ジンの主原料は、ジュニパーベリー。それは皆様ご存知の通り。
では、その主原料のジュニパーベリーを世界中に供給している国は?
それがマケドニア共和国。日本のクラフトジンも、マケドニア産ジュニパーベリーを多く使用している。
僕自身、ジンの蒸留所にはたくさん訪れたが、ジンの主原料の産地を巡る旅はしたことがなかった。今回マケドニア共和国へ赴き、ジュニパーベリーの収穫体験をさせていただいた。
ちなみに、マケドニア共和国は2018年に隣国ギリシャの圧力で国名を【北マケドニア共和国】に改名させられた。ギリシャ北部も古来マケドニアの地域に当たる為、すべて自国のように名乗るな! という言い分……。ただ、マケドニア人はこの国名を納得しておらず、うっかり『North Macedonia』と言うと是正される。私も2回、マケドニアで注意された。なので、ここではマケドニア共和国と記載する。
さて、ブルガリアとの国境近く、東部マケドニアのBerovoという地域が最高のジュニパーベリーの産地であると言われている。それはなぜか?
①標高1000mの高さと気温の寒暖差
マケドニア東部のBerovoの気候は内陸性気候。夏は40度越え、冬はマイナス20度を下回る寒暖差がある。これに標高の高さにおける朝晩の寒暖差も合わさり、香りと味わいに大きな影響を与える。
②どんな土壌が良いのだろうか?
写真の点在している木々がほぼジュニパーベリー・セイヨウネズ(Juniperus communis)で、見ての通り日本と違い、それほど肥えている大地とはいえない。ちょっと掘れば石ころや岩がゴロゴロ出てくる土地、そんな場所にたくさん自生している。総じて日本のネズもそうだが、丘陵地帯や花崗岩地の岩がちなところだ。
僕が思うに、日本のネズ(Juniperus rigida)もセイヨウネズ(Juniperus communis)も、丘陵地帯や花崗岩地を好んでその土壌に生えているわけではない。ネズは日照を必要とする樹木。ただ、成長は遅い。たくさんの木々が生い茂るような優良な土地では、他の樹木の成長スピードに負けて日照を遮られてしまう。良い土地では生存過当競争が起き、ネズは負けてしまうのだ。故に他の木々が育たない、或いは育ちにくい痩せた土壌にてネズは適応能力を発揮するのである。
③ジュニパーベリーの収穫時期はいつ?
マケドニアでは、8月中旬から11月末まで収穫が行われる。ベストなシーズンは9月中旬〜9月下旬。前年の4月頃に緑色の小さな実がつき、翌年の夏を越えたあたりに青紫色に熟す。おおよそ樹上で18ヶ月、ジュニパーベリーはゆっくりと実る。
④ジュニパーベリーの収穫方法
マケドニア東部のBerovoで、8月〜11月の間に町の人々が山に入り、ジュニパーベリーを集めてキロ単位で売買する。採取するのは、地元のお父さんやおじいちゃん。季節性労働として臨時収入を得る。
採取の仕方は、養蜂用手袋でグリグリとジュニパーベリーをこそげ落とすようにする。
⑤収穫後の保管方法とその後
収穫後は麻袋に入れて保管。マケドニアから世界中へ出荷される。
マケドニアのジュニパーベリー精油会社の社長曰く、「鮮度と油分を良質の状態で保てるのは3カ月まで」。
3カ月と言ったが、新鮮であればあるほど良い。それもそのはず、ジュニパーベリーは名前の通り果実。フレッシュで新鮮な状態のジュニパーベリーは果実感がありジューシーで、ジンの味わいはその果実由来なのだ。しかし収穫から3カ月以降はジュニパーベリーの油分が揮発して、ジュニパーベリー精油の回収率が下がる。
ジュニパーベリー精油は、収穫して3ヶ月以内に機械で破砕され、水蒸気蒸留法でジュニパーベリーの油分である精油を回収して造られる。
マケドニア共和国ジュニパーベリーまとめ
今まで色々な国で自生しているジュニパーベリーを見てきた。日本、イギリス、スロバキア、そして今回のマケドニア共和国。
同じネズでも広範囲に渡って分布しているもの、例えば同じヨーロッパのセイヨウネズでも若干異なる。
イギリスのセイヨウネズは若干小振りで黒ずんでおり、スロバキアもそれに近かった。
マケドニアのセイヨウネズは大振りで若干青く、香りもより清涼感がある。故に、マケドニア産のジュニパーベリーは世界中から重宝されているのかもしれない。
さらにバルカン半島の周辺国であるブルガリア産、セルビア産、クロアチア産、アルバニア産などのジュニパーベリーも多く世界中に出回っている。
現在のクラフトジンブームにおいて、この地域は大切な役割を果たしている。