夜中に火を囲んで人と話すのが好きだ。
現生人類20万年、今でこそ夜はそれほど不安なものではなくなったが、長きにわたって人類は夜になると火を焚き、集まり、身を寄せ合って生きてきたのである。火は生存の鍵、コミュニティの原点。その記憶は、きっと我々の遺伝子のレベルにまでしみこんでいるはずだ。火には、人をつなぐ力がある。
私は、以前から時おり富士山麓の小さな山荘に籠って、ランプの灯りでシングルモルトを飲む時間を大事にしてきた。寒すぎない季節には、庭で小さな焚火をして、その火を見ながらチューリップグラスを傾けたりもしている。素晴らしい時間。そのえもいわれぬ感覚を友人と共有したいという思いがつのり、少し前に「火飲み」という活動を始めた。
ひとけのない山林地にある静かな場所。街灯もなく、夜は本当に暗闇だ。敷地の真ん中に耐火煉瓦を積んで炉を作った。そこに火を灯し、夜中に皆で火を囲んで酒を飲み、語るのである。金曜日の21時頃から続々と人が集まり、丑三つ時には大賑わいになる。明け方まで語り明かす人も。「火飲み」は、想像した以上に素晴らしい場となった。
思い思いに料理や飲み物を持ち寄るかたちになっているが、私は必ずシングルモルトを提供することにしている。特別な夜だ。先日は、ダンカンテイラーのグレンリベット1968(シェリー樽)を出した。うまいうまいと声があがり、あっという間になくなった。そして定番はアイラ系。焚火とアイラの組み合わせは最高だ。
火と酒と人と。当分の間、「火飲み」の魅力から離れられそうにない。