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カクテル・ヒストリア第27回『「知られざる」カクテルを知る愉しみ』

「日本ではあまり見かけない」カクテルに人気が……

この連載の第19回で、私は「日本と世界、人気カクテルはなぜ違う」というテーマで執筆した。記事は、日本のバーでの人気カクテル・ランキングには、この40~50年ほど、ほとんど変化がないのに対して、欧米の人気ランキングは2000年以降、その顔ぶれがかなり変わってきていること、その理由・背景は何かを解説したものだった。

欧米のカクテル専門WEBサイトでの人気ランキング調査(2019~22年分)。ベスト50には、日本で馴染みのないものが多い

その記事の中でも触れたが、海外では2000年以降、なぜか「クラシック・カクテル」に再び光が当てられ、再評価されるようになっている。欧米の大都市のカクテルバーでは、クラシック・カクテルを発掘し、21世紀のアレンジ(ツイスト)を少し加えて、蘇らせる試みが盛んだ。

この傾向は、欧米の人気カクテル・ランキングでも同様で、近年では、日本のバーでは注文されることが少ないネグローニ、オールド・ファッションド、サゼラックなどというクラシック・カクテルが上位に目立つという現象が続いている。とくに興味を惹かれるのは、日本のバーではほとんど提供されない、聞いたこともないようなカクテルがランクインしていることだ。

「斬新さ」「複雑さ」を競い合うことへのアンチテーゼ?

なぜ、欧米で「クラシック・カクテル」が再評価されるようになったのか。一つには近年、材料や手法が斬新な「モダン・カクテル」が増えて、味わいが複雑になりすぎたことへの「アンチテーゼ」とも言われている。欧米では現在、100年ほど前に出版された古いカクテルブックの復刻版刊行が盛んだ。古い文献の中から「現代に生かせるヒント」を探そうというバーテンダーが増えているのかもしれない。

先日のこと。私は、ある日本人バーテンダーの方から、「海外のバーでよく注文されるカクテル、あるいは近年注目されているカクテルで、日本のバーの現場でも知っておいた方がいいものは何ですか?」という質問を受けた。そこで、長年カクテル史を研究してきた立場もあり、僭越ながら、「(日本での)知名度は低いけれども、プロとして知っておくべきカクテル」を、独自?の視点で選んでみた。

選考するにあたって重視したのは、最近の欧米でのトレンドである。近年の人気カクテル・ランキング調査だけでなく、WEBのカクテル専門サイト、有名バーでの提供メニュー、近年のカクテルブックでの収録内容等々、可能な限りのデータを丁寧に集めてみた。なかには、「エスプレッソ・マティーニ」のように、1980年代以降に登場して人気が定着し、「モダン・クラシック」としての地位を確立したものも少なくない。

1980年代に誕生した「エスプレッソ・マティーニ(Espresso-Martini)」は、今や「モダン・クラシック」の代表作の一つ

「とくに覚えておいてほしい」12のカクテル

選んだ約70個のカクテルは、日本のバーではほとんど注文されることがないものが多く、バーテンダーでも知らない人が多いかもしれない。すべてのレシピをここで紹介することは出来ないが、この中で、近年欧米のバー・シーンに頻繁に登場する「(私が)とくに覚えておいてほしいと思う12のカクテル」を、標準的なレシピとともに、以下に紹介しておきたい。()内は誕生年または年代。

1.ブランデー・クラスタ(Brandy Crusta)(1850年代)=ブランデー 30ml、コアントロー 10ml、マラスキーノ10ml、レモンジュース20ml、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、シロップ少々(シェイク)、オレンジ&レモン・ツイスト

2.ラモス・ジン・フィズ(Ramos Gin Fizz) (1888年)=オールドトム・ジン 60ml、レモンジュース15ml、ライムジュース15ml、シロップ23ml、生クリーム23ml、卵白(シェイク)。ソーダで満たす。

3.アペロール・スプリッツ(Aperol Spritz) (1920年代)=アペロール60ml、スパークリング・ワイン60ml、オレンジ・スライス(ビルド)

4.コープス・リバイバー#2 (Corpse Reviver #2) (1920年代)=ドライ・ジン、コアントロー、リレ・ブラン、レモンジュース各15ml、シロップ5ml、アブサン2dash(シェイク)

5.ブールヴァルディエ(Boulevaldier) (1927年)=バーボン・ウイスキー 40ml、カンパリ25ml、スイート・ベルモット25ml(シェイク)

6.ヴュ・カレ(Vieux Carre) (1937年)=ブランデー、ライ・ウイスキー、スイート・ベルモット各20ml、ベネディクティン1tsp、ビターズ3dash、レモン・ピール(ステアまたはシェイク)

7. ペイン・キラー(Pain Killer) (1970年代初め)=ダーク・ラム(パッサーズ・ネイビー・ラム) 30ml、パイナップルジュース60ml、オレンジジュース15ml、ココナッツミルク(またはココナッツ・リキュール)15ml、クラッシュド・アイス、ナツメグ・パウダー(シェイク)

8. アマレット・サワー(Amaretto Sour) (1974年)=アマレット45ml、レモンジュース23ml、シロップ1tsp、卵白(シェイク)、レモン・ツイスト、マラスキーノチェリー

9. エスプレッソ・マティーニ(Espresso Martini) (1983年)=ウオッカ40ml、エスプレッソ・コーヒー20ml、コーヒー・リキュール10ml、シロップ1tsp(シェイク)、コーヒー豆2~3粒を浮かべる

10. ブランブル(Bramble) (1980年代半ば)=ジン40ml、レモンジュース15ml、シロップ10ml、ブラックベリー・リキュール10ml(シェイク)、クラッシュド・アイスを入れたロック・グラスに注ぐ。レモン・スライス

11. ペニシリン(Penicillin) (2005年)=ウイスキー 50ml、レモンジュース15ml、ハチミツ10ml、ジンジャー・シロップ1tsp、アイラ・シングルモルト1tsp(シェイク)

12. メスカル・ミュール(Mescal Mule) (2008年)=メスカル45ml、ジンジャー・ビア30ml、ライムジュース23ml、パッションフルーツ・ピュレ23ml、アガヴェ・シロップ15ml(シェイク)。キュウリのスライス、砂糖漬けの生姜

欧米で今なお人気の「ラモス・ジンフィズ(Ramos-Gin-Fizz)」。19世紀末に誕生したが、生クリームと卵白を使う面倒くさいカクテルなので、日本のバーではあまり扱われない
欧米では根強い人気を誇る「ヴュ・カレ(Vieux-Carré)」。1937年にニューオーリンズで誕生した、渋い味わいの名作
欧米では近年、「モダン・クラシック」に焦点を当てたカクテルブックも目立つ。これはそうした中の1冊、『MODERN-CLASSIC-COCKTAILS』(Robert-Simonson著、2022年刊)

日本では無名でも、知っておけば得をする

以上のカクテルは、日本でのいわゆる「スタンダード100選」や日本発のカクテルブックに、登場することはほとんどなく、従来の日本のバーなら、店側が知らなくてもそう困ることはなかった。

しかし、インバウンドの外国人客が日本のバーにもどんどん姿を見せる昨今、プロのバーテンダーなら、「知っておいて絶対に損はしない」、いや「むしろ得をする」カクテルだと思う。とくに、これから海外のコンペなどに挑戦したい、または海外のバーで働いてみたいというバーテンダーには、この12を含む70のカクテルは、ぜひ知っておいてほしいと強く願う。

※私が選んだ全70個のカクテルは、筆者の個人Blog「酒とピアノとエトセトラ」(Bar UK公式HPも兼ねる)内のページ(https://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/4010/)で、標準的なレシピや考案者や誕生の経緯・由来などを可能な限り紹介しているので、ぜひご覧頂ければ幸いである。

この記事を書いた人

荒川 英二
荒川 英二https://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/
1954年生まれ。大阪・北新地のバーUK・オーナーバーテンダー、バー・エッセイスト。新聞社在職中から全国のバーを巡りながら、2004年以来、バー文化について自身のブログで発信。クラシック・カクテルの研究もライフワークとしてきた。2014年 の定年退職と同時に、長年の夢であった自らのバーをオープン。切り絵作家の故・成田一徹氏没後に出版されたバー切り絵作品集『NARITA ITTETSU to the BAR』では編者をつとめた。
荒川 英二
荒川 英二https://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/
1954年生まれ。大阪・北新地のバーUK・オーナーバーテンダー、バー・エッセイスト。新聞社在職中から全国のバーを巡りながら、2004年以来、バー文化について自身のブログで発信。クラシック・カクテルの研究もライフワークとしてきた。2014年 の定年退職と同時に、長年の夢であった自らのバーをオープン。切り絵作家の故・成田一徹氏没後に出版されたバー切り絵作品集『NARITA ITTETSU to the BAR』では編者をつとめた。