お酒造りに良い水が欠かせないことは誰でも知っているだろう。特にビールの9割以上は水分だということを考えれば、水の重要性は推して知るべしというところだ。でも「良い水」とは一体どういう意味だろう?
ビール造りと水の性質
素朴に考えれば、「優れた飲み水」とほぼ同義とも思えるが、なかなかどうして実は奥が深い。前回バートンウォーターを取り上げたが、バートンの高いカルシウムや硫酸、そしてマグネシウム分が、彼の地、固有のビールスタイルの発展に密接に関わっていたのだった。
でも、さすがにこんなに硫酸イオンやらミネラルが高い水をそのまま飲むには厳しい。このことからも「良い水」はそのまま飲んで「おいしい水」とは限らないわけだ。
現代ではビール造りにどのように水の性質が関わってくるのかという理解が大分進み、希望するビールのスタイルにあった水を「作る」事ができるようになっている。これを”Water Adjustment”、つまり「水の調整」という。水の調整の第一歩はなんと言っても水の分析。
もし水道水を使っているなら、水道局のホームページを調べてみよう。大体四半期毎の水質レポートがホームページから入手できるはずだ。といってもその情報はかなり網羅的で、どこをみればいいのか途方に暮れてしまうかもしれない。でも心配はいらない。ビール造りで気にするべき点は案外少ないからだ。
日本の「水質基準項目」
日本の水道水は水道法によって51項目からなる「水質基準項目」に必ず適合するように法律で定められているため、水質レポートにはこれらの項目が必ず表示されている。
水道法の目的は安全な飲料水の提供にあり、かつ日本の上水道は高度に発達しているためこれらの項目で注目すべきところはほとんどない。実際にこれら51項目の中でビール造りにとって重要なのは「ナトリウムとその化合物」「塩化物イオン」「カルシウム・マグネシウム等(硬度)」の3つだけだ。
次に「水質管理目標設定項目と目標値」を見てみよう。「水質基準項目」が飲料水の安全確保を目的とした基準であるのに対して、この「水質管理目標設定項目と目標値」はどちらかというと匂いや味わいに重きが置かれている。
ビールスタイルに合った水を作り出す
この中で注目すべき項目は「遊離炭酸」。本来ならば水の中に溶けた炭酸成分、すなわち「炭酸水素イオン」が知りたいところだが、水道水の役割からすると重要なのは遊離炭酸のほう。
遊離炭酸と炭酸水素イオンは相補的な関係にあって、どちらかが高くなるともう一方が低くなる。それを決めるのは水の酸性度、すなわちpHなので、同じく同項目にある「pH度」を参考にして計算すればいい。少なくともおおよその値はわかるはずだ。
そして最後に「硫酸イオン」。これが水質レポートに出ているか出ていないかは各地方自治体によりけり。ただし、非常に基礎的な情報なので水道局に電話をすれば教えてくれるはず。
これらの情報を基に、ベースとなる水の性質を知ることができれば、そこからバートンや世界各地の水質に似せたり、特定のビールスタイルに合った水を作り出すことが出来る。
次回はいよいよ水の調整を見ていこう。