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タイタニックで飲まれていたカクテルって何?

「タイタニック号」と言えば、1912年(明治45年)4月15日、処女航海でニューヨークへ向かう途中、北大西洋上で氷山と衝突して沈没、約1500人もの乗客、乗員が犠牲となった悲劇の大型客船。映画『「タイタニック」』(1997年公開)をご覧になった方なら、一等船客たちが豪華なダイニング・ルームで、美味しそうな食事とお酒を楽しむシーンはご記憶にあるだろう。

タイタニックは、当時最新の4万6000トンもの大型客船だった。当然、最高級のお酒や食材が積み込まれていた。この頃、飲食の現場に普及し始めていた電気冷蔵庫や人工製氷機ももちろん完備されていた。1997年にカナダで出版された『「Last Dinner On The Titanic」』(Rick Archbold & Dana MaCauley共著)という本によれば、タイタニックには、約70種類のシャンパンと約110種類の赤、白のワイン(フランス産やドイツ産、イタリア産など)、シェリー、マディラワイン、ポートワイン、ビール、各種スピリッツなどがストックされていたという。

Last Dinner On The Titanic

映画『「タイタニック」』ではカクテルを飲むシーンは出てこないが、船内では、1912年当時すでに人気のあったカクテルが食前酒や食後酒として、主に一等船客に楽しまれていた。バーテンダーとしては、どんなカクテルが提供されていたのかに凄く興味が沸くが、同書には肝心のカクテル名については言及がない。運航会社(ホワイトスター・ライン)が今は消滅していて一次資料がほとんど残っていないこともあり、著者らにもそれ以上突っ込んで調べたいという興味や探求心はなかったのだろう。

パンチ・ロメーヌのレシピ

処女航海時、船上で提供されていたカクテルとして唯一、記録に残っているのは、一等船客に提供されていたディナー・コースに登場する「パンチ・ロメーヌ(Punch Romaine)」である。

レシピの詳細は不明だが、このパンチはすでに19世紀半ばから欧米のバーではかなり知られていたドリンクだった。同書は「クラッシュド・アイス4分の3カップ(約180ml相当)、シャンパン65mll、白ワイン30ml、シロップ約30ml、オレンジジュース10ml、レモンジュース4分の3 teaspoon、ホワイト・ラム(最後にスプレイ)、オレンジピール(最後に飾る)。ラムとオレンジピール以外の材料をブレンダーに入れてつくる」と推定レシピを紹介している(※レシピは8人分なので、1人分用に換算した)。

出来上がりはパンチというより、口直しのシャーベットのような雰囲気。このパンチは、ファーストクラス船客のための豪華なディナー・コースの6番目に登場した(ちなみに、この後、ローストした小鳩<Squab>、アスパラガスのサラダ、フォアグラ、デザート、フルーツ&チーズと続く)。

実はタイタニックの船内にはカフェはあったが、なぜか、独立したバー・ルーム(コーナー)は設けられなかった。セレブな船客たちは、大食堂のそばのカフェで食前酒や食後酒を楽しむことができた。欧米のカクテル専門サイトでも、「最新、最高級のタイタニックでは、きっとカフェでも最新流行のカクテルが提供されていたはずだ」と記す。人工製氷機も常備していたので当然、氷を使ったロング・カクテルやシェイカーを振るショート・カクテルの提供も可能だったろう。

手掛かりとなるドリンクメニュー

果たしてどんなカクテルが飲まれていたのか?信頼できる手掛かりが一つある。タイタニックの1年前に建造された、ほぼ同規模の姉妹船オリンピック号のCafé Parisian(タイタニックのCaféもなぜか同じ名前だった)のドリンクメニューが幸い残っている。

オリンピック号のCafé Parisian

そのメニューには、サイドカー、アレキザサンダー、マンハッタン、ロブロイ、ブロンクス、マティーニ、シャンパン・カクテル、エッグノッグ、ジン・フィズ、ジン・リッキー、トム・コリンズなど現在でも人気のカクテルの名が見える。これらのカクテルは(サイドカー以外は)1900年前後に欧米で出版されたカクテルブックにも登場している。タイタニックでもほぼ同様のカクテルが提供されていたことは、まず間違いない。

タイタニックには、豪華客船の処女航海ということもあって、ニューヨークに戻る(あるいは訪れる)セレブも数多く乗船していた。なので当然、1900年代のニューヨークで流行っていた(あるいは流行り始めていた)というバンブーやジャック・ローズ、ダイキリも飲まれていたのではないかもと私は想像している。次回タイタニックの悲劇をテーマにした映画をつくる際には、どうか船客がカクテルを飲むシーンも入れてほしいと心から願っている。バーテンダー役はもちろん、中高年に達した渋いレオ様で。

この記事を書いた人

荒川 英二
荒川 英二https://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/
1954年生まれ。大阪・北新地のバーUK・オーナーバーテンダー、バー・エッセイスト。新聞社在職中から全国のバーを巡りながら、2004年以来、バー文化について自身のブログで発信。クラシック・カクテルの研究もライフワークとしてきた。2014年 の定年退職と同時に、長年の夢であった自らのバーをオープン。切り絵作家の故・成田一徹氏没後に出版されたバー切り絵作品集『NARITA ITTETSU to the BAR』では編者をつとめた。
荒川 英二
荒川 英二https://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/
1954年生まれ。大阪・北新地のバーUK・オーナーバーテンダー、バー・エッセイスト。新聞社在職中から全国のバーを巡りながら、2004年以来、バー文化について自身のブログで発信。クラシック・カクテルの研究もライフワークとしてきた。2014年 の定年退職と同時に、長年の夢であった自らのバーをオープン。切り絵作家の故・成田一徹氏没後に出版されたバー切り絵作品集『NARITA ITTETSU to the BAR』では編者をつとめた。