History in a glass No19
アールヌーボーを代表するフランスのガラス工芸家、「エミール・ガレ」。日本でも根強い人気があり、作品を収蔵している美術館は世界に沢山あるので、鑑賞した事のある人も多いのではないだろうか。アールヌーボーとはフランス語で「新しい芸術」という意味で、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパで流行した芸術運動の事を指す。
そのなかでガレは特異の感性と独創性、新しい技法を用いて、次第に評価されていく。決定的なのは1889年のパリ万博でグランプリを受賞したことで、それにより世界的な名声を得た。
ガレの作品で印象的なのは、やはりランプではないだろうか。自然植物を大胆に表現しながらも、繊細な仕上げを施してある。妖しい光のようで、それでいて、どこか心が落ち着く灯り方だ。見た目には派手だが、以前、京都の町家の和室の隅に置かれていたガレのランプを見た時は、しっくり馴染んでいた。
先日、思いがけない幸運から、ガレのグラスを手に入れた。ショットグラスなのか、リキュールグラスなのかは定かではないが、エナメル絵付けにアザミとロレーヌ十字が描かれている。
アザミには「それに触れれば刺される」という格言があり、ドイツとフランスが領有権を巡って争ったロレーヌ地方を象徴する花でもある。こうした背景もあり、ガレの初期作品の意匠であり、傑作した作品が数多く存在する。
写真は珍しいミニチュアのグラスで、高さが5cmしかない。商品カタログやパンフレットがない当時、取引先との交渉の見本として使用されていたもので、現存数が少なく、希少価値が高い。とても可愛らしくみえるが、気品に満ちたグラスである。
また、このグラスの特徴的なところは、グラス正面から見ると普通に円柱だが、上からのぞき込むと楕円になっている、これは意図的なのか、創作過程による失敗なのかは解らない。しかしながら、ガレはガレである。美しいことには変わりない。