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蒸溜所を通して見る世界:バーボン造りのエッセンスが凝縮 オールド・フォレスター蒸溜所

ケンタッキー州最大の都市ルイビルの中心地である101-133 West Main Streetの通称は、Whiskey Row(ウイスキー通り)。当時の物流の中心となったオハイオ川から一ブロック先に1852年~1905年までにかけて当時流行したロマネスク・リヴァイヴァル建築やシカゴ派建築のビルが並びます。そこには、商館、熟成庫、瓶製造会社等バーボン産業に必要な全てがありました。その後、様々な歴史の盛衰を経て、近年は趣ある高級ホテルやレストランが並んでおり、この通りを中心に歩いていると、19世紀の古き良きアメリカを体感することができます。

しかし、2014年設立のエヴァン・ウィリアムズ・バーボン・エクスペリエンスを皮切りに、今では多くのビジターセンター兼クラフト蒸留所が設立されており、新たな賑わいがあります。そのような中、バーボン製造を特徴づける要素を兼ね備えた施設が2018年にオープンしました。それがオールド・フォレスター蒸溜所です。

オールド・フォレスターの歴史

オールド・フォレスターは、ブラウン・フォーマン社の創業者であり、元医薬系のセールスマンであったジョージ・ガーヴィン・ブラウンが1870年に初めてボトリングしたバーボンです。当時懇意にしていた軍医ウィリアム・フォレスターの名を冠しました。

当時、バーボンブームの影響で偽物が横行していたため、自らが仕入れてきた3か所の蒸留所の原酒を樽売りせず、瓶詰をすることで品質を保証していました。その後、1901年には、仕入先であったマッティングリー(Mattingly)蒸溜所を買収し、1920年代の禁酒法時代においても『医療目的』として製造継続が許され、今においても同じ会社で、同じ銘柄で製造が続けられている唯一のバーボンとされています。

このように歴史あるブランドであるため、”The First Bottled Bourbon”というキャッチコピーとともに、”Whiskey Row Series”というバーボン産業における重要な歴史の年号を謳ったバーボンをリリースしています。

蒸留所見学~発酵から蒸留まで~

蒸留所は、1882年~1919年までブラウン・フォーマン社の商館があった格式のあるシカゴ派様式のビル内に建てられており、趣ある看板を見て初めて到着したと気が付きました。通常この様なところには小さな蒸留器が導入されているだけのことが多いのですが、その予想は大いに裏切られました。

ツアー開始とともに地階へ降りると、ツアーガイドによってアメリカンジョークをちりばめた蒸留所の創業者の説明とこだわりの映像が始まります。なお、このツアーガイドは20~30歳と思われる若い恰幅のいい兄さんなのですが、かつて実際にバーボンを造っていた職人とのことで、どんな質問に対しても立ちどころに回答されていました。そのような経歴のツアーガイドのおかげで、製造プロセスの説明がかなり充実していました。

ビル内にも関わらず、本格的なステンレス製発酵槽が4基あります。なお、オールド・フォレスターのバーボンのマッシュのレシピは全てトウモロコシ72%、ライ麦18%・大麦10%となっており、原料の粉砕・蒸煮等の前工程は、ブラウン・フォーマン蒸溜所で行っています。

オールドフォレスター発酵槽

前工程を終えた原料が2万ℓ弱の発酵槽に移され、そこで秘伝のイーストが加えられます。約4日間の発酵工程で、アルコール分が約10%で、発酵槽1基あたりバレル14丁分の醪が完成するそうです。

醪造りの説明を受け、上階へ向かうべくエレベーターへ乗ると、ツアーの第一のハイライトが待ち構えていました。エレベーターを上がっていくと窓の外に連続式蒸留機が現れ、鯉の滝登りのように蒸留機に沿って登っていきます。

蒸留所から車で5分の距離にあるヴェンドーム社で造られた特注の連続式蒸留機だそうで、高さ約13メートル(4階建てのビル相当)もあり、改めて連続式蒸留機の高さを実感しました。そして3階につくと目の前には研究所があり、できた蒸留液のサンプルが数多く並んでおりました。そこで改めて連続式蒸留について説明を受けるといった内容の充実ぶりです。

蒸留所見学~樽の製造・熟成・ボトリングまで~

このように、この蒸留所がいかに本格的であるかを実感しながら奥へ進むと、次に樽製造エリアに到着します。そこでは一人の樽製造職人が黙々と樽を組んでいました。そしてツアーの第二のハイライトが、樽のチャーリングです。

ツアーガイドが、ツアー参加者から有志を募り、選ばれた一人が設備のスイッチを押すと、コンベア上にある仮組みされた新樽が運ばれ、止まった瞬間に猛烈な炎が樽内部を焼きました。焦げたキャラメル香が部屋に一時的に充満し、それがバーボンの香味を与えていることを体感できました。自社でクーパレッジを有するブラウン・フォーマン社だから可能な芸当です。

興奮冷めやらぬまま、さらに奥へ進むと、目の前に広がるのが数階をぶち抜いたバーボンの熟成庫の代名詞と言える高層式のリック式熟成庫です。ここでは怖さを覚えるその高さと、光を取り込む美しい様に息をのみました。この熟成庫には、この蒸留所で造られた約900丁の樽が将来のリリースにむけて熟成されているそうです(ただ、基本的にはブラウン・フォーマン蒸溜所で造られた原酒でオールド・フォレスターはリリースされています)。

オールドフォレスター熟成庫

熟成庫内の通路を下ると、オールド・フォレスターのキャッチコピーであるFirst Bottled Bourbonということをアピールするためか、実際に稼働するボトリングラインが導入されていました。ビル内にここまで様々な設備が、コンパクトで無駄のない動線に沿って設置されていることに対して大いに感心させられました。

ツアー後に余韻を楽しむ

ボトリングラインを抜けた後は、参加者お待ちかねのテイスティングの時間になります。そこでは定番(かつ、主製造元であるブラウン・フォーマン蒸溜所で造られた)バーボンとライウイスキーを中心に、ツアーガイドからテイスティングについて説明を受けます。ただ、堅苦しさはなく、「どのように飲むか?」「ツアーガイドさんのお気に入りはどれか?」、しまいには「他社のどのバーボンが好きか?」など、かなりフランクな会話がなされていました。

テイスティング後、ギフトショップにてツアーは解散となります。ギフトショップでは、定番商品からバーボンの歴史を取り上げたWhiskey Row Seriesに加え、運がよければプレジデントセレクトという社長が選んだシングルバレルバーボンや、年一回リリースのバースデー・バーボンが購入可能です。それ以外にもバー用品やアパレル等、かなり充実しています。

オールドフォレスターギフトショップ

ツアーの参加者の饒舌ぶり、テイスティングバーへ向かう足取り、ショップでの買い物ぶりから、私だけでなく参加者みんなが本当に楽しんだことが伝わってきました。 今まで数多くの蒸留所を巡ってきましたが、このようなスペクタクルでかつ知識欲が満たされる見学は初めてでした。もしルイビルを訪れる機会があれば、このオールド・フォレスター蒸溜所の見学を中心に、Whisky Rowのそぞろ歩きをお勧めします。

この記事を書いた人

Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。
Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。