カルバドスとは何か?
リンゴの蒸留酒は、ドイツ・イタリアなどのヨーロッパやアメリカなど多くの国で造られています。その多くは樽であまり熟成させていない、リンゴのフレッシュな香味を楽しむものです。
数多くあるリンゴの蒸留酒の中で、最も気品あるのはフランス北西部ノルマンディー地方で造られるカルバドスです。
カルバドスはフランスの原産地呼称法AOCにて、下図のように3つのカテゴリーに分けられています。
ちなみにカルバドスでは、りんごのほかに数種類の洋ナシの使用も許可されており、カテゴリーによってその割合も決められています。洋ナシはりんごと比べて、まろやかで甘味が強く、独特の芳香を持っています。
ACカルバドス(AC Calvados)
一番広範囲のAOCで、バランスよく心地よい香味が特徴です。蒸溜器についての規定はありませんが、多くはアルマニャックと同じ半連続式が使われます。
ACペイ・ドージュ(AC Calvados Pays d’Auge)
3つのカテゴリーの中では一番基準が厳しいため、より高品質なものが多く、その複雑なアロマは他に類を見ない気高さがあります。若いものはフレッシュなリンゴ感で、熟成が進んだものはその深遠なアロマで人を魅了します。
コニャックと同じシャラント型の蒸溜器で2回蒸留します。
ACドムフロンテ(AC Calvados Domfrotais)
原料に洋ナシを多く使用したカルバドスです。全体的にややもっさりと感じるものが多いですが、そのまろやかさや独特の芳香は魅惑的です。
アルマニャックと同じ半連続式蒸溜器が使われています。
カルバドスと映画・アニメ
海外の映画では、お酒を小道具としてうまく使っているものが多くあります。
カルバドスで一番印象的な映画は、イングリット・バーグマン主演の『凱旋門』でしょう。
パリに亡命していたドイツ人医師と、セーヌ川に身を投げようとしていた女性との愛の物語。第2次大戦中のパリという暗い時代に芽生えた恋とその悲しい結末、甘いだけでなくほろ苦さも持つカルバドスの味わいとまさにマッチした内容と言えます。
アニメでは『名探偵コナン』も印象的ですね。
構成員の名前がお酒になっている「黒の組織」の中にカルバドスがいます。彼はスナイパーで、思いを寄せるベルモットのために働くのですが、最後は彼女に見捨てられ自殺してしまう。
一途な思いとほろ苦い結末……これもカルバドスの味わいに通じるものがあるのではと思います。
カルバドスと料理
カルバドスは食後酒として楽しまれることが多いですが、料理、デザートなどでも使われることもあります。
「ノルマンディー風」と付いていると、シードルかカルバドスなどを使った料理を指します。シードルで蒸し煮にした魚料理や、カルバドスを振りかけた焼き菓子などですね。
ノルマンディーにある世界遺産モン・サン・ミッシェルの参道には、有名なオムレツがあります。
卵をしっかりと泡立てて、フワッと焼き上げたデザートです。この上に砂糖をふりかけ、火をつけたカルバドスを回しかけフランベします。リンゴとカラメルの甘く心地よい香りがまわりに広がります。リンゴの風味と卵の相性も良く、口当たりの良いデザートといえます。
ポモー・ド・ノルマンディーとは何か?
果汁にその果実のブランデーを加えたお酒、vin de liqueur ヴァン・ド・リクールのこと。
シェリーやポートなどと同じ酒精強化ワインの一種ですが、未発酵の果汁を使うため自然の甘味が感じられる心地よいお酒です。コニャック地方ではピノー・デ・シャラント、アルマニャック地方ではフロック・ド・ガスコーニュ、シャンパーニュ地方ではマールを加えたラタフィア・ド・シャンパーニュなどがあります。
ノルマンディーでは、リンゴ果汁にリンゴのブランデー、カルバドスを加えたポモー・ド・ノルマンディーがあります。
割合は果汁3に対してカルバドス1程度、アルコール度数は16~18%です。これはAOCで規格させており、14ヶ月以上の樽熟成が義務付けられています。
品の良い優しい甘味と心地よい酸味や渋味がバランスよく広がり、食前でも食後でも楽しめるお酒です。少し冷やしてストレートで、またロックやソーダ割でもお試しください。
ジブレとは何か?
シードルの中でひときわ異彩を放っているお酒があります。
個性豊かなカルバドスをリリースしているデュポン社が造るGivreジブレです。
これはカナダなどのアイスワインのような製法で造られています。シードルを低温で半凍結させ、プレスすることで氷分を取り除き、凍っていないエキス分を取り出すという作業を数回繰り返すことで、糖度やアルコール度数を徐々に上げていきます。おおよそ5倍に濃縮したものが、このジブレです。
ただ甘味が強いだけではなく、酸味や渋味もしっかりとバランスよく広がります。まさに、リンゴのよさを全てギュッと濃縮したような深い味わいになっています。
アルコール度数も6%ですので、冷蔵庫で冷やしてそのままゆっくりと楽しんで下さい。
ジブレお問い合わせ先
スリーリバーズ
TEL:03-3926-3508
e-mail:trivers@m17.alpha-net.ne.jp
りんごのカクテル
リンゴのお酒は香りもよくそのままでも十分に美味しいですが、ここではより楽しめるカクテルをご紹介いたします。
キール・ノルマンディー
シードルは発泡性ですので、シャンパーニュと同じように楽しむとよいでしょう。
おススメは「キール・ノルマンディー」。
シャンパーニュ・グラスにカシスのリキュールを適量注ぎ、よく冷やしたシードルで満たします。シャンパーニュ・ベースの「キール・ロワイヤル」よりもふくよかで複雑な味わいを楽しめます。
シードル・モヒート
夏の定番となった「モヒート」のシードル版・「シードル・モヒート」もおススメです。
グラスにフレッシュミント・ライム・砂糖を入れ軽く潰した後、クラッシュド・アイスを詰めて、その上からシードルを注ぎます。ミントとリンゴの爽やかさがマッチして、夏の昼下がりにもってこいのカクテルです。
ホット・シードル
どちらかというと夏向きのシードルですが、冬場は「ホット・シードル」もよいですね。
シードルを泡が吹かないよう気を付けながら直火で温め、カップに注いたら、ポモー・ド・ノルマンディー(ガムシロップでもよい)を好みで加え、シナモン・スティックを添えます。
焼きリンゴのような風味が心地よく、体が温まるカクテルです。
ジャック・ローズ
カルバドスを使ったカクテルというと、真っ先に挙がるのが「ジャック・ローズ」ですね。
カルバドスとライム・ジュース、ザクロのシロップをシェークし、カクテルグラスに注ぎます。鮮やかなローズカラー、魅惑的なアロマ、まろやかで複雑なテイストが心を魅了するカクテルです。映画『タイタニック』の主人公の名前が、ジャックとローズでしたね。関係あるのかはわかりませんが……
アップル・カー
定番のカクテルには、ちょっと微妙な名前の「アップル・カー」 もあります。
コニャック・ベースの「サイドカー」のカルバドス版ですね。
カルバドスとコアントロー、レモン・ジュースをシェークして、カクテルグラスに注ぎます。ネーミングセンスには賛否両論あるかもしれませんが(カボチャの馬車みたいなイメージ?)、バランスよくすっきりとした味わいで楽しめます。
カルボール
若いカルバドスを楽しむなら、ハイボールもおススメです。
カルバドスのハイボール・「カルボール」ですね。
グラスに氷を入れ、カルバドスを注ぎ、ソーダで満たします。そのままでもよいですが、ガーニッシュとしてスライスしたリンゴとローズマリーを飾れば完璧です。
ブランデーのハイボールなんて・・・と思われるかもしれませんが、フレッシュで爽やかなリンゴの風味がしっかりと楽しめますので、ぜひ一度試してみてください。