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蒸留所を通じて見る世界:アイリッシュウイスキー再興の旗手・ティーリング家とティーリング蒸溜所

アイルランドの首都ダブリンには、現在4つの蒸留所が稼働しており、ウイスキーツーリズムが隆盛しています。その中で見学を欠かしてはならないのが、ダブリンに125年ぶりに設立された、リフィー川の南岸リバティー地区のティーリング蒸溜所です。その蒸留所の外壁に飾られ、またボトルに大きく描かれたエンブレムこそが、ティーリング家の生き様を示していると言えるでしょう。

ティーリング家のウイスキー造りの歴史

1980年代、アイルランドで稼働している南部の主要都市コーク近郊のミドルトン蒸留所と北アイルランドのブッシュミルズ蒸留所はすべて外資の傘下にありました。その様子を複雑な心境で見ていたのがジョン・ティーリング氏でした。

1782年当時に先祖がダブリンで蒸留所を開いていたジョン・ティーリング氏は、70年代のハーバード大学在学中にウイスキー産業について勉強し、いつか自分で蒸留所を持つ夢を持っていました。しかし、その後はアイルランドで女性下着の製造からザンビアで金鉱採掘など、様々な業務経験を積んでいきます。そのような中、1987年にアイルランド政府が所有する工業用アルコールやスピリッツを造っていたケミック・トー(Cemici Toe)蒸溜所が売りに出され、ジョン・ティーリング氏は仲間とともにこれを買い取りました。それを改名したのがクーリー蒸溜所です。

クーリー蒸溜所では、もともとアルコール製造のためにあった4基の連続式蒸留機と、1989年には廃止されたベルファスト近郊にあったオールド・コーマー(Old Comber)蒸溜所から移設した2基の単式蒸留器を改修し、アイリッシュ伝統の3回蒸留ではなく2回蒸留、そしてピートを使ったウイスキーを製造しました。また、ラベルには昔のボンダーズ(Bonders スコッチでいうボトラーズ)のブランドであったターコネルズなどを展開します。また、博物館であったキルベガン蒸留所を買収し、気炎を上げます。

しかし、宣伝力・ブランド力のないクーリー蒸溜所社は事業展開に行き詰まり、2011年にジム・ビームを所有するフォーチューンブランドに買収されました(そのフォーチューンブランドを2012年に買収したのがサントリーです)。

ブランド力の無さを痛感したのが、ジョン・ティーリング氏の息子である、ジャックとステファンの兄弟です。そこで、彼らが取った戦略は、蒸留所売却の条件として譲渡された16,000丁の樽と、売却して得た資金を活用して同じく販売が振るわなかったブッシュミルズ蒸溜所の原酒を購入して、ボンダーズとして事業を展開することでした。そしてその原酒のトロピカルフレーバーにより名声を勝ち取り、『ティーリング』というブランドを確立していきました。

そこで満を持して、2015年に設立したのが、ティーリング蒸溜所になります。

ティーリング蒸溜所の見学ツアーにおいては、上記説明がないので、この事前知識をもって臨むと感慨深いと思われます。

ティーリング蒸溜所の見学

蒸留所の建屋の1階には、アイリッシュとダブリンのウイスキーの歴史の展示があり、そこで説明を受けた後に製造現場を見学します。この蒸留所では、ポットスチルウイスキーとシングルモルトウイスキーを製造しています。蒸留所の建屋は大きいものの製造現場自体はコンパクトで、一つの部屋で糖化・発酵・蒸留という主要な製造工程が行われています。蒸留所のマスター・ディスティラーや製造スタッフの多くは、クーリー蒸溜所から移動しており、これまでのノウハウは受け継がれています。

1バッチ3tで約15,000ℓの麦汁を造るといった一般的なプロセスですが、発酵においては珍しい製造方法を行っています。発酵槽を2種備えており、前半は木桶発酵槽で24時間、後半はステンレス製発酵槽でと二段階の発酵を行っています。イーストもディスティラリー酵母と白ワイン酵母を併用するといった、独自のアプローチを行っています。

そうすることで、彼らが望む華やかでフルーティな味わいを作り出しているそうです。そうしてできたアルコール8%の醪を、アイリッシュらしくイタリア・フィリッリ製の3基の単式蒸留器で3回蒸留しています。なお、3基の蒸留器には、兄のジョンの娘たちの名前が付けられています。

年間生産量は50万ℓと生産規模は大きくないですが、2017年より一部バカルディ社に資本提携して販路を拡大していることから、今後は製造規模も拡大していくと思われます。

なお、樽は他の蒸留所のように郊外の集中熟成庫で貯蔵していますが、特別に3丁の樽が蒸留所内に貯蔵されています。一つは、ティーリング蒸溜所としての最初のカスク、そして残りは弟ステファンの娘二人の誕生日に詰められた樽になります。

余談ですが、蒸留所のあるリバティーズ地区は1875年にThe Great Whiskey Fireというウイスキーが引火してダブリンを壊滅させた大火が発生していることから、熟成庫はここに置きたくないのかもしれません。なお、大火での死者数は13名となっていますが、その理由は崩落した熟成庫から流れたウイスキー(一部家畜の糞尿や道路の粉塵まじり)を飲み過ぎたことによる急性アルコール中毒だそうです。

コンパクトな製造設備のため、見学は20分強で終わりますが、以前開催した写真作品展の縁で招待頂いた “Single Malt Experience”ツアーにおいては、4種のアイリッシュウイスキーについて本格的なレクチャーを受けながらテイスティングをしました。味わいからは、クーリー蒸溜所原酒と思われますが、同蒸溜所の長期熟成によって生まれる圧倒的なパッションフルーツ感によるトロピカルフレーバーに舌鼓を打ちます。

ツアー後には、樽から直接瓶詰できる体験(短熟・長熟の2種)や蒸留所限定で販売されているギフト、ティーリングのウイスキーを使ったカクテルや追加のテイスティングが楽しめます。もちろん、ティーリング蒸溜所で蒸留したポットスチルウイスキーも飲めます。その味わいは、もう少し熟成させた方がいいですが、将来が楽しみなフルーティさがあります。

ティーリング家によるアイリッシュ・ルネサンス

祖業である蒸留業を復活させたジョン・ティーリング。そしてダブリンに125年ぶりに蒸留所を立ち上げ復活させたジャックとステファン兄弟、蒸留器と樽を通じて蒸留業への愛を授けられた彼らの娘たちによってティーリング家、そしてアイリッシュウイスキーはますます隆盛していくことでしょう。

なお、ジョン・ティーリング氏は、クーリー蒸溜所がグレーン原酒の市場への供給を行わないと宣告したため、ディアジオが売却することになったビール醸造所を買いとって改修し、2015年からグレート・ノーザン蒸溜所を開設しており、クラフト蒸留所への原酒提供を行っています。また、個人でもCeltic Whiskey Shop経由で樽の購入が可能となっています。 そのティーリング蒸溜所のエンブレムは、アイリッシュウイスキーの誇りである単式蒸留器から昇るフェニックス(不死鳥)。それは、ティーリング家だけでなく、アイリッシュウイスキーそのものを体現しているといっても過言ではないでしょう。

この記事を書いた人

Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。
Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。