業務用のビールの容器といえば、前回お話したケグ(樽)が一般的ですが、炭酸ガスでビールを押し出すケグは1930年ころ登場し、第二次大戦あたりから普及し始めました。それまで業務用のビールの容器は何だったのでしょう?
それがカスク(これも日本語だと樽)です。
冷蔵庫のなかったころ、ビアパブではビールの入ったカスクを一番温度の低いところ=地下室に置いていました。お客さんがビールを注文すると、店員は階段を降りて地下室に向かい、カスクにつけた蛇口から、ピッチャーのような容器にビールを注ぎます。それをお客さんのテーブルまで運び、カップに注いでいました。つまり、ビアパブの店員はかなりの重労働だったのです。
ジョゼフ・ブラマーは18世紀におけるイギリスの発明家で、有名な発明は1784年の「ピックされない」カギです。ブラマー・ロックカンパニーという会社を作ったブラマーは1790年、ロンドンの店に絶大な自信をもって「この鍵を開けられたものに200ギニーを進呈する」という銘文とともに鍵を展示します。実際にアルフレッド・ホッブスというカギ屋が16日にわたり挑戦をし、51時間かけてそれを開け200ギニーを受け取ったのは、60年以上経った1851年のことでした。
ジョゼフ・ブラマーは地下室のカスクからパブのカウンターまでビールを汲み上げる手動ポンプ(今ではハンドポンプとかビアエンジンとか呼ばれます)を発明し、1785年5月9日に特許を取得します。これによって、パブ店員の労働環境は劇的に改善されました。 カスクやハンドポンプは今もあります。5月はブラマーの功績を称え、パブではハンドポンプで汲み上げるビールを飲みましょう。