以前、麦汁の糖化工程とタンパク質の変性との繋がりについてBBQ用ツールを通して書いたが、その繋がりを実際に利用したのが「sous Vide」を使用する方法だ。
肉をじっくりと低温で調理する「Sous Vide」
「Sous Vide」とは「焼く」「蒸す」「煮る」に続く第4のクッキングとして米国で2010年あたりに流行った調理器具・調理法だ。主に肉をじっくりと低温で調理することで、旨味を逃さず、素材本来の味わいを愉しめるというのがウリ。
もともとフランス語のsous Videは直訳すれば英語では”Under Vacuum”、日本語では「真空下」となるが、日本では真空調理法とか低温真空調理法と訳されている。米国での発音から日本でも「スー・ヴィー」と呼ばれるが、少しでもフランス語に嗜みがあれば、これはおかしい。フランス語では語末の子音は発音されないが、Videは母音で終わっているので正しくは「スー・ヴィ(ッ)ド」になるべきだ。
いずれにしても”sous Vide”ではその名の通り「真空」という点がこの調理法の本質のように見えてしまうが、実際のキモは低温、つまりタンパク質が変性する65℃というところにある。そのためsous Videの基本は湯煎。
しかし、肉などをそのまま湯につけてしまっては水っぽくなってしまうので、ビニールの袋に詰めて湯煎にするわけだが、素材と袋の間にある空気が断熱材の役割をしないよう真空パックを使用することから「真空調理」の名前がついたわけだ。
sous Videで使われるツール
sous Videには通常専用のツールを使用するが、これがいかにも2010年代の米国らしい。要は撹拌器付きの水没式電熱コイルなわけだが、これにデジタルの温度計とサーモスタット、そしてWiFiやBluetoothといったワイヤレス機能をつけて遠隔操作できるものが一般的。形は電動ハンドブレンダーやヘアアイロンのような格好をしていて、これを水を張った鍋の縁に引っ掛けて使う。
米国では一般家庭でもCostcoのようなスーパーで大量買いをすることが多いため、真空パック器が普及していてこれを組みあわせていろんな食材をsous Videすることが可能なわけだ。
麦汁の温度維持に適切なキッチン・ツール
温度は素材にもよるが50~70℃、調理時間は数十分から数時間程度。日本人がsous Videの実力をまざまざと感じることができるのは温泉卵だろう。温度(68℃ぐらい)と時間(30分程度)を指定すれば、卵白はぷるぷるで黄身がしっとりとした温泉卵が毎回完璧に出来上がる。
当然のことながらsous Videツールをマッシングにも利用することができる。電熱機に麦芽が触れてしまうと焦げ付いてしまうので、麦芽を大きな袋に入れ65~67℃程度のお湯を張った鍋に浸し、sous Videを同じ温度にセットして1時間ほどすれば糖化の完了だ。糖化の肝は麦汁の温度維持。その目的にこれほど適切なキッチン・ツールは他にないだろう。
もともとそれほど多くない食材を調理するための機材なので、米国で一般的な20リットル程度の仕込み量だと荷が重いが、キッチンで軽く試すような10リットル程度の仕込みなら十分だ。