Tasting Vocabulary 101
Cold Crash
ホームブリューイングがアメリカで解禁されて既に40年。この間、ホームブリューイングによるビールの質は限りなくプロレベルに近づいたと言って良い。
その中でも最も驚くべき進歩がビールの清澄度だ。
沈殿した酵母を取り除いた二次発酵中のビールにお湯で溶いたゼラチンを入れて数日おけば、ビール内に浮遊する酵母やホップのカス、タンパク質などがゼラチンと一緒になって底に沈殿する。
これだけでもビールはかなり澄んだものになるが、更にこれを2〜-1℃程度まで冷しながら行うとビールは限りなく澄んだものになる。これがCold Crash。
ラガーで行えば出来上がったビールは目がチカチカするほどだ。
商業用醸造所でも一般的に行われるこのテクニック、実際の所はビールをここまで冷やすのは家庭ではちょっと難しい。冷蔵庫では温度が高過ぎるのだ。やはりここは一念発起、ビール用の専用冷蔵庫を手に入れて欲しい。
きちんとしたものならCold Crash機能が付いているはずだ。
High Gravity
Baby Sick
今回はあまり愉快な表現ではないのでご勘弁。
SMWSでの樽選びを通しての最も貴重な経験は「世の中には飲めないウィスキーが存在する」ということだった。希少なのではない。「不味過ぎ」て飲めないのだ。そのほとんどがなんらかの理由で樽が極端に不良な場合だ。
そんなものをあえてシングルカスクとしてリリースすることはあり得ないし、シングルモルトやブレンデットに混入していても他の原酒に紛れてほとんどわからない。つまり消費者が不良な樽由来の味わいを経験する可能性はまずないと言ってっていい。
それでもミスは起きるもの。ごく稀ではあれ樽不良を思わせるウィスキーに出くわすことがある。最も多いのはヨーグルト系の乳酸臭。ニートではわからないけれど、加水して時間を置くと顕著になりやすい。 いろいろな表現が思い浮かぶだろうが、よく使用される表現がBaby Sick。お乳を飲んだ赤ちゃんがもどした時のあの臭いだ。
時代の証人
The Popcorn
NASCARとpopcornと聞いてピンと来る者はそういないだろう。
NASCARの起源は1920年から始まった禁酒法にさかのぼる。禁酒法時代、山深いアパラチアの谷間では数多くの違法蒸溜家たちがトウモロコシを蒸溜し、頭がクラクラするほどのホワイトスピリッツ、すなわちムーンシャインを密造して財を築いていた。
当然司法当局の取り締まりは凄まじい。悪路の中、追跡を逃れるために必要なのはともかく足の速い車とどんなカーブでも速度を緩めない肝っ玉。やがて彼らは車の性能や運転技術を競い合うようになる。これが禁酒法撤廃後NASCARへと発展していく。
一方、ムーンシャインは次第に忘れ去られていくことに。ところがこれで話は終わりではなかった。バージニアやノースカロライナ等のアパラチア山脈西側では密造酒造りが細々と、しかし連綿と継承されていく。
それはエスタブリッシュメントによってこの地へと追いやられたスコッツ・アイリッシュ移民の反骨精神そのものだった。戦後間もなくノースカロライナ州マギーバレーに生まれたMarvin Sutton。気性の荒さから「Popcorn」の諢名がつけられた彼にとっても、それは自身のルーツであり、日々の営みだった。
やがて彼はリアリティ番組によって「発掘」され、時代の寵児となっていく。ムーンシャインは「再発見」され、アメリカン・スピリッツとして確固たる地位を築いていく一方で、密造の二文字は手垢にまみれたマーケティング・バズワードへと変容していく。
その後も違法蒸溜にこだわったSutton。数度の摘発の後、遂に収監が避けられないことを悟った彼は2009年、自死を遂げてしまう。そう、真の意味でのムーンシャインと共に。