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蒸溜所探訪Vol.6:日本・長濱蒸溜所

滋賀県琵琶湖のほとり、長濱にその蒸留所はあります。蒸留所といっても、元々地ビールを20年以上造っている醸造所であり、その地ビールを楽しめるレストランも併設されています。

元々米蔵だった白壁の建物は、この地が水路を使って京都大阪へと物資を運ぶ起点であったという歴史的背景を感じさせてくれます。実際に蒸留所の前には米川が流れており、当時の米を運び出すための船着き場があります。訪れた際は水位も低く、船が渡れるような感じではありませんでしたが……。

米川
船着き場

建物へ入るとすぐ左手にレストラン、右手には2つの銅製のタンクが、その奥に蒸留器が配置されています。

ご案内いただいたのは蒸留責任者の屋久祐輔さん。もともと製造の経験はなく、蒸留所立ち上げ時の採用に申し込んだとのことです。

ビール製造との併用による独自の仕込み方法

粉砕機

麦芽粉砕機はハンガリー製Robix-Qで2本ローラータイプ。レバーを上げるとローラー幅が広がり荒く粉砕され、逆に下げると幅が狭くなり細かく粉砕される仕組みです。

粉砕機

麦芽は英国クリスプ社製など、1バッチ400㎏で仕込みを行っています。25㎏の袋に小分けされており、その際にふるいにかけられ不純物やごみを除いているので、蒸留所ではそのまま粉砕を行っています。1バッチ16袋を使用することになりますが、外のコンテナに常時2~3バッチ分の麦芽を保管しています。現在、ローラー幅は広めにして粗めに粉砕しており、特にグリストの挽き分けはしておらず、グリッツ程度の粒径主体にしています。

ノン・ピーテッド麦芽のみ、ヘビリー・ピーテッド麦芽のみ、この2種類の麦芽をミックスした場合など、ピートレベルの異なる麦芽で仕込みを行っています。

糖化槽

糖化工程は、他のモルトウイスキー蒸留所と少し異なります。

糖化槽

パッと見ると糖化槽が2基あるように見えますが、右にあるのはケトルと呼ばれる槽(ボヘミアンブリューワリーインポーターズ社製・銅製・容量2000ℓ)で、ビール製造時に麦汁を煮沸し、ホップを加えるためのものです。ただ、この槽もモルトウイスキー製造で使用しています。左が発酵槽(ステンレス製)ですが、上下2層になっています(容量は各層1000ℓ)。上段(下部にやや粗めの濾過板フィルター4枚)で糖化を行い、下段はクリーンな湯用のタンクになっています。

粉砕麦芽に、一番麦汁用の仕込み水(1000ℓ・65℃)を加え、45分間静置します。その後濾過して、ケトルに保管。二番麦汁用の仕込み水(1000ℓ・80℃)をスパージングし、その後、ケトル内の一番麦汁を再度糖化槽へ戻しつつ麦汁を循環(20~30分間)させます。ここで濾過を繰り返し、清澄度を上げていく工程となります。2つの槽をつなぐパイプにはガラスの部分があり、ここで麦汁の清澄度を確認します。一番麦汁はやや濁った状態ですが、循環を続け指が透けて見える程度になった段階で終了し、ケトルに麦汁(1900ℓ)が集められます。三番麦汁用の仕込み水(1000ℓ・90℃)は、次ロットの一番麦汁用の仕込み水に使われます。その後、麦汁は夏には26℃、冬では22℃まで冷却し、発酵槽に移します。

発酵槽

発酵槽はステンレス製で容量2000ℓが6基、ここに1900ℓの麦汁を張り込みます。

発酵槽

基本は4基がウイスキー用で、残り2基がビール用。ビールからウイスキーに変更する際はそのまま使用できますが、ウイスキーからビールに変更する際は洗浄が必要となります。

発酵時間は72時間(ビールは2~3週間)、月に30バッチ以上・最大35バッチ(ビールは5バッチ程度)仕込みます。発酵槽の上部と下部に温度センサーがあり、上限33℃に設定しています。

酵母はウイスキー用ドライイーストの新品を毎回使用しています。培養酵母も使用したことがありますが、発酵不良となり現在は使用していません。ビールの場合は温度を下げると酵母が沈んでくるので回収して再利用しています。ステンレス製なのはビールも発酵させているためで、木桶発酵槽は使えないとのこと。

糖度14.5%で発酵開始し、もろみのアルコール度数は8.1%程度になります。

発酵槽1基分のもろみを2分割して、2つの初留釜に投入します。

ビールの場合は発酵終了後、そのままサービングタンクで保管します。

日本最小クラスのウイスキー蒸留器

蒸留器は、現在容量1000リットルのものが3基。ポルトガル・ホヤ社製の銅製蒸留器はひょうたんのような形状で、ラインアームが細いパイプになっているのが特徴で、クラフト蒸留所では多く使用されています。以前は、容量1000ℓと500ℓの2基で行っていましたが、2018年冬から現在のシステムに。

蒸留器

3基のうち2基が初留釜で、それぞれに950ℓのもろみを投入します。各釜から300ℓ・アルコール22%の初留液を得て、前ロットの前後留分180ℓを加えた合計780ℓを再留釜に投入します。再留はアルコール78%程度から始まり、76%までの10~13分間を前留分として取り出します。ノン・ピーテッド麦芽の場合はアルコール76~61%まで(ヘビリー・ピーテッド麦芽の場合は59%まで)、容量200ℓ・バレル1樽分の本留液を得ます。それ以降はアルコール5%までを後留分として取り出します。初留・再留ともに、冬は8時間、夏は10時間かけて蒸留しています。

各留液はプラ製の小さめのハンディタンク(恐らく20ℓ程度)にとり、その後保管用のタンクに移します。レイアウト的に直接保管タンクに溜めることができないためです。保管用タンクは全部で4基。初留液用が2基、本留液用と前後留液用が各1基。

留液

蒸留器の加熱方法はコイル状スチーム加熱。留液の温度管理も行っており、蒸留釜のボディ上部、ヘッド部、冷却器、留液取り出し部にそれぞれ温度計がセットされています。冷却器は水道水を使用しているため、夏場は冷却効率が悪くなることがありますが、30℃以上にはならないようにしています。

冷却器

熟成は、蒸留所内に数樽保管していますが、あとは15分ほど離れた倉庫にて行っています。サイズはオクタブからバットまで、クオーターカスク(約120ℓ)がメインで、コーヴァル蒸留所の樽(30ガロン・約110ℓ)も使用しています。

テイスティング・アイテム

まずはAMAHAGANシリーズから。これらは長浜蒸溜所の3年熟成モルト原酒と海外モルト原酒をブレンドしたもので、飲みやすく樽の個性を楽しんでもらうことをコンセプトに。また、蒸留所としてはブレンドの技術を習得することも目的としています。

試飲ボトル

続いて長浜蒸溜所の原酒3種類をテイスティングさせていただきました。

  • Bordeaux Red Wine Cask Finish #0986  60.6%
    2017/11/25 1st Fill Bourbon → 2020/06/23 2nd Fill Bordeaux Red 
  • Bourbon樽熟成サンプル #0049 50.3%
    3年熟成  
  • Koval樽熟成サンプル #0614 63.7%
    1年4カ月 アメリカンホワイトオーク・チャー弱め 30ガロン(約110ℓ)

※テイスティングの詳細については、以下の「LIQUL」掲載の記事を参照してください。

新しいことへのチャレンジ

長年クラフトビール醸造所として地域に根差していますが、新たに何か別のものを付加させたいという思いからウイスキー造りに参入。もともと発酵についてのノウハウがあることも後押しになりました。2016年創業なので、現在のクラフト蒸留所ブームの走りといえます。スコットランドでクラフト蒸留所として様々な情報を発信しているストラスアーン蒸溜所を参考にして、短期間でよい熟成が進む傾向にある小型の蒸留器を採用。また、この盆地と琵琶湖のほとりという長浜独特の気候も熟成に向いていると考えられます。香味のコンセプトは「モルティ&スウィートネス」。

創業以来、麦芽の挽き分け具合やミドルカット、バレルエントリーのアルコール度数など様々な工程の変更・改良を行ってきましたが、まだまだ改良点はあるとのこと。日々進歩することが可能なのがクラフトの醍醐味、これからがより楽しみな蒸留所です。

この記事を書いた人

谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
谷嶋 元宏
谷嶋 元宏https://shuiku.jp/
1966年京都府生まれ。早稲田大学理工学部在学中よりカクテルや日本酒、モルトウイスキーに興味を持ち、バーや酒屋、蒸留所などを巡る。化粧品メーカー研究員、高校教員を経て、東京・神楽坂にバー「Fingal」を開店。2016年、日本の洋酒文化・バーライフの普及・啓蒙を推進する「酒育の会」を設立、現在に至る。JSA日本ソムリエ協会認定ソムリエ。