺らしたりしないようにしましょう。
「香りを嗅ぎたい」という方もいますが、キャップを開けて鼻を近づけるのはNGです。他の方がそのようにしたボトルのお酒を、飲みたくないと思う方もいらっしゃいます。
このボトルは「あなたのモノではなく、お店のもの」ということを認識しましょう。
Q、ボトルの写真を撮りたい!
A、お店によっては、ボトルの撮影がOKなところもありますので、バーテンダーに確認をしましょう。
ただ、店内でのお客様同士の写真撮影はNGな場合があります。他のお客様が写る可能性があるからです。携帯などで簡単に写真が撮れる時代ですが、他のお客様への配慮が必要です。
Q、「乾杯!」って、しちゃいけないの?
A、バーによっては、数万円する高価なグラスを使っています。バーの非日常性を表すひとつの例です。当然ですが、割らないように気を付けましょう。乾杯の際は、グラスを掲げるだけにして、グラス同士を当てないようにしましょう。
グラスが割れてしまっても、バーとしては請求できない場合が多いのです。実際の飲み代よりもグラスの方が高価な場合があるからです。ただ、わざと割ったと判断された場合は請求されることがありますので、注意しましょう。
Q、たばこは吸えるの?
A、入り口に禁煙か、喫煙可能か、表示をするように定められています。吸えないお店が多くなってきていますので、確認しましょう。
同席者に気を使って、灰皿などを隣の席寄りに少し離してお吸いになる方がいます。同席者よりも他のお客様に気を使いましょう。気を使われるなら、お吸いにならないのもマナーとしてよいのではないでしょうか。隣のお客様に断るなどもマナーですね。
Q、隣のお客さんに話しかけてもよいの?
A、むやみに話しかけるのは、やめましょう。一人で楽しみたい方もいることを踏まえて、様子を見て対応しましょう。
バーに一人で行くには、一人でもバータイムを楽しめるメンタリティーが必要です。一人の方にはバーテンダーが話し相手になりますが、混んでいるときはなかなか相手ができません。手持ち無沙汰になる方もいるでしょう。不安な方はお友達と一緒にお越しいただければと思います。
一人でバーを楽しめるようになれば、もう大人の酒飲みです。一人だけど寂しくない居心地の良い空間、リフレッシュできるこの上ない時間を楽しめていることでしょう。バーの魅力を十分に堪能していますね。
会計
飲み終わったら、会計です。支払いが済んだら、忘れ物など無いか確認し、速やかに退出しましょう。バーテンダーに他のお客様へ対応をする時間や余裕を与えられるといいですね。その後も長々と話をしているのはNGです。それならば、もう1杯頼みましょう。
最後に
いろいろと面倒なマナーを挙げてきました。堅苦しい感じで、「バーはいいや!」と思われたかもしれません。ただ、他のお客様やお店への心配りができるかどうかだけなのです。これはバーに限らず、すべての対人関係の基本だと思います。「より楽しむためには、相手の気持ちを察して対応する」ということです。
バーの雰囲気は、お店だけでつくれるものではありません。お客様のご協力もあって、初めて至高の空間が出来上がるのです。そのため、バーテンダーとの相性も係わってきます。どんなに評判の良いバーであっても、あまりピンとこないということもあるでしょう。ご自身のフィーリングに合って、心地よい時間を過ごせると感じるお店を探してください。
そこがあなたにとってのマイ・バーになるのです。
ちょっと一息
バーテンダーが語るバーのマナー、いかがでしたか?
だいぶ辛辣なことを言ってしまったかもしれません。
バーって、ちょっと面倒くさいかも……そう思ったあなた、もうちょっとお付き合いください。こんなに素敵な場所へ行かないなんて、勿体ないですよ。
さて、小誌でもおなじみ『バーへいこう』から味香と凛に登場してもらいましょう。
凛
初めてバーに行ったときのことって、覚えてる?
味香
それはもう。お酒の名前も種類も知らないし、バーのマナーもわからない。すごく緊張したんですけど、初めてだって伝えたらバーテンダーさんがとても丁寧にいろいろと教えてくれました。
凛
私は上司に連れて行ってもらったの。大人の世界を垣間見た気がして、すっかり虜になっちゃった。知らない、慣れていないことを正直に伝えたほうが、楽しめるよね。
味香
バーはほかの飲食店と比べてちょっと異質じゃないですか。お酒が中心、店内が外からよく見えない、メニューを置かないお店が多い、価格もよくわからない。その上マナーも厳しそう。入りづらいことこの上なしなのに、人はなんでバーに行くのかなって思ってました。
凛
一番は出会いだよね。お酒との出会い、人との出会い。普通に生活していたら絶対に会えないような人に会えたり。
味香
そういえば凛さん、好きな作家さんとバーで隣同士になったんですよね。
凛
お酒の神様が引き合わせてくれたのかな、って本気で思っちゃった。嬉しくて、その後バーを何軒もハシゴしたなぁ。
味香
ハシゴできるのも、バーの良いところですよね。
凛
レストランはハシゴできないからね。気に入っているバーで、次のバーを紹介してもらうとほぼ間違いない。
味香
競合店なのに、ためらいもなく紹介するから最初はびっくりしました。
凛
それだけ繋がりが強いんだろうね。カクテルコンペでもライバル同士だったりするけど、競った仲だからこそ、みたいなのもあるのかも。味香ちゃんは、ここ数年でかなりのバーをまわったんじゃない?
味香
本当に多種多様なバーがありますよね。これだけあれば、自分に合うバーが必ず見つかる。
凛
ほかの飲食店なら「味」や「雰囲気」が重視されるんだろうけど、バーは人柄もかなり大事だよね。
味香
バーテンダーさんとの相性ですよね。こんなに向き合って会話しながら飲食するお店ってないし、家族や友達よりも私の日常を知っているかもしれない(笑)。
凛
良いことがあった日も、悪いことがあった日も、なんかふらふら~っと行っちゃうのよね。
味香
良い時はお酒がさらにいい気分にさせてくれるし、悪い時はお酒が流してくれる。
凛
そんな日は飲み過ぎて、若い頃は結構失敗したよ。
味香
凛さんが⁉
凛
カウンターで寝ちゃったり、まぁいろいろと。でも、バーテンダーさんや常連さんが助けてくれて、少しずつバーのマナーも覚えたの。
味香
マナーといっても、周りへ配慮することを考えれば自然と理解できますよね。
凛
ハードルが高い、なんて怯えずに若い人もどんどんバーへ行って欲しい。食後もいいけど、食前の待ち合わせにバーを使うとか、格好いいじゃない。
味香
自宅で飲む人が増えていますけど、たとえ家で同じお酒を注いで飲んだとしても、何かが違うんですよね。
凛
流れる音やグラス、バーテンダーさんやほかのお客さんとの会話が入り交じってその味わいが出るんだと思う。
味香
あ~、バーへ行きたくなってきた。
凛
バーへ行こう!