History in a glass No10
HOYA クリスタル ロックグラス
2009年5月、終戦直後から続いてきたグラスメーカーが、リーマン・ショックの煽りを受けて、静かに幕を閉じた。
「HOYA クリスタル」
国内での主要グラスメーカーであった為、いまだに安価な製品は市場に残っており、手に入れることも出来るので、HOYAがグラスを作っていないと認識している人はどれほどであろうか。
かつて足繫く通っていた南青山の旗艦店「HOYA CRYSTAL TOKYO」は建築家・中村拓志氏がデザインした、美しくストーリー性のあるクリエイティブな空間であった。
ここで閉店を知らされ、たまたま来ていた制作の責任者に「やめるべきではない」と強く懇願したのを覚えている。彼も「もう釜の火を落としてしまったので」と寂しさをあらわにしていた。
もう入手することが出来なくなるのならば、手に入れられるだけ買い付けようと、グラスだけではなく、オブジェ、花器、デキャンタなどを買い揃えた。お店で普通に使用している物もあれば、大事にしまっている物もある。いつかギャラリーを借りてそれらを展示するのが私の夢である。
HOYAクリスタルはバブル崩壊後、大量生産のグラスは止め、オールハンドメイドの商品に移行しており、当然の事ながら熟練の職人が請け負うことになった。
彼らの技術の真骨頂は、カットをグラス底から縁の部分まで入れられることだ。グラス底は厚いのに対して、エッジの部分は薄い。そこに均等に線を入れていくのは至難の業である。写真のグラスもその技術が使われており、地球儀の様な、丸氷を入れるために作られたとも思えるグラスである。
HOYAを離れた職人たちは今ではどうしているのだろう。復帰して新しいブランドを立ち上げてくれることを願うばかりである。