木からアルコールを生成するということ。
こんな夢のようなお話しが実現する。
ことの発端は2020年に国の機関である森林総合研究所が世界へ向けて発表した論文。
木材から香り高いアルコールの製造と木の醸造酒、蒸留酒への応用の可能性
紀元前8500年の古代メソポタミアから酒造りが確認されてから一万年以上。
穀物、果実、乳製品、蜂蜜などから人類はお酒を醸し続け、精度を上げてきた。
しかし、木からアルコールを生成する事はなかった。
それは木に含まれるリグニンの細胞壁により、木に含まれるセルロースを糖に変換することが阻害されてきたからだ。
セルロースはブドウ糖から構成されているのに
基本、植物は
セルロース50%
ヘミセルロース20%
リグニン30%
で、構成されている。
このリグニンの成分の細胞壁の厚さが0.004〜0.002㎜
よって0.001㎜で木材を破砕する事により、リグニンの細胞壁を壊し、セルロースを糖に転換できることがわかったのだ。
日本にはおよそ700種類の樹木がある。
ならば700通りの『木のお酒』ができることに。
そんな夢のようなお話しが現実味を帯びてきた。
では実際に『Wood spirits』により、どのような事ができるか?
どのような応用ができるか?
自分なりに想像できる事を挙げてみた。
≪ダブルコンソメスタイルのウイスキー≫
例えば、日本のウイスキーで有名な熟成樽はミズナラ樽であろう。
そもそもウイスキーの味わいというのは、木樽熟成によって生まれる。
それをミズナラの木から醸し蒸留して造ったミズナラ材の原酒を、さらにミズナラ樽で熟成を施すとミズナラブーストウイスキーの完成だ。
≪丸ごとジン≫
ジンは穀物原料のスピリッツにジンの香りの主軸要素であるネズの木の実、ジュニパーベリーを浸漬させ再蒸留したものだ。
ネズの木から醸してアルコールを生成し、そのネズの木から実るジュニパーベリー、又は枝葉も加えれば、世界初となる丸ごとジンというロマンが形成される。
熟成を待たずとものタイムトラベル
例えば樹齢400年の木があるとしよう。
木というのは年輪の幅を見れば現代から逆算して遡れる。
樹齢300〜400年の部位だけを使い、醸してアルコールを造る事が可能だ
ウイスキーの50年物は味わいも勿論の事だが、50年前に当時の人々が仕込んだものが時を経て現代で『飲んでいる』という事実による多幸感。
これこそが嗜好品の極意でもある
しかしながらこの『Wood spirits』というのは50年待たずとも飲めてしまう。
はたまた300年、400年前の素材をアルコールにして嗜めてしまう。
その時代に想いを馳せることができるだろう。
お客様
『杉の木をロックで』
バーテンダー
『樹齢部位100年物と200年物がありますがどちらになさいますか?』
なんていう、やりとりがいつの日か起きるかもしれない。
産地違いのテロワール
これはワインの世界観と似ている。
その土地の風土が反映され、屋久島の杉、木曽の木曽五木、新宮、白神山地などの木材界のブルゴーニュやボルドーのような木の銘醸地の選択肢も出てくるだろう。
はたまた南向きの日当たりの良い斜面で育ったグランクリュWoodエリアなども指定され、皆の心は踊るだろう。
お客様
『新宮はあるかい?』
バーテンダー
『はい。本日は熊野古道が入荷しました。参拝道から程近い南斜面に向いたグランクリュ・エリアでございます』
ありがたきエリアのお酒
例えば、伊勢神宮は20年に一度建て替えられる式年遷宮というのがある。
とゆうことは伊勢神宮の材を手に入れるチャンスがあるのかもしれない。
聖域で生きてきた伊勢神宮のありがたき木材を調達し、アルコールを造り蒸留する事ができれば聖域リミテッドエディションも可能だ。
そんなお酒が手に入るのならば、僕は実家の神棚にでも飾っておきたい。
『Wood spirits』は新しい嗜好品の価値観を生んでくれるのだ。
楽しみにしていて欲しい。
2022年には誕生するWood spirits
実際に民間レベルでは着々と木から醸しアルコールを生成している。
『木のお酒』『Wood spirits project』の蒸留所の建設計画が進んでおり、第一弾は奥秩父山系を背にした埼玉県比企郡ときがわ町の材木で造る予定で動いている。
ときがわ町自慢の謳い文句は『木の村』慈光寺建立1300年の歴史があり、そこに当時全国から工匠が集められ後に定住 脈々と木工の技術が継承され、江戸時代にも荒川源流であることから木材が江戸まで運ばれ活用されてきた歴史がある。
戦前はナラ、クヌギなど広葉樹が山を占めていたものの炭焼き(木炭)などで枯渇。戦後は人が手を加えられる場所は杉、檜を植林。今の日本の森林問題の現状をお手本のように地でいっている、わかりやすいエリア。
林業家の高齢化に伴い担い手の減少。
放置林の増加。
労力に見合わない現状。
様々な課題があるのが、今の日本の森林問題。
また林業家にとって製材の際に生じる端材の活用方法も永遠の課題。
例えば杉を切って製材した時に建材で使われる部位は『芯の部分』であり『外側は端材』となり捨てられる。
しかしながら香りの良い部位は、捨てられる『外側の端材』に多く含まれている。
『Wood spirits』で使うのは香りの良い端材の部位でよいということ。
これは『Wood spirits』と『林業家』にとっても良い相互関係となり、木の新しい活用方法として活路となり得るのだ。