当店のフードメニューには、メキシコ料理がほとんどない。もちろん、メキシコの伝統的な地酒であるテキーラは、土地の料理とすこぶる相性が良い。それなのに、なぜ提供しないのか? その理由は、今の日本でテキーラを楽しめるお店は、大概が「メキシコ料理店」だから。「テキーラ飲みたい!」と思ったとき、多くの方はメキシコ料理とのマリアージュしか体験できないのである。ならば、料理店ではなく「テキーラバー」と掲げる当店では、メキシカン以外のフードとテキーラの相性の良さを提示し、その可能性を広げたい。 そんな思いから、ジャンルに囚われない「テキーラに合うもの」をあれこれ提供するようになった。では、どんな味わいの料理が、テキーラと相性がいいのだろうか?
樽熟成の度合いにもよるが、一般的にテキーラは「酸味」「辛み」「旨み」「ハーバル」といった味覚と相性がいい。例えば、メキシカンを代表するタコスには、これらの要素が詰まっている。ライムの「酸味」。唐辛子や香辛料の「辛み」。肉やトマトの「旨み」。パクチーの「ハーバル」。これらがトルティーヤで包み込まれ、口の中で混然一体となって幸福感を もたらす。それを美味しいテキーラでさっぱりと流し込むのはまさに快感で、タコスとテキーラは相思相愛の仲といえよう。
さて、タコスを出さない当店では、裏メニューである「餃子」が、この役割を担っている。テキーラに合わせたユニークな餃子が20種類ほど。そのうちの「エスニック餃子」の中身を見ると、まず豚肉の「旨み」。青唐辛子の「辛み」。パクチーの「ハーバル」。皮ごと刻んだ無農薬檸檬の「酸味」と「苦み」。味の要素としては、前述したタコスと近い。これらの要素はどれもテキーラ自体からも感じられるもので、それが相性の良い所以だろう。
別なマリアージュの候補として、日本の代表的な料理である“鮨”も是非お勧めしたい。現地では“セビーチェ”という、ライムを効かせた生の魚介のマリネがテキーラのアテにされるが、鮨も同様にイケる。酢飯の酸、山葵の辛み、魚介の旨みや脂が、テキーラと抜群に合う。また、「酸味」「辛み」「ハーバル」が3拍子揃ったタイ料理も相性ばっちり。お店に相談すれば持ち込みを許してくれる場合もあるので、ぜひ一度お試しを!