糖蜜からラムを造るのではなく、サトウキビジュース100%をそのまま全て発酵、蒸留する方法で作られたラムを「アグリコールラム」と呼びます。ここではアグリコールラムの歴史、原料、製法や飲み方を見ていきましょう。
紀元前1万5000年頃から、野生のサトウキビはベンガル北部などにおいて、アシまたはススキとして知られていました。紀元前1万年頃、それがニューギニアに渡り、改良栽培種であるサッカルム・オフィキナルム(ラテン語で「薬屋の砂糖」の意)が開発され、やがて世界中に広まっていきました。
20世紀になると世界中にサトウキビ交配ステーションが開設され、優れたサトウキビが生み出されました。現在も、世界中にあるほとんどのラム蒸留所は、交配ステーション産のサトウキビ品種を使用しています。
サトウキビはイネ科の多年生植物なので、8〜10年ほど再生し続けます。また、種からではなく、元の品種のクローンを作るべく、茎の節を新しい苗にして増殖させます。葉で光合成をして、茎の中の貯蔵細胞に蔗糖を貯めてゆきます。
上から5枚目くらいの葉が巻き付いている節より上が梢頭部とよばれ、これは水のタンクの役割を果たし、日照りの時など地中から水分を吸収できない時に必要に応じて茎へ水分を送り込みます。
サトウキビは苗の時から12〜18ヶ月経つと、長さは4〜5m、直径4〜6cmほどに成長します。
日光が強ければ強いほど危機感を抱き、効率良く糖分を蓄えることが出来る性質があるため、収穫は糖度がピークに達している乾期に行います。
平均して3〜10種類ほどの品種を使用しますが、その理由のひとつはカリブの島など耕作可能面積が限られている土地において、斜面に向く品種など耕作条件によって植え分けることで土地を有効活用できること、もうひとつは1品種に限ると害虫や病気によって全滅する恐れがあるからです。
アグリコールラムの歴史:サトウキビ100%のラム
マルティニークは、1635年にフランス人ピエール・ブラン・デスナムビュックが島を占領し、サトウキビなどの栽培を強いました。
三角貿易が始まり、輸出品目の中で最も価値が高かった砂糖は、つくればつくるだけ売れるということで、日増しに生産量が増え、それと共に砂糖にならない部分である糖蜜の量も増えていきました。
16世紀にこの糖蜜を発酵、蒸留することによりラムが誕生し、短期間で広範囲にひろまっていきました。その理由は、奴隷を御しやすくする目的で用いられていたことと、ラムが壊血病の特効薬だと信じられていたことがあります。この頃のラムは特に美味しくする必要がなかったため、香りや味がとげとげしく酒質は粗いものでした。
17世紀にドミニコ会修道僧ペール・ラバが、コニャックの蒸留機や技師を持ち込んで、本国同様にラムをつくれるようにしました。その結果、ラムの品質はほぼ現在のレベル近くに向上し、砂糖と共に第一級の貿易品として輸出されるようになりました。
18世紀になると、寒冷地で栽培できる甜菜から甜菜糖が生まれました。
時はナポレオンがフランス革命後の混乱を収拾して、イギリス以外のヨーロッパを勢力下においていた時代になります。1805年のトラファルガーの海戦でイギリスはフランス・スペイン連合軍に勝利し、海上権を手に入れました。
これに対抗してナポレオンは海外植民地とヨーロッパとの連絡を遮断して、経済を麻痺させるべく1806年に大陸封鎖令を布告しました。これによりマルティニークなどのサトウキビ糖が、フランス本国にも入らなくなり、ナポレオンはこの打開策として国内に甜菜の栽培を奨励しました。
ナポレオンが失脚し大陸封鎖令が解除された後も、甜菜糖生産者たちが結託して植民地産のサトウキビ糖に重税をかけたため、フランス植民地の製糖業者の倒産が相次ぎました。その結果、倒産を免れるために小規模のラム蒸留所が新しいタイプのラム造りに転向していきました。
それは今までのように糖蜜からラムを造るのではなく、サトウキビジュース100%をそのまま全て発酵、蒸留する方法でした。
このラムを、アグリコールラムと呼びます。1996年、マルティニークのアグリコールラムは、フランス海外県で初めてAOC(原産地統制呼称)を取得して、現在に至ります。
アグリコールラムの製法
サトウキビの収穫は、地面になるべく近いところを刈り、白い先端と葉は切り取ります。
小規模の農園や起伏に富んだ地形の農園では、ナタを使って手刈りします。このナタの形状は各島により異なります。
大規模な農園では大型の機械を使います。サトウキビは、刈ったらすぐ次の工程に進めなければなりません。切断面から加水分解(茎の中に含まれる蔗糖がブドウ糖と果糖に分離する)が始まり、蔗糖分が減ってしまうからです。
蒸留所へ運びこまれたサトウキビは、カッターで10㎝ほどに分断され、シュレッダーにより粉砕されます。
その後、4個ほどの歯車(写真上)が直列に並んでいる所をベルトコンベアーで順に通り、プレスされます。この時、歯車内部には常に水分が注入されます。これはサトウキビの繊維に水を含ませることで、多くのジュースを効率良く搾ることができるからです。
搾りつくされた後に残った繊維をバガスといい、燃料としてボイラーに利用されたり、再生紙、飼料肥料に転化されます。
サトウキビジュースは、ステンレス製の発酵タンク(写真下)に貯められ、主に製パン用酵母と水を加え発酵させます。
この発酵の工程で、酵母によるアルコール発酵と、その副産物として生成される様々な芳香成分、アミノ酸などの旨味成分が生み出されます。発酵によりアルコール度数が高くなってくると酵母自体の活動が弱まって、それ以上のアルコールを生み出すことが出来なくなり、発酵が終了します。一般的な発酵時間は24〜72時間で、発酵済みのアルコール度数は4~8%です。
この発酵済みのアルコールを主にステンレス製の連続式柱状蒸留機(写真下)に通して気化させ、その後コンデンサーに通して液化することでラムが生まれます。
一般的な蒸留後のアルコール度数は70%前後です。
ホワイトラムはステンレスタンクで3〜12ヶ月休ませます。その間、定期的に撹拌して空気に触れさせながら、ミネラル分を消失させた水を加えて度数調整をし、濾過後、瓶詰されます。
ゴールドラムは一般的に650Lのオークの大樽で2年未満の熟成をし、濾過後、瓶詰されます。3年以上の長期熟成ラムは主にバーボン樽をリチャーしたもので熟成しますが、樽の目減り分は年間で約8%にものぼります。
毎年、この目減り分を新酒または同蒸留年のラムで補填する作業を行います。常温またはチルフィルタリングを行い、瓶詰されます。
アグリコールラムの飲まれ方
現地では、専らホワイトラムが色々な方法で飲まれています。
ティ・ポンシュ
カクテルの代表格は「ティ・ポンシュ」です。
これはホワイトラム、ライム、砂糖という構成で、公式レシピは存在しません。ティはプティのクレオール語で小さいの意、ポンシュはパンチのことで、もともとサンスクリット語で数字の「5」を表す言葉でした。実際に昔は5種類(ホワイトラム、ライム、砂糖、紅茶、シナモン)を混ぜていたという説もあります。
高温多湿な環境においての食欲不振を解消するため、胃を活性化させる目的で、食前酒としてのみ供されます(食事が始まったら、提供されなくなります)。日本においてカクテルは嗜好性や創造性が重視されていますが、ティ・ポンシュなどの現地カクテルは必然性が強いといえます。
プランター
次に有名なカクテルは「プランター」です。
これはホワイトラム、ゴールドラム、シナモンなどの香辛料、複数のジュース、グレナデンシロップを1.5Lほどの大きなボトルに入れたものを冷蔵庫で冷やして、1日かけてみんなで飲むというものです。
ラム・アランジェ
他にポピュラーな飲み方としてラム・アランジェ(浸けラム)があります。
もともと薬草を浸けて熱冷ましとして子供に与えたり、まだラムの味が荒々しかった頃、クセを和らげるためにその土地で採れるフルーツや香辛料を砂糖と一緒に浸け込んだ風習が今でも現地で続いています。
現地の朝市に行くと、かならず様々なラム・アランジェが売られていますし、バーに行くとバックバーにずらりとホルマリン浸けのようなラム・アランジェが並んでいることが多いです。飲む以外の方法としては、調理、製菓の他、マジナイの道具として用いられたりもしています。ホワイトラムに木の根やハーブやその他、得体の知れないものを浸けて様々なマジックスパイスをつくっています。それを用途に合わせて使います。
例えば、心変わりした彼の愛を取り戻したいとき、それ用のマジックスパイスを彼の枕に振りかけるなど。こうしたマジックスパイスは朝市やドラッグストアの一角などで売られています。
このようにラムは様々な飲み方、使い方をされ、人々の生活に溶け込んでいて、切っても切れない存在となっています。
記事協力: 日本ラム協会
アルファベット表記:R.U.M.JAPAN
設立の主旨
日本ラム協会は日本におけるラムの「認知」「普及」「定着」を目指し、消費者とラムを繋ぐ様々なアプローチを作る活動により愛好家を増やすことを目的に設立。
設立年月日
2008年11月19日
本部所在地
〒150-0042
東京都渋谷区宇田川町34-5
サイトービルⅢ5F
Shibuya 37号室
構成メンバー
代表 :海老沢忍
多東千惠
中山篤志
原田陵
佐藤裕紀
事務局:土岐なおみ
主な活動内容
■「ラム・コンシェルジュ」資格取得講座運営
ラムはどのように生まれ、どのように造られ、そしてどのように楽しまれているのか。
ラム・コンシェルジュ講座とは、その奥深い世界の入り口に立ち、ラムの歴史や製法を学ぶことによりラムを楽しく身近に感じさせる”水先案内人”を目指すもの
資格取得者にはブランドや地域に特化した「ブラッシュアップセミナー」の開催
各イベントにおけるご優待制度あり
■アジア最大級のラムイベント「JAPAN RUM CONNECTION」の開催
ジャパン・ラム・コネクション
ラムと向き合い、ラムカクテルを飲み、ラテン音楽を聞き……
ラムを様々なカルチャーと共に自由に楽しんでいただけるイベント
■「ラム酒大全」の発行(2017/1)
アジア初のラムの専門書となるこの本は、日本ラム協会講師陣の思いが込められた一冊です。また過去、東京・大阪ラム・コネクションで提供された、ラム・コンシェルジュによるオリジナルカクテルレシピも収録!
その他試飲会及び各イベントの開催、サポート、ラム生産地ツアーなど幅広い活動を続けラムの普及に尽力しています。
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