History in a glass No18
アンティーク リキュールグラス
名もなきアンティークのリキュールグラスが手元にある。おそらくカットの様式で、イギリスで作られた物だろうと推測する。
20年ほど前、とあるグラスコレクターの展示会に行く機会があり、このグラスに出会った。それまでグラスにある程度の興味はあったものの、美しいと感じることは少なく、バカラやラリックといったブランドが良いものだと信じていた。この小さなグラスを手に取り、眺めていると、今まで感じたことのない、不思議な感覚に囚われた。それは私が初めてアンティークグラスに触れた衝動の様なものであり、また、このグラスを所有したいという欲にも駆られた。これが私のグラスコレクション第一号。
しかもリキュールグラスである。その当時、リキュールをストレートで飲む人を見たことがなかった。カクテルの副材料としての役割しか果たしておらず、着色され、ケミカルな味を醸し出していた。そのようなリキュールをストレートで楽しむ人はいない。そう思っていた。
しかしその後、私が働きだしたバーでは、オールドのリキュールを沢山扱っており、シャルトリューズやベネディクティン、アマレットといった香草系から種子系まで幅広く取り揃えてあった。それらはマスターが海外で買い付けてきたものであり、そのバーのお客様は皆、リキュールグラスで普通に楽しまれていたのには驚いた。
自分で購入したグラスに注いで飲んでみると、今まで私が知っていた価値観からは程遠く、リキュールとグラスが一体になっているのを、初めて目の当たりにした。
今、私の店では数脚のアンティークのリキュールグラスがある。味も色も濃いリキュールを注ぐと何とも言えない雰囲気を出してくれる。やはりグラスは用の美である。