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High Gravity:ビール造りにおける糖化と重力を利用した送液方法

ビール造りには、大量の液体を一つの容器から他の容器に移す「送液」という作業がどこかで必ず必要になるわけだけど、ポンプを使用しないでこれを達成する一番の方法が重力を利用するものだ。つまり複数の鍋を垂直方向に配置し、重力によって中の液体を上の鍋から下の鍋へと順々に送り込んでいく方法だ。

ビール造りの糖化プロセス

例えばビール造りで最も重要なプロセス、糖化を考えてみよう。

糖化とは簡単に言うと粉にした大麦麦芽をお湯に溶かして甘い麦汁を作る作業だけど、これにはまず適切な温度、65℃ぐらいのお湯を大量に用意しなければいけない。必要な水の量は最終的にできるビールの約2倍。米国での一般的な自家醸造ビールの仕込みサイズは5ガロン、つまり約20リットルだから、実に40リットル近くが必要となる。

お湯を作るための鍋:ホットリカータンク

よほど正確に温度をコントロールできる給湯器でもない限り、これだけの量のお湯を準備するには寸胴鍋のような巨大な鍋で水を温めなくてはならない。しかもこの鍋は糖化用、つまりマッシュタンとは別な方がいい。

60〜90分間の糖化中はできる限り当初の温度を維持した方が良いため、多くのホームブルワーは保温性の高いプラスチック製のクーラーボックスをマッシュタンとして使用しているが、これを裸火にかけるわけにはいかないため、これではお湯が作れない。

そこで別な鍋が必要になるわけだ。お湯を作るための鍋をホットリカータンク、略して「HLT」と呼ぶ。HLTからマッシュタンには仕込み水として、まず最初に約20リットル、糖化後半にはすすぎ用のお湯である「スパージ水」約20リットルを、それぞれHLTからマッシュタンに送液することが必要になる。さらにスパージ水がHLTから注がれているのと同時に、マッシュタンの下部からは麦汁を抜き出す作業が必要だ。これをラウタリングと呼ぶが、抜き出した麦汁はホップと一緒に煮沸するため、さらに別な鍋(これをボイルケトルBKという)に移し替えなくてはいけない。

フライ・スパージと糖分量を最大化

もちろん鍋を抱えたり、大きめのジャグを使ってそれぞれの鍋の間で液体を移動させることも可能だけど、腰への負担や火傷などの危険を考えれば3つの鍋を垂直方向、特に階段状に配置して重力を使ってHLT→マッシュタン→BKの順に液体を移動させることができれば何かと便利。

特にラウタリングの際、HLTとマッシュタンそれぞれのバルブの開き具合をうまく調整すれば、マッシュタンに流れ込むスパージ水の量とマッシュタンからBKへと流れ出る麦汁の量が同じとなり、マッシュタン内の水位が見た目上変化しない。

このような方法を「フライ・スパージ」と呼ぶが、こうすることで麦芽内の糖分を余すことなく洗い流し、麦汁として得られる糖分量を最大化できるようになる。なかなか高度なテクニックだが、ぜひチャレンジしてもらいたい方法だ。

ホームブルーイングでは古くからある手法

最終的にはBKの下にさらに発酵用の容器を置けば、仕込み水から煮沸後の麦汁まで一切液体に手を触れることなく安全で衛生的な送液が可能になる。

このような重力を使用した送液方法は、ポンプなど余計なアイテムにお金をかけたりシステムの複雑化を避けられるため、ホームブルーイングでは古くから用いられてきた実用的な手法だけど、実はかなり大きな醸造所などでも使われている。例えばポートランドにあるCulmation Brewingのシステムなどは圧巻だ。

この記事を書いた人

ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。
ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。