これまで2回は、Seguin Moreau社とTaransaud社という大きな製樽会社をご紹介しました。今回も樽会社ですが、前回までと違い比較的小さな製樽会社です。
ボルドーから車で1時間弱、サンテミリオンの近くにあるDarnajou(ダルナジュー)社です。
今までの2件はコニャックに位置する樽会社ということもあり、ワインだけでなくブランデーやその他蒸留酒に向く樽を作っている会社でしたが、今回はどうでしょうか?
今回この樽会社の訪問を決めたのは、先にも書いたように、今までコニャック用中心の製樽会社を訪問していたので、他の地域の製樽会社も見たい、そして大企業というよりは手作り感の強い製樽会社を見たい、という2つの理由からでした。
見学を終えた今、再確認しましたが、やっぱり樽作りは面白い!
ボルドーから車で1時間弱、サンテミリオンからは車で10分程度走った場所にあるTonnellerie Darnajou社。
いままでの製樽会社はそれぞれの作り方に秘密があるのか、写真撮影NGな場所もありますが、今回は「どこでも好きな場所を撮ってもらって大丈夫! 私たちには秘密はないわ。」と他の製樽会社では聞かない返答が帰ってきました。
訪問後の今だから言えますが、ここにこそこの製樽会社の秘密があるのだ! 人間の目と鼻、そして肌で感じながら作る樽は、写真や動画、さらに訪問しただけではわからない、アーティストたちによる樽でした。今回はその一部でもご紹介できれば嬉しいです。
まずは少しだけ歴史を。
Tonnellerie Darnajou社の正式名所はTonnellerie Vincent Darnajou(トネレリー・ヴァンソン・ダルナジュー)。Tonnellerieはフランス語で「樽製造業」や「樽工場」、「樽工房」を指し、Vincent Darnajouはオーナーの名前です。先代はMeilleur Ouvrier de France(国家最優秀職人賞MOF)の称号を1976年に授与された偉大なる一族です。
現在は生産の3分の2を輸出するまでに成長しましたが、樽の生産場所は「工場」というよりは「アトリエ」や「工房」が似合う大きさで、樽職人の皆さんの雰囲気もとても良い、風通しの良い樽会社でした!
この風通し、樽を生産する前に木を外気にさらす時にもかなり重要視されていました。100%フランスオークで造られていて、木材が到着するとまずは40日間外気にさらされます。その後木材の分析と検査を行い、良い木材のみさらに外気にさらします。木材の厚さによりますが、22mmの木材は18か月、17mmは24か月もの間、雨や風や太陽の下に置かれます。
この時、木材と木材の間を少し開け、パレットは1段しか積まないとのこと。数段積む生産者が多い中、1段のみ並べることにより、パレット内の風通しを良くしています。
突然ですが、皆さんはバカンスがお好きですか?
フランス人はバカンスのために生きている人も多いほどバカンスが好きです。バカンスをするために仕事を頑張り、しっかり休んだ後はまた仕事が頑張れる。
ここでは、樽に使用される木材も人間と一緒でバカンスが必要。
屋根のない場所で乾燥された木材は、2~3か月日陰に置いて休息の時間を持ちます。日陰に置く期間は季節や湿度によって変わるそうですが、大体2~3か月との。この数か月の休息を与えることによって、後にある焼きの工程で出る香りが違うので、この樽工こと房では重要な工程の一つ。
20年程前の灼熱の年、この休息の時期を取れませんでした。いくつか樽を造って顧客のワイナリーに納品。するといつもと違うと言われてしまいました。それ以降、必ずこの休息の時間を取る様にしています。
個人的に良いと思ったのは、顧客が製樽会社にとって耳が痛いであろうことも言ってくれること。「良い顧客が沢山いらっしゃるのですね」と伝えると、「樽を購入しているワイナリーとコミュニケーションを沢山取っているから、良いことも嫌なことも言ってくれるのよ」と言っていました。自社樽を使用したワインの熟成具合を見に、ワイナリーまで足を運んで試飲をすることもしばしばあるとのことです。
そしてこの製樽会社の大きな特徴は「レシピは1種類」。
今まで私が訪問した会社は大手が多かったこともあり、いくつものレシピを持っており、依頼に応じて造り方を変えることもありましたが、ここは1種のみ。この1種類のレシピを使用に色々な焼き加減で提供するそうです。
さらにもう一つ特徴を。この製樽会社は「ワイン専用」樽を製造しています。ブランデーやウイスキーなどの蒸留酒への使用は考えておらず、そのため焼き加減が色々あると言っても「ゆっくり、柔らかい」焼きを行っています。
樽を実際に作っている場所にもお邪魔しました。
最初にも書きましたが、工場というよりは「工房」や「アトリエ」という言葉が似あう規模で、見学者の私も居心地の良さを感じました。
例えば、言葉で説明するだけではわからないこともあるからと、私のために樽を組み立てていただいたり、焼きを見せてくださったり、近くに行くと手を止めて見せてくださったり。そんなことをしてくれる工房は今まで出会ったことがありません。本当に「人」が作っている樽なのだと体感しました。
樽作りの職人たちは、毎日色んな作業を行います。数時間おきに作業するポストが変わるのかと思ったら全く違う。それぞれが5樽ずつ最初から最後までの工程を行い、樽を作ります。
5樽形成出来たら、次は焼きに入り自分の形成した樽を5樽焼く。焼きが終わったら上下の蓋を5樽作る……というように一人の職人が工程の最初から最後までを担います。そのため、完成した樽には職人のイニシャルがこっそりと彫られています。
もちろんDarnajou社の樽として販売するための規格があり、その規格内で職人たちが樽を作っていますが、規格内であれば自分たちの樽造りを行っていいとのこと。
同じ焼きを入れるにも職人AとBでは少し作業が異なることもしばしばです。
コニャックにも近い製樽会社なので、ブランデー用の樽は作らないのかと聞いたら「レシピが1種類でも色んな可能性があって、それを全て知るのは難しい。だから私たちはずっとワイン専門でやっていくわ」とのこと。
良いワインを造るには良いブドウが必要。良い樽を作るには良い木材が必要。
当たり前のように聞こえて、とても難しいことを実現している製樽会社だと感じました。