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酒類のおいしさの科学3:身近な罠からテイスティングを学ぶ

前回の記事は味覚修飾物質を含むギムネマ茶で甘味を消し、酒類に様々な甘味寄与物質が含まれていることを体験してもらいました。このような味を変えてしまう物質は身近にたくさんあります。

歯を磨くとマズイ

例えば歯磨き粉。ラウリル硫酸ナトリウムという優秀な泡立ちの界面活性剤が、歯磨き粉やリステリンなどの洗口液に必ずと言っていいほど含まれています。

歯磨きをしたあとにオレンジジュースを飲むとまずいと感じたことがあるかと思いますが、甘味受容体にラウリル硫酸ナトリウムが作用し、甘味を低減させるのです。つまりテイスティングする前に口内清掃をするとマズイです。

このラウリル硫酸ナトリウムが入っていない天然素材系の歯磨き粉などもありますので、気になる方は探してみてください。酒の中でこのような作用をするおもしろいものがあります。それはアブサンです。私が偶然体験したのですが、アブサンの種類によってもその効果は違うようで、口内で十分に味わったあと砂糖が砂のように感じました。

唾液の重要性

唾液も味を変えます。唾液は食べ物から咀嚼と並行して味を抽出し、伝え、食塊をまとめてスムーズに嚥下するために活躍しています。また口内pHを中性付近に保つことで、酸性で歯が脱灰して虫歯になるのを防いでくれています。この酸の緩衝作用が見逃せません。唾液が十分にあるときは酸味を緩衝するため、ややマイルドに感じます。さすがにレモンをかじったときは酸の量に負けて酸っぱいですが、低濃度の酸味には効果的に働きます。

例えばコーヒーの酸味。はじめは酸味を感じないのに、コーヒーがぬるくなってくると、一度に飲む量や飲む時間間隔が短くなり、酸味を緩衝してくれる唾液が洗い流され、足りなくなってしまいます。酸味が気になるな……と思ったら一息(30~60秒)ついて、唾液が戻ってきたら飲んでみましょう。

酒で言えばビール、日本酒、ワイン、樽熟成の蒸留酒などが当てはまるでしょう。これらの酒のpHはほぼ例外なく酸性です。口内でpHが一度、酒のpHになった後、だんだんと中性に戻ります。唾液が十分にあればマイルドでうま味や甘味が感じやすく、唾液がなければ酸味やキレと感じ、うま味や甘味などが減少して感じます。

もちろん一口量・飲む間隔にも作用します。飲食でpHが目まぐるしく変わることは味の変化だけでなく、口内で発生する揮発性香気成分の種類にも作用します(この話題はまた今度お話します)。

味と温度の関係

話がどんどん反れていきますが、温度についても軽く触れておきましょう。

このコーヒーが酸っぱくなる現象については温度依存も関係します。温度が低下すると、温度依存がある苦味等が減少し、温度依存の少ない酸味が際立って感じられるようになると考えられます。料理やお弁当が冷えてからしょっぱく感じるのもこのためです。なぜ温度依存が甘味・苦味・うま味にあるか簡単に述べると、各味覚受容体に味物質が受容した後、伝達するのが酵素反応で、温度が体温~少し高いくらいだとその酵素活性が高くなるからです。

※呈味化合物によりこの傾向に従わないものもある(例:果糖は冷やすと構造が変わり、甘味受容体にピタリとハマり、甘味を強く感じる)

暑いこの時期、氷の入った冷たいドリンクやお冷を提供され、飲み続けることは舌・口内の温度も冷やして、見事に味の感じ方を変えてしまいます。それがいいのか悪いのかは消費者に対してどう感じて欲しいかによると思います。もし、口内リセットをするなら「ぬるま湯で口内を戻す」ことです。ちょっとした罠にはちょっとした方法で対処することができます。

次回はこのようにテイスティングする工夫にも注目してみましょう。

この記事を書いた人

高橋 貴洋
高橋 貴洋http://www.mikaku.jp/
㈱味香り戦略研究所 所属。古典音楽が現代でも楽譜で伝承されると同様に、食品の分析を通じ「食譜」の構築を手掛ける。味覚や嗅覚のセミナー等を通じ、メディア・企業などにおいしさを科学的に解説している。
高橋 貴洋
高橋 貴洋http://www.mikaku.jp/
㈱味香り戦略研究所 所属。古典音楽が現代でも楽譜で伝承されると同様に、食品の分析を通じ「食譜」の構築を手掛ける。味覚や嗅覚のセミナー等を通じ、メディア・企業などにおいしさを科学的に解説している。