2020年、ラベルチェンジ含めて様々なリリースがありましたが、純粋な美味しさだけでなく、最も面白さと可能性を感じたリリースが、麒麟麦酒株式会社(以下、「キリン」と表記)から発売されたグレーンウイスキー、「陸」と「富士」です。
グレーンウイスキーの特徴と傾向
グレーンウイスキーはコーンや小麦などの穀物を原料とし、連続式蒸留機を用いて造られるウイスキーです。しかし一口にグレーンウイスキーと言っても、その香味はスコッチのブレンドに使われるソフトでメロー、あるいはライトな系統のものと、ダブラー等の独自の設備や酵母の違い等によって、穀物由来のフレーバーに重みや華やかさが残る、アメリカンウイスキー系統の特徴を備えたもの、大きく2系統に分類出来ると感じています。
日本のウイスキーメーカーでは、サントリー、ニッカ、そしてキリンの3社がグレーンウイスキーを製造・販売していますが、先の整理で既存のリリースを見てみると、スコットランド寄りの個性を持つサントリーとニッカのリリースに対して、今回キリンから発売された2銘柄からは、後述の通りアメリカ寄りのキャラクターが感じられます。
これは、ニッカやサントリーのウイスキーがスコットランドで修行を経た竹鶴政孝氏をルーツとするのに対し、キリンのウイスキー造りは、アメリカンウイスキーで大きなシェアを獲得した、カナダに本拠地を持つシーグラムグループとの合弁会社設立で始まったことを考えれば、各社のルーツが現代のリリースにも表れているようで興味深い違いだといえます。
(補足:各社原酒の造り分けをしているため、保有する原酒が必ずしも2系統のどちらかに限定されるわけではありません。)
「富士」「陸」それぞれの味わい
富士御殿場蒸溜所のグレーン原酒でのみ構成されている、シングルグレーンウイスキー「富士」は、同蒸溜所で造られるライト、ミディアム、ヘビー、3タイプのグレーン原酒をブレンドして造られています。
口に含むとミディアム、ヘビータイプグレーンの個性である、バーボンウイスキーのような重みのある穀物感と合わせ、甘酸っぱい果実のペーストのような風味があり、エステリーで華やかなアロマとビターなウッディネスが全体を包み込みます。グレーンウイスキーでありながら短調でなく多層的で、熟成したバーボンとカナディアンウイスキーの中間のような、独特の美味しさとバランスの取れた味わいが広がります。オススメの飲み方はストレート、香味に厚みがあるのでロックでも長く楽しめるでしょう。
一方、富士よりも低価格帯となる「陸」は、富士御殿場蒸溜所のグレーンウイスキーに加えて、海外から輸入されたグレーンウイスキーがブレンドされた、言わばワールドブレンデッドグレーンです。
熟成感については富士に比べて若く、香り立ちもドライで、ストレートでは粗さが目立ちますが、ベースにあるのは穀物由来のコクのある甘みとオレンジ系の樽香。メーカーが「自由に楽しんでほしい」と飲み方も紹介しているように、ロックやハイボール、これからの季節はお湯割り等、様々なシーンに対応する楽しみ方で良さを引き出せることが魅力であると感じます。
(陸の表ラベル。両サイドにブレンダーからのメッセージやオススメの飲み方が書かれている。また、あえて“WHISKEY”表記を使う等、様々な狙いが見え隠れするのも面白い。ラベル提供:キリンホールディングス株式会社)
グレーンウイスキーで広がるウイスキーライフ
単体で飲んでも十分高いクオリティを備えた2銘柄ですが、今回のポイントはそれだけではなく、冒頭で述べた面白さ、可能性にあります。
特に自宅にウイスキーを複数所有するような、“趣味としてウイスキーを楽しんでいる愛好家”にとっては、こうしたグレーンウイスキーが手軽に手に入ることが、ウイスキーライフの更なる充実にも繋がるのです。
例えば、モルト6:陸4の程度の比率で市販のスタンダード品2~3銘柄を掛け合わせ、自分好みのオリジナルブレンドを作ってみたり。市販のミニ樽を使った陸や富士の追加熟成は、使われているアメリカンホワイトオーク材とアメリカンタイプのウイスキーとの相性の良さから、下手にモルトの若い原酒を入れるより失敗は少なく、樽出しの原酒をいつでも飲める環境は、まさに愛好家垂涎といえます。
グレーンウイスキーのリリースは、国内外を含めると珍しいものではなくなりましたが、価格、風味等の関係から、すべてに上述の提案が出来るわけではありませんでした。単調、あるいは没個性的ともいわれるグレーンウイスキーも、ブレンデッドウイスキーのように他の何かと繋がることで、多くの可能性を秘めているのです。
グレーンウイスキーだから、一般普及品だから、と侮ることなかれですね。