自分にとって特別なオフィシャルボトル。マイウイスキーづくりの余市10年が自宅に届きました。今回は番外編として、オフィシャルのなかでも路線の違うボトルを紹介します。
ニッカウイスキー(アサヒビール)が毎年開催しているこの取り組みは、余市または宮城峡蒸留所でウイスキー製造工程を体験し、樽詰めした原酒を10年後にボトリングして、参加者に届けてくれるというものです。
マイウイスキーは、厳密に言えば参加者が仕込んだ原酒が樽に詰められているわけではありません。しかしそうであっても自分の分身のように思えるもので、ニュースピリッツだけに魂の一部が蒸留所にあるような感覚。それは自分の時間軸と熟成期間がリンクしたような……あるいは、原酒の熟成期間と同じだけ、自分の過ぎ去った時間が溶け込んでいるような……不思議な感覚があるのです。
現在販売されている余市のスタンダードグレードは、新樽やリメード樽由来の柔らかいウッディさの中に、香ばしさと厚みのあるフレーバー。余市のニューメイクに共通する若い原酒由来の奔放さと酸味、焦がしたようなピートフレーバーも個性として感じられ、幅広い熟成年数の原酒が使われているからこその味わいがあります。
リリース当初は若さが目立っていた印象がありますが、ロットが変わって構成原酒の樽感が濃くなったのか、バランスが取れてきたようにも感じます。
一方、マイウイスキーの余市は、そのスタンダードを構成する1ピースである新樽熟成のシングルカスクです。
樽によって個体差はありますが、バーボンウイスキーを思わせるメローで濃厚なチャーオークフレーバーが主体。パワフルな味わいの中にパイナップルや柑橘系の果汁を思わせる、熟成を経て変化した余市の酒質由来のフルーティーさ。余韻にかけて広がるウッディなタンニンは、濃く入れた紅茶やカカオチョコレートのようなほろ苦さで全体を引き締めています。
周囲の愛好家をして、これぞ余市と言える仕上がり。やはり武骨で濃厚な新樽フレーバーあってのニッカなのでしょう。異なる仕込み時期のものも個体差はあれど同様の系統であり、新樽の影響の強さが伺えます。
これまで、熟成前提のカスクオーナー制度は国内で実施している蒸留所が少なく、特に1本単位から参加できるのはニッカのマイウイスキー関連くらいでした。その企画もブームによって何十倍という抽選倍率となってしまっていたところ。安積、三郎丸、静岡、長濱といったクラフトディスティラリーがカスクオーナー制度を始めたことで、ハードルは大きく下がったと言えます。
嗜好品としてのウイスキーの楽しみ方は、単に香味だけにあらず、ウイスキーそのものに関わる様々な情報を含めて味わうことにもあります。先に書いた自分の分身とも言える原酒であれば、グラスの中に広がる景色は通常のオフィシャルとは比較にならないほど特別なものとなります。
将来グラスを傾けるその瞬間のため、今から気になる蒸留所のカスクオーナーを検討してみてはいかがでしょう。