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High Gravity:ホーム・ブルーイングの必須アイテムMillとは何か?

High Gravity

Mill

ホーム・ブルーイングを始めてみて「欲しいものリスト」に真っ先に上がってくるアイテムではないが、後から必ず欲しくなるのがこれ。大麦麦芽を始めとする穀物を挽くミルのことだ。粉挽きなら家に使っていないコーヒー・グラインダーがある! と思った方もいるかもしれないが、残念ながら電動であれ手動であれ、臼式のコーヒー・グラインダーはコーヒー豆全体をできるだけ均一な挽目で破砕することを目指していて、ビール・ブルーイングには向いていない。より安価な羽式のコーヒー・ミルやフード・プロセッサーは微粉が多く出てしまい、ラウタリング(お粥状の麦汁から液体だけを抜き出すプロセス)の際に目詰まりを起こしてしまったり、麦汁の混濁を起こしてしまう可能性が高い。

ビール・ブルーイングにおける理想的な破砕は「ハスク(穀皮)」と呼ばれる皮の部分については出来る限り原形をとどめつつ、中のデンプン(胚乳)を細かい粉にして取り出すことにある。挽目はコーヒーでいうところの中細挽き程度だ。もちろんコーヒーでもどんな高性能のグラインダーを使っても意図した挽目より細かい微粉が出てしまうのと同じく、ビール用のミルでも一定量の微粉が混じってしまう。よくモルト・ウイスキー造りではハスクとグリッツ(中細挽き)、フラワー(微粉)の比率が2:7:1となるのが理想と言われるがビールでもおおよそ同じ。大体この比率でいけば糖化中にハスクが糖化槽の下部に沈殿しフィルターの役目をしてくれるため、多少の微粉が含まれていても清澄度の高い麦汁が得られるはずだ。

このような目的で用いられるのがローラー・ミル。

ローラー・ミルはその名の通り回転する二つのローラーの間を麦芽が通る過程で挽かれるため、外皮であるハスクが原型をとどめやすい。イメージとしては二つの回転する麺棒の間で穀物が押し潰されていく感じだ。ホーム・ブルーイング用のローラー・ミルの場合、2本ローラー、より高級になると3本ローラー方式が一般的。3本ローラーの場合、3つのローラーが逆三角形状に重ねられている。上段二つのローラーで麦芽は大きく挽かれ、その後、下段にある一つのローラーと上段のローラーとの間でより細かく破砕される。

冒頭、おそらく「欲しいものリスト」のトップにはこないと書いたのは、ほとんどのホームブルーイング・ショップやオンライン・ショップがモルトの購入時にローラー・ミルを使って挽いてくれるからだ。それでもいずれ自分のミルが欲しくなるだろうというのは、一つにはブルーイングの経験を積んでいくにつれて、自分の醸造プロセスに合った挽目にこだわりが出てくるからだ。

ここでは説明しないがRIMSやHERMSと言った高度な仕込みプロセスを行うようになれば、だいぶ粗い挽目でも十分糖分を抽出しつつ、非常に高い清澄度を達成できる。逆にBIABと呼ばれるバッグ式の仕込み方法であれば、糖分をしっかり抽出する為に比較的細かい挽目を求めるかもしれない。焙煎度合いの違うモルトや小麦についてもそれぞれ理想的な挽目は異なるが、ブルーイングショップやオンライン・ショップでそれらに対応してくれることはまずないだろう。

また、麦芽の鮮度も重要だ。挽いた麦芽を購入してから数日以内に仕込みに入るケースが多いだろうが、場合によっては麦芽を購入したものの、しばらく手付かずということもあるだろう。挽いた麦芽はゆっくりではあれ酸化が始まるため、一ヶ月もすると本来のモルトらしい薫りや味わいを失ってしまう。以前書いたLoDOなどを考えればやはりフレッシュなモルトを使いたい。

さらに、ミル本体の購入価格を考えなければ、自分で麦芽を挽く方が安上がりなことが多い。これは別にショップで麦芽を破砕するとお金を取られる、という理由ではなく、破砕前の麦芽を大量購入できるからだ。アメリカで一般的な20リットルの仕込みで使用する麦芽はおおよそ5キロ弱だが、度々この量を購入するより一気に一袋分約25キロのモルトを一括購入した方がお得だからだ。この辺はお米と同じ感覚だ。破砕される前の麦芽は湿度さえ高くなければかなり長期間保存が可能だ。

この記事を書いた人

ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。
ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。