Tasting Vocabulary 101
ペアドロップス
スペイサイドのウィスキーと聞いて、どんな味わいをイメージするだろう?昔のMacallan のような深いシェリーの味わいだろうか。それともBalvenie によく見られるバーボン樽由来のココナッツ臭?
Craganmore のようなハチミツ臭を思い浮かべる方もいるかもしれない。よっぽど特殊なケースでなければスモーキーとか薬品といった表現は出てこないと思うが、いかにも代表的と思えるのは何と言ってもバナナやリンゴそして西洋ナシといったいわゆる黄色いフルーツのエステル香だ。スペイサイドのハウススタイルといってもいい。
もちろん個別のフルーツや単に「エステル香」で表現してもいいが、イギリスで〝ははーん〞と思わせるには「ペアドロップス」と言えばいい。ペアドロップスはイギリスの子供なら誰しも一度は口にするピンクか黄色のフルーツ風味のキャンディで、日本で言うならサクマ( 式) ドロップスのようなもの。香りのもとは酢酸イソアミルといういかにも人工的な香料だが、これを舐めてスペイサイド・ウィスキーを試してみれば必ずや笑みがこぼれること間違いなし。
イギリスの駄菓子屋なら大抵どこでも売っているはずだ。
High Gravity
レシピ
水、大麦麦芽、ホップ、そして酵母。ビールの基本的な原材料はたったこれだけだけど、これがなかなかどうして奥が深い。
麦芽は品種に加えて焙煎の方法や度合が数多く存在するし、ホップの品種はゴマンとある。酵母の種類も様々で、その組み合わせたるや膨大な数に上ってしまう。
ホップは麦汁を煮出す際に加えるのだけど、どのタイミングで加えるかによって得られる香りや苦味が違ってくる。
一回で全量を放り込むことはほとんどなくて、異なるホップを組み合わせ、麦汁が沸騰した直後にXグラム、30分後にYグラム、そして火を消す直前にZグラムと様々なタイミングで加えるのが一般的だ。
ひとつのビールについて麦芽やホップ、酵母の種類、糖化温度、ホップ添加のタイミング等をまとめたものをビア・レシピと呼ぶのだけど、多くはネットに公開されている。次はどんなビールを仕込もうかとあれこれレシピを検索するのもホームブリューイングの楽しみの一つ。
時代の証人
The “Real McCoy”
The “Real McCoy”「本物」を意味するどことなく古めかしいスラングだ。
日本語で言えば「モノホン」の方が語感としては近いかもしれない。
語源については諸説あるけれど、なと言ってもこの言葉を一躍有名にしたのがBill McCoyことWilliam Frederick McCoyだ。
1920年春、傾きかけたヨット造船業に見切りをつけたBillと兄弟のBenは、当時施行されたばかりの禁酒法の裏をかいて海路からラムやライ、スコッチにアイリッシュなどを密輸することを企てる。いわいるRum Runningだ。
もともと酒を口にしないBillにとっては何のゆかりもない仕事だったが、大海原を優雅な帆船で駆け回るこの仕事はまさに天職だったらしく、南はバハマのナッソーから北はカナダのハリファックスと北米沿岸を文字通り縦横無尽に疾走したという。
当初は港に直接荷揚げをしていたBillだったが、ある時、洋上で帆船から小型漁船に荷降ろしすればよほど効率が良いことに気がつく。当時アメリカの領海は3海里。つまり沿岸からたった6キロも離れれば、公海上で堂々と酒のやり取りが可能なわけだ。
沖合に停泊する帆船と横付けを待つ漁船の長蛇の列。これが有名なRum Rowの光景。たまらずアメリカは1924年、自国の領海を12海里に設定し直している。酒を嗜まなかったせいか、Billは密輸した酒などに混ぜ物をすることは一切しなかった。
マガイモノが横行していた時代、やがて人々の間では「モノホンが欲しけりゃBillから手に入れろ」が合言葉に。1923年暮れに捕まるまで実に400万本以上のReal McCoyが米国民の喉を潤したという。