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『アメリカン・ウイスキー』の定義:歴史と時代からアメリカン・ウイスキーを紐解く

ウイスキーを少しでも愉しむ方なら、アメリカン・ウイスキーと言われて間違いなく真っ先に思い浮かぶのがバーボンだろう。逆に「バーボン以外のアメリカン・ウイスキーは?」問われて答えに窮してしまう人のほうが多いかもしれない。

ちょっと詳しい人なら主原材料としてライ麦を使った「ライ・ウイスキー」が思いつくかもしれない。「ウイスキーは穀物を原料とした蒸留酒。アメリカ原産の穀物と言えばやっぱりコーンだから、もしかして『コーン・ウイスキー』というのもあるんじゃない?」と鋭い推理をはたらかせた人はいるだろうか?

そう、アメリカには「コーン・ウイスキー」なるものも確かに存在する。でも、そもそも「アメリカン・ウイスキー」ってなんだろう? これからアメリカン・ウイスキーを題材に色々書いていこうと思うので、今回はまずアメリカン・ウイスキーの意味そのものに触れてみよう。

タバコの吸殻で着色した時代もあった?

米国では、様々な食品についてその定義が法律によって決められていて、それをベースにどんな製品表示が許されるのか、マーケティングができるのかが決まってくる。例えば、メープルシロップは「カエデ(Acer)の樹液を煮詰めたか、もしくはその糖分を水に溶かしたもの」とされている。要は水飴を溶かしてカラメルで着色したようなものはメープルシロップとして売り出してはイケナイ、ということだ。

「そんなの当たり前じゃないか」と思われるかもしれないが、20世紀初頭のアメリカではマガイモノの食品や薬品が蔓延していて、時には深刻な健康被害をもたらしていた。「牛乳」と銘打った製品が実は水で薄められ、チョークやホルムアルデヒドで白く着色されていたなんてこともあったという。

蒸留酒についてもかなりひどかったようで、安酒を「舶来品」であるスコッチやアイリッシュ・ウイスキーに変身させるために、プルーンジュースを入れたり、時にはタバコの吸殻で着色したりしたこともあったという。さらには、そんなテクニックばかりを集めたネタ本、いわば「模造品カクテルブック」なるものが当時販売されていたというから開いた口が塞がらない。

世界初の消費者保護法

このようなマガイモノによる健康被害を防ぐために作られたのが、1906年の”Pure Food and Drug法”「純正食品薬事法」だ。

要は現在の日本でよく言われる「安全・安心」を実現するための世界初の消費者保護法というわけ。そのベースになる各種食品や薬品の定義を集めたものは”Standards of Identity”(SoI)と呼ばれている。カタカナ混じりの日本語に訳せば「製品アイデンティティー基準集」とでもいったところだろうか。この時代、ウイスキーは単なる嗜好品だけではなく医者が処方する薬でもあったので、SoIにはキチンとその定義が記され、改定を重ねて現在も利用されている。

SoIではウイスキーを「穀物を砕いて粥状にしたものを発酵させ、それを蒸留したもの」と定義しているが、さらに主原材料別に、「バーボン・ウイスキー」、「ライ・ウイスキー」、「ウィート・ウイスキー(小麦を主原料としたウイスキー)」、「モルト・ウイスキー」、「ライ・モルト・ウイスキー(ライ麦芽を主原料としたウイスキー)」、「コーン・ウイスキー」とそれぞれの定義が続く。

また、他国のウイスキーである「スコッチ・ウイスキー」や「アイリッシュ・ウイスキー」、「カナディアン・ウイスキー」などについても、それぞれを「地域特産製品」として定義している。いわゆる原産地呼称保護のためだ。

「アメリカン・ウイスキー」の定義

さて、ここまで来ればいよいよお次は「アメリカン・ウイスキー」の定義の番か、と思われるかもしれないが、残念ながらウイスキーに関する定義はカナディアン・ウイスキーまで。その後はジンやブランデーなど他の蒸留酒についての定義に移ってしまう。

もしかして、アメリカン・ウイスキーという定義はないのか……と思いつつさらに読み進めていくと、蒸留酒に関するSoIの一番最後にこんなセクションがでてくる:「地理的カテゴリーの指定は無いが、特定地域の特産品について」。たった二項からなるこのセクションだが、その第一項に面白い記述がある。

要約すると以下の通りだ:

「『バーボン・ウイスキー』『ライ・ウイスキー』『ウィート・ウイスキー』『モルト・ウイスキー』『ライ・モルト・ウイスキー』『コーン・ウイスキー』、そしてこれらのブレンドについては『アメリカの特産製品(distincitve products of the United States)』であるから、これらに該当する他国産ウイスキーについては、アメリカ国内で販売する際には『アメリカン・タイプ』とつけるか、原産国を表示すること」

とある。

なんともまどろっこしい表現だが、簡単に言えば「およそウイスキーと呼ばれる蒸留酒に関しては、全てアメリカの特産製品とみなすので、他国産についてはちゃんとその旨を表示せよ」ということ。そう、これが実質的な意味での「アメリカン・ウイスキー」の法的定義になっている。これに従えば、モルト・ウイスキーも当然アメリカン・ウイスキーの一部であり、さらにスコッチやアイリッシュと違って、現在のところ地理的カテゴリー指定のないジャパニーズ・ウイスキーについては(もし日本製と表示しなければ)、「アメリカン・タイプ・モルト・ウイスキー」との表示が求められることになるわけだ。

なかなかびっくりの内容だが、アメリカはイギリスやアイルランドを含む多くの移民でできた国。多様な人々が、多様なバックグラウンドを背負って、様々な穀物で酒を醸し、それを蒸留してきた。それはまさにアメリカという国の成り立ちそのものにも重なってくる。そう考えれば、穀物の蒸留酒、ウイスキーはアメリカのスピリットそのものとも思えなくもない。

そうそう、バーボンの定義はちょっと特殊で、1964年アメリカ連邦議会によって個別に「アメリカの特産製品」であることが明記されている。「アメリカの特産製品」であること自体は他のウイスキーと同じなのだが、このような議会から名指しでの指定を受けたからか、バーボンだけについては「アメリカ国内で生産されたこと」という条件がその定義自体に含まれている。従ってアメリカ国内ではたとえ「アメリカン・タイプ・バーボン」と表記しても他国産は流通・販売ができないことになっている。

この記事を書いた人

ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。
ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。