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神秘の島スコットランド オークニーの蒸留所

オークニーでは、その肥沃な大地から良質な大麦が、そしてピートも豊富にあることから、古くからウイスキー造りが盛んに行われていました。また、この地が砂岩質土壌であることから、スコットランドでは珍しいミネラルが豊富な硬水が仕込に使われています。

現在、メインランド島には3つの蒸留所があります。それぞれ個性豊かで特徴な香味を楽しむことができます。北の最果ての島で、力強く育まれているスピリッツの魅力を探ってみましょう。

ハイランド・パーク蒸溜所 Highland Park

ハイランド・パーク蒸溜所は、1789年にディヴィッド・ロバートソンによって創業。この地は伝説の密造者マグナス・ユウンソンの蒸留所があったところとされています。名前の由来は、この地がカークウォールの南の高台にあり、元々ハイパークやパークヒルと呼ばれていたためと云われています。

現在のオーナーはエドリントン・グループで、その他にマッカラン蒸溜所・グレンロセス蒸溜所・グレンタレット蒸溜所を所有しています。現在、ハイランド・パーク蒸溜所の年間生産量は250万PAℓ程度ですが、今後5年間で倍増させる計画になっています。

ハイランド・パーク蒸溜所は、現在でも独自で製麦を行っている数少ない蒸留所です。麦芽の品種は、害虫の影響でコンチェルトの出来が悪くなってきたため、現在はロリエットを使用しています。

乾燥に使用するピートは蒸留所の西10㎞ほどのピートボグから掘り出していますが、オークニーは木がないため、本土やアイラ島とは異なる質のピートになっています。また、表面に近いまだ草の根などが残っている若いピートも使用することで、より独特のピート感が得られています。

蒸留所製の麦芽はしっかりとピートを効かせていますが(フェノール値40ppm程度)、全体で使用する麦芽量の20~30%程度です。残りは本土の精麦工場・シンプソンズ社からノンピーテッド麦芽を仕入れて、合わせて使用することで全体としては10ppm程度での仕込をしています。

熟成にシェリー樽のみを使用している点も特徴です(もちろんブレンデッド用などにはバーボン樽での熟成も行っています)。ヨーロピアンオーク製とアメリカンホワイトオーク製の両方を使用して熟成を行います。スコットランド全蒸留所で年間7000万ポンドの費用が樽にかかっていますが、その半分をエドリントン・グループが占めています。それだけ樽に対するこだわりが伺えます。

オークニーは年間の気温の変化が少ないため、エンジェルズシェアも年間1%程度と、本土の蒸留所の半分以下と少ないのも特徴です。

2017年よりボトルのデザインを一新し、よりヴァイキング文化の特徴を反映させています。スタンダード12年では、ノルウェーにある世界遺産「ウルネスの木造教会」の壁面装飾、ライオンとヘビのようなドラゴンとの善悪の戦いをモチーフにしています。

スキャパ蒸溜所 Scapa

スキャパ蒸溜所は、1885年にロバート・マクファーレンとジョセフ・タウンゼントにより創業。「スキャパ」とは、古いノルウェー語である古ノルド語で「ボート」を意味しています。

1994年には休止状態となり、その後は年に6週間ほどバランタインの原酒確保のためハイランド・パーク蒸溜所のスタッフにより稼働していました。2005年にシーバス・ブラザーズ社傘下になり週3~4日の稼動、2015年からはフル稼働となりました。現在の生産量は130万PAℓとなっていますが、増産計画があり、発酵槽の増設(現在ステンレス製4基・木製4基ですが、従来の2倍量のステンレス製4基を導入予定)がなされている最中です。

スキャパ蒸溜所ではノンピーテッド麦芽を使用しており、また初溜釜に現在ではあまり使用されていないローモンドスチルを用いることで、フルーティ&フローラルな印象となっています。このローモンドスチルにはプレートは入っていませんが、通常の形状の蒸留器よりも銅との接触効率がよく、また大きめの精留器ピューリファイアーを設置していることから、このような酒質になると考えられます。

この酒質の特徴を活かすために、アメリカンホワイトオーク製バーボン樽にて熟成を行っています。特に現在スタンダードとしてリリースされている「スキレン SKIREN」はファーストフィルのみで、より華やかな印象となっています。ちなみに「スキレン」とは古ノルド語で「光り輝く空」という意味です。

オークニー・ディスティラリー Orkney Distillery

オークニー・ディスティラリー社は、2016年にスティーブン&アリソン・ケンプ夫妻により創業。

現在は「カーキュヴァーKirkjuvagr」ジンをリリースしています。「カーキュヴァー」とは、古ノルド語で「教会のある湾」という意味です。

このボトルトップには、ヴァイキング時代の羅針盤がデザインされています。ヴァイキングには航海に出る際にこの羅針盤を持っていると『必ず母国に戻れる』という言い伝えがあることから、これをトレードマークとしています。今後、モルトウイスキーの製造も検討しています。

カーキュヴァー」は、スコットランドのウイスキー蒸留所よりベーススピリッツを購入しています。メインとなるボタニカルはジュニパーベリー、コリアンダー・シード、アンジェリカ・ルートですが、地元大学の農業研究所と協力してローカルなボタニカルも使用しています。蒸留はポルトガル・ホヤ社製の200ℓ銅製スチルで行っています。

香りはジュニパーや柑橘がしっかりと感じられ、大変フルーティでまろやかな味わいとなっています。

この記事を書いた人

谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。