High Gravity
LoDO
ここ数年、ホームブリューイング界で静かな注目を集めるのかLow Desolved Oxygen(低溶存酸素・LoDO)と呼ばれる手法だ。
酸素は完成したビールの劣化要因とされているが、数年前にドイツの有志が仕込み段階の酸素もモルト感など薫り・味わいに大きな影響を及ぼすと主張して衝撃を与えた。LoDOは麦汁中の酸素溶存量を仕込みの全段階で1ppm以下に抑え込もうという試みだが、そもそも水道水は酸素を40ppmほど含んでいる。あらかじめ仕込み水を10分程度沸騰させることで濃度は数ppm程度にはなるものの、その後麦芽を投下したりかき混ぜたりすることであっという間に10ppm程度に戻ってしまうので、ハードルはとんでもなく高い。これから数年の間にこの辺を考慮したホームブリューイング機材がどんどん登場するかも知れない。我々がまずできるの強力な活性酸素を発生させる銅でできた器材を排除することだろうか。
Tasting 101
サルタナ
イギリスのウィスキー・テイスティングノートに時々出てくる表現がこれ。日本語で言えば黄色みがかったレーズンのことだが、イギリスではレーズンは黒い干し葡萄を指し、黄色の干し葡萄をサルタナと呼んでいる。サルタナはヨーロッパに近いトルコが主たる原産国ということもあって、イギリスではかなり一般的。対して日本は干し葡萄といえばなんといってもカリフォルニア・レーズンが有名だろう。味を比べてみると、カルフォルニア・レーズンが軽く焦がした砂糖(カラメル)を連想させるような濃縮された甘みが特徴的なのに対し、サルタナはジューシーでさっぱりとした印象。どちらもシェリー樽で熟成されたウィスキーの表現に良く用いられるが、濃厚さや熟成感の微妙な違いをこれら二つの干し葡萄を使って表現してみたらどうだろう。
時代の証人
ロバート “Rabbie” バーンズ
ロバート・バーンズといえば、スコットランドが輩出した最も偉大な吟遊詩人だが、日本ではそれほど名が知れているとは言い難い。比較的広く知られている作品として「蛍の光」の原曲である「オールド・ラング・サイン」の歌詞があるが、残念ながら旋律は同じでも「蛍の光」とは歌詞の内容が全く異なっている。
1759年、スコットランドの南西部沿岸で生まれたバーンズだが、ウィスキー好きならば彼の誕生日である1月25日に催されるバーンズ・ナイトを思い浮かべるかもしれない。バグパイプの音色が響く中、スコットンランドの伝統食ハギスを獣に見立てた「ハギスに捧げる詩」を朗読し、ウィスキーと共にRabbie(バーンズの愛称)の功績を祝うこのイベントはスコットランドへの旅愁をかきたてるイベントだ。ハギスはミンチにした羊の心臓や肝臓をさまざまな雑穀とともに分厚い胃袋に詰めた、いわば貧者のソーセージ。肉詰めソーセージが日本人にとってのハレの日の白米だとすれば、ハギスはヒエやアワばかりの雑穀米と言ったところ。そんなハギスを愛情たっぷりに詩に謡うRabbieの視線は常に庶民に向けられていたといっていい。
バーンズはエールやウィスキーなどについての詩も多く残している。当時のウィスキーといえば、多くがジンへと再蒸溜される目的でロンドンへ出荷されるなど、現在の琥珀色の熟成酒とは程遠い未熟成の荒っぽいスピリッツのこと。大陸から船で運ばれ高嶺の花だったワインやブランデーは尻目に、バーンズはあくまで貧困に喘ぐスコットランドの人々に寄り添い、その生活を朗らかに詠ったのだ。そんな彼だが37歳でこの世を去る直前の数年間は生活苦から蒸溜所などから税金を取り立てる徴税官の職に就いている。なかなか有能だったようだが、「悪代官」の引け目はあったようで、「悪魔は徴税官と共に去る」(“The Deil’s Awa’ Wi’ Th’ Exciseman”)という自身をあざけるかのような詩も書いている。