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The Long Cider Journey Vol.2「ブルターニュの旅 」

フランス、ブルターニュはノルマンディと並んで知られるシードルの産地である。人によってはシードルと言えば、ノルマンディよりもブルターニュを思い浮かべるかもしれない。実際に僕が初めて口にしたフランス産のシードルも、実はブルターニュのものだった。

ブルターニュ地方はフランス北西部の突き出た半島にあり、その名称はラテン語のブリタニアンという、ローマ支配化のケルト民族の地、グレートブリテン島(イギリス)に対して使われていたものが語源とされている。西ローマ帝国崩壊後にブリトン人の多くが移動し、ブリトン人の地を意味するその呼び方が定着したと考えられているそうだ。

2016年4月にその地を訪れた。フランス人の友人と待ち合わせ、夕方にシャルルドゴール空港へ着くやレンタカーを借り、パリから西へ600㎞ほど、友人の運転でひたすら向かった。渋滞を抜けて何もない暗い道を進み、真夜中にたどり着いたのはブルターニュ地方・カンペール(Quimper)。ここでモーテルを借りて一息つきながら、友人と明日の打合せをしたのち、明日の早起きに備えて早々に眠りについた。

フランスのシードルの呼び方

カンペールはブルターニュ地方の西側の海沿いに位置し、ユリウス・カエサルのガリア征服の頃からもガリア人(ケルト民族のひとつ)の都市として知られていたそうで、町の石畳みの様相や教会の佇まい、どこからともなく流れてくるフィドルらしき音色など、かつて訪ねたヨーロッパの町の華やかさとも違う独特の空気があった。そんなブルターニュのシードル生産者をいくつか訪ねた。

フランスのシードルは、その生産規模やスタイルによっていくつか呼び方がある。

  • フェルミエ…りんご農家がシードルまで造る、小規模シードル生産者。いわゆる六次産業
  • アルティザナル…りんご農家からりんごを購入しシードル造りを手掛ける中規模なシードル生産者
  • インダストリアル…自社農園を保有していたり、契約農家を持っていたりする大規模なシードル工場

その他、上記の中にも大規模で伝統的な生産者はシャトーやマノワールなどと冠するものもあるし、果汁を搾る為の機械を車に乗せて様々な農家をまわる移動搾汁業者などもある。

まるで巨人が住む神殿のような発酵タンク

フランス二日目の早朝、モーテルを出た僕たちは、シャトー・ド・レゼルグ(Chateau de Lezergue)というインダストリアルを訪ねた。初めて訪れた海外のシードル生産者である。

年間150万リットル以上を生産する国内トップクラスの大手醸造所は、まるで巨人が住む神殿のような大きな発酵タンクがそびえたち(写真が無いのが残念だ、笑)、ベルトコンベアーで次々とシードルがボトリングされていて、その姿は近代工場そのものだった。ふと目に入った酵母を除去する為に使用されているろ過機は、日本の旭化成の製品でなぜか誇らしく思えたのを覚えている。

こちらでは様々な国へ仕様を変え、輸出している。アメリカ向けのポップなラベルや、現地のお土産屋さん向けの地元のカンペール焼きをモチーフにしたラベルなどもあり、素朴な農村の造り手をイメージしていた僕には大変な驚きだった。

数百年前から続く伝統的な生産者

次に訪ねたのは、同じカンペールにあるマノワール・ド・カンキス(Manoir du Kinkz)で、ブルターニュで数百年前から続く伝統的な生産者。ちょうど訪ねた春は林檎の蕾がなり始める頃で、うっすらと白く色づいたカンキスの果樹園がとても綺麗だった。

生産者のセズネック氏は、この畑は2匹のブルーバードが縄張りを持ち、りんごに付く害虫を食べたりしてりんごを守ってくれていると語った。

どちらのシードルも日本には輸入されていないが、ブルターニュの空気の中で育った果樹の息吹を感じさせてくれ、「あのシードルが飲みたい……」と、時々ふとブルターニュの景色を思いださせてくれるのである。

この記事を書いた人

藤井 達郎
藤井 達郎https://www.eclipse-kanda.com/
1980年群馬県生まれ。20代半ば、スコットランドの蒸留所を巡った際に、現地のパブでサイダーに出会ったことにより林檎のお酒に魅了される。2015年東京・神田にシードルとウイスキーの店「Bar & Sidreria Eclipse first」を開店。フランスやスペイン、長野県や青森県などシードルの産地を巡り生産者との交流を深めている。
藤井 達郎
藤井 達郎https://www.eclipse-kanda.com/
1980年群馬県生まれ。20代半ば、スコットランドの蒸留所を巡った際に、現地のパブでサイダーに出会ったことにより林檎のお酒に魅了される。2015年東京・神田にシードルとウイスキーの店「Bar & Sidreria Eclipse first」を開店。フランスやスペイン、長野県や青森県などシードルの産地を巡り生産者との交流を深めている。