Tasting Vocabulary 101
香ばしい
日本語で「香ばしい」と書けばおそらく想像されるのは「醤油の焦げた匂い」、「炒ったナッツの匂い」、「焼き魚の匂い」、「オーブントースターでほんのり焼き色のついた食パンの匂い」などだろう。
共通するのは「軽く心地よい焦げ感」というところだろうか。英語で香ばしいに該当する単語をあえて挙げるとすれば「toasty」と「roasty」だろう。
前者は「パンをトーストする」の「toast(トースト)」の派生語だ。ただこれは文字通りオーブントースターで焼いた時のパンの香りと言ったようなかなり限定的な表現であって、肉や魚を焼いたりしたときの香りなどは表現できない。「roasty」もどちらかと言うと同じで、こちらはコーヒー豆を焙煎したり、お茶を焙じた時の香りなどに限定されてしまう。より幅広く「香ばしさ」を表現しようとすれば、roastyの元の単語である「roast(ロースト)」か「grill(グリル)」と言った単語を使うことになる。
これらの単語は動詞のため、実際に香りの表現に使うとなると、「roasted nuts」や「grilled bacon」のように受動態にした上で具体的な食べ物の前に置くことが必要になる。
ここからわかるように英語には「香ばしい」のような、対象物が何であれ「心地よい焦げ感」そのものを表現する方法がない。toastyもroasty/roastedもgrilledも「○○という食材を調理した時に感じられる香り」というかなり具体的な表現なのだ。
逆に言えば日本語の「香ばしい」という表現はかなり抽象的な表現とも言えるだろう。実際、「このウイスキーは香ばしいね!」と言われても、どんな香りなのか具体的に想像することは難しいかもしれない。より人に伝わりやすくするためには「焼きたてのパンのように香ばしい」とより具体的な表現が必要なはずだ。
そうして考えてみると、英語のような調理法ベースの香ばしさの表現はなかなか使い勝手がいいとも言えるかもしれない。
それでもやはり「香ばしい」が難しいことには変わりがない。例えば醤油を焦がしたときの香ばしさを英語で表現するとなるとどうなるだろう?
そのものズバリ、「burn(焦がす)」の受動態である「burnt」を使うことになるかと思うが、こうなると香ばしいと想像するのか、加熱しすぎてフライパンから煙が出てしまっているような状況を想像するのか、受け手側の解釈次第となってしまう。おそらく日本食に馴染みがなければ「burnt soy sauce」と言われて、香ばしいとポジティブに捉える方が珍しいかもしれない。
逆に、一方英語には「caramelized」というのもある。日本語でいうところのカラメルやキャラメルから派生した語彙だが、糖分が焦げて茶色くなったと言うようなかなり具体的な意味合いだ。
クリーム・ブリュレの表面の茶色く焦げた砂糖や、茶色くなるまで炒めた玉ねぎなどをそれぞれ「carameralized sugar」や「caramelized onion」と表現する。「甘い焦げ感」と言ったところだろうが、これに対応する語は日本語にはなかなか無いかもしれない。