今回の銘柄は、昨年オフィシャル全ラインナップのリニューアルを発表したアランです。
新しいボトルの追加に加え、デザインも蒸留所表記に至るまで変更。旧ボトルの面影は全くと言っていいほどありません。これは、アラン島に第二蒸留所として稼働するラッグ蒸留所との区別のためという話ですが、随分思い切ったことをするものです。
既にメーカー出荷は新ロットに切り替わっていて、日本市場も今春から入荷予定とのこと。ラベルが変わると味が変わるのはよくある話。そこで2020年1回目の特集では、イギリス市場で流通しているアランの新しいオフィシャルラインナップを一足早くテイスティングし、スタンダードクラスの変化を紹介していきます。
アラン蒸留所の原酒は、島の蒸留所でありながら、タリスカーやジュラ等の個性の強いものではなく、所謂内陸系のキャラクターであると言えます。それは近年のスペイサイドほど軽やかで冷涼な雰囲気ではなく、かといってハイランドほど牧歌的でもなく、これらを足して2で割ったような印象。麦芽由来の適度な厚みがありつつ、熟成によって華やかでフルーティーに仕上がるため、1995年創業の後発ブランドでありながら、日本でも着々とファンを増やしてきました。(日本におけるアランの販売量は、世界第3位なのだそうです。)
アラン新旧ボトル比較
まずは日本市場において最もメジャーな10年を、新旧ボトルで比較して変化を探ります。
旧ボトル(写真左)は、アメリカンホワイトオーク由来の華やかなフレーバーに、微かに青みがかったウッディネス、スパイシーさと少しギスギスしたような部分があり、ハイボール等にして飲むのに適している印象。
一方で新ボトル(写真右)は、旧ボトルに比べて少し色が濃く、華やかさは同様にありつつも味わいに丸みが出て、良い部分はそのまま、ネガティブな部分が軽減されているように感じました。
シェリー系の原酒の比率が増えたのでしょうか。原酒の配合が変わった結果、今よりストレートで楽しみやすくなったと言えます。全く系統が異なっているのではなく、ジャケットの下に合わせるシャツの色を変えた程度の変化ですが、新しいボトルのほうに良い要素があると感じたのは、純粋に明るい兆候と言えます。
アランニューリリース
続いて、新しくオフィシャルラインナップに加わった2本を紹介します。
この2本に共通するのは、熟成期間が10年未満の若い原酒で構成されているということ。そして熟成に使われた樽の特徴をそれぞれ前面に出しているということにあります。
バレルリザーブ(写真左)は平均7~8年熟成のバーボン樽原酒で構成されていますが、43%まで加水でされ、アランでは珍しくチルフィルタリングもされています。その効果もあってか複雑さはないものの、華やかでありながら飲みやすい仕上がり。現在流通しているロックランザの後継品という位置づけだと考えられますが、こちらも良くなっているような……?
少しドライな口当たりから、洋梨等を思わせる品のいいフルーティーさがやさしく広がっていく。熟成の短さによる不快な要素はなく、アランの酒質の癖のなさ、素性の良さを感じさせる仕上がりです。ハイボール用に気軽に使っていけそうですね。
そして最も注目を集めそうなのがシェリーカスク(写真右)。
55.8%とハイプルーフ仕様に加えて、250リットルサイズのシーズニング シェリーホグスヘッドで色濃く熟成されたそれは、熟成期間7年程度とやや粗さの残る若い酒質を、こってりとした樽由来の要素がコーティングする構成。プルーンやデーツ等のドライフルーツやブラウンシュガー、パワフルかつスウィートでウッディな短熟圧殺系の味わいです。この手の短熟シェリーカスクはオフィシャルリリースでの数が少なく。現地流通価格を見る限りコスパも良好、日本でも好まれるのではないかと感じます。
アラン蒸留所のシングルモルトは、今でこそ酒販店等にあることが当たり前になり、クオリティも大手メーカーのそれに並ぶか、あるいは上回るものとなりました。ですが、その歩みは決して順風満帆ではなく、それは蒸留所の創業がスコッチウイスキー業界の低迷から脱却しきれていない時期(かつ、他社からは安価に長期熟成のリリースがあった時代)であったことからも明らかです。
逆境を乗り越えて、確実にブランドとして定着したアランモルト。その進化は2020年も引き続き注目していきたいです。
(Vol.5に続く)