英語には酸味を表す単語が幾つかある。いちばん有名なのはおそらく“sour”だろう。
「サワークリーム」や「ウイスキーサワー」など日本語でもよく使われる単語なので、sourの意味を知っている人も多いだろう。
とても古い語源を持っていて、祖先はゲルマン語にある。ドイツのザワークラウトのザワー、すなわち“sauer”と同じ語源だ。
ということで、ザワークラウトは文字通り「酸っぱいキャベツ」という意味。 sourはストレートな表現で、基本的にはどんな酸味表現にも使える。
なんでも「sour!」という表現で対応できる?
酸味は人間の味覚の基本的なものの一つだから、舌が酸味を感じるものであればなんでも「sour!」という表現で対応できると考えていい。その意味では日本語の「酸っぱい!」という表現とぴったりと合う。
ただ、より掘り下げていくと、どちらかと言えば乳製品などの酸敗や、お酢や漬物などの発酵由来の酸味に結びつきが強いのも事実。人類にとって身近に酸味を感じる物と言えば、酸敗したり、保存のために発酵させた食べ物が主だったからかもしれない。
実際、古英語で“sour”を意味する“sur”には「発酵」という意味もあったし、日本語でも「悪くなった」食べ物を、その臭いから「酸っぱくなった」と表現することもある。
面白いのは伝統的なバーボンの製法であるサワーマッシュ製法だ。
サワーマッシュとぬか漬けの酸味
サワーマッシュ、つまり「酸っぱいマッシュ」とはトウモロコシなどの原材料を糖化する際に、前回の糖化粕や蒸留廃液を加えて酸性度を上げることでできた糖化中の麦汁のこと。
麦芽粕や廃液が酸っぱいのはそれらが発酵しているため。口にしてみればわかるが、日本人にとってはまさに発酵の進んだ「ぬか漬け」の薫りと酸味そのものだ。まさにこの味わいが英語のsourなのだと納得できる酸っぱさだ。
よく出来たぬか漬けがあればそれを味わって確認してみるといい。 他にも僕が住むカリフォルニア、特に北部のサンフランシスコを中心によく食べられる“sour dough”(サワードウ)も文字通り「酸っぱいパン」だ。見た目がフランスパンに似ているので、初めて口にするとその酸っぱさにびっくりするかもしれない。
冷蔵庫も車もなかった西部開拓時代、パン酵母が入手できない開拓者たちが乳酸発酵主体のパン種を持ち歩き、そこからパンを作っていた名残だ。パン種は母から娘に大切に受け継がれる嫁入り道具の一つだったという。まさに日本のぬか床とそっくりだ。
日本ではサワードウはまだまだ珍しいし、どちらかと言うと酸味も控えめだけど、もし近くのパン屋で目にしたら是非試してほしい。
一段上のテイスティング表現
このように日本人にもわかりやすく、使用法に間違いの少ないsourだけど、ウィスキーやビールの味わいを表現するのにはちょっと大雑把すぎるかもしれない。
日本語だってテイスティングのとき、単に「酸っぱい」とはあまり表現しないだろう。もちろん「○☓を思わせる酸っぱさ」とか「甘酸っぱい」というような具体的な酸味の表現はあるだろう。
ところが英語の場合はsour以外にも酸味を表現する言葉が幾つか存在する。なかなか感覚的には難しい単語だけど、うまく使い分けることができれば英語での一段上のテイスティング表現が身につくはずだ。
次回はこれらの単語について見ていこう。