「酒育の会 谷嶋×Brandy Daddyアツロー×くりりんのウイスキー置場 くりりん」の3人によるブランデー×ウイスキーのクロスレビュー!
後編のスタートです!
価格帯10,000円程度:コニャックパークXO、アラン18年
「続いては、価格帯を挙げて10,000円前後です。この辺りになると、どちらもしっかりと熟成された原酒が使われるので、飲みやすさだけでなく銘柄ごとの個性のようなもの、ハウススタイルもはっきり見えてくる。選択肢も多いと思います。」
「こちらは比較的最近日本に入ってきたばかりの銘柄ですが、コニャック パーク XO グランドシャンパーニュです。コニャックの生産域では最良の葡萄が育つとされているグランドシャンパーニュ100%で、15年~20年程度の原酒がブレンドされています。」
「飲み口はまろやかですが、コニャックにしては結構パンチがありますね。樽も余韻にかけて効いていて、フルーティーな中にウッディな甘みとほろ苦さがあり、これは好む人も多いと思います。」
「マイナーなところでもしっかりとしたコニャックが造られている、良い例ですね。これは値段も手ごろで美味しい。確かアツローさんもこの生産者と仲が良いんでしたっけ。」
「そうですね。実際にフランスの現地に伺った際もコニャックパークのオーナーのジェローム氏に畑から蒸留、熟成庫、ボトリングラインまで細かく見せて頂きました。だから紹介したい、と言うわけではないのですが(笑)。ここはボルドリーに畑を所有していて、それ以外の地域については契約農家からワインを買い付けて、それを自社で蒸留している中規模生産者です。」
「今回のチョイスの狙いは、どのあたりでしょうか。」
「候補としては、同じグランドシャンパーニュで日本でも人気の高いフランソワ・ヴォワイエXOゴールドや、ラニョーサブランNo.20等とも悩みました。コニャックパークXOグランドシャンパーニュはしっかりとグランドシャンパーニュ特有の華やかさが感じられることと、このブランドの共同創設者が実はスコットランド人で、ウイスキーとの関わりも深い生産者でしたので、そうした関連性も合わせて選んでみました。」
「こうしたフルーティーさは、まさにウイスキー好きの琴線に触れるところがあると思いますが、これはグランドシャンパーニュ地方の特徴というか、テロワールと言うことなのでしょうか。」
「勿論、すべて同じようなフルーティーさがあるわけではありませんが、土壌の性質の違い、葡萄品種の違いなどから、傾向としてはありますね。」
「ラニョーサブラン等は繊細な感じなので、樽のしっかり効いたコニャックパークは傾向としては異なるタイプですね。ウイスキーはというと、1万円前後は色々選べる価格帯にもなってきているので、面白い比較が出来るのではないでしょうか。」
「偶然ですが、ウイスキーはまさにその傾向のもので、スコッチモルト、アランの新ボトルから18年です。コニャックのXOクラスにあるような色濃い甘さや、フルーティーさからリンクするようなイメージで選んでみました。」
「アラン18年は昨年ラベルチェンジしてから、随分色が濃くなりましたね。」
「樽構成は旧ラベルと変わっていないようですが、1st fillのシェリーホグスヘッドの使用比率が増えているようです。そのため、全体的にシェリー樽原酒の影響が強く感じられますが、余韻にかけてはリニューアル前の18年同様、アメリカンオーク樽由来のフルーティーさもあります。また、アランは所謂アイランズモルトの区分ですが、タリスカーやジュラといった他の島系蒸留所と異なり、酒質がスペイサイドやハイランドといった内陸寄りで、あまり荒々しい仕上がりにはなりません。この要素をブランデーに当てはめていくと、どういう評価になるかを伺ってみたいとも考えていました。」
「!! これは美味しいですね。これで1万円しないんですか?」
「現在の流通価格だと9,000円弱で購入できると思います。」
「余韻のフルーティーさが、まさにアランという感じで、ブレンドの上手さを感じる造りです。スコッチウイスキーでシェリー樽だと、最近難しい銘柄が増えていますが、これはネガティブな要素が少なく、きれいにまとまっていて適度な熟成感もある。文句のつけようがありません。」
「そうですね。コニャックに例えると、グランドシャンパーニュというよりは、ボルドリー寄りの個性というイメージで、フローラルかつフルーティーというタイプだと思います。」
「度数の感じ方はどうでしょうか。コニャックは加水の仕方がウイスキーのようにボトリングの前ではなく、熟成中に段階的に加水していくケースもあると聞きました。」
「アランは度数に関しては特別強くは感じないですね。また、おっしゃるようにコニャックにおいて加水方法はその造り手の個性がでる部分でもあります。例えば数年を通して数度ずつ下げていったり、コニャックと蒸留水を混ぜたものを使ってコニャックの風味を壊さずに神がかり的な加水を行う生産者もいます。」
「コニャックは香りが繊細なので、加水によってせっけんや脂肪のような香り(加水香)が顕著になることがあるため、このような手間と時間をかけて加水するようです。蒸留時の冷却水や留液の温度をコントロールしている点と合わせて、ウイスキーには見られない造り方といえますね。また、ブランデーのカスクストレングスもないわけではありませんが、これは好みが分かれると思います。」
「2つを飲み比べると、コニャックパークXOに紅茶っぽさが残りますね。原料由来のフルーティーさもありますが、樽がそれなりに強く、適度な熟成感からボディも残っているので、ウイスキー好きにも受け入れられやすい要素だと思います。」
「アランは以前飲んだ限定品の18年が美味しかった印象があるのですが、今日飲んだ通常品の18年にも同じキャラクターがあります。これは良いボトルを教えてもらえました。」
■10,000円以上の価格帯
「最後に10,000円以上の価格帯です。特に制限はないですが、2万円程度までをターゲットにしたいと思います。この辺りはブランデーだと30年、40年という長熟原酒が使われるようになるので、満足感の高い領域だと思います。」
「逆にウイスキーはオフィシャルでは18年~25年あたりの熟成年数で、ボトラーズリリースも入ってくるので、如何に良質な熟成を経たカスクを引き当てられるかという領域でもあり、高ければ美味しいと言い切れない価格帯だと思います。そういう意味で、今回はオフィシャルで指標となる1本と、ボトラーズから当たりカスクの例となる1本を、それぞれ紹介したいと思います。」
「では、今回はウイスキーからいきましょうか。」
「まずは基準となるボトルですが、グレンモーレンジの18年です。バーボン樽で熟成した原酒に、一部シェリー樽でフィニッシュした原酒をブレンドすることで全体のバランスをとっており、アメリカンホワイトオーク由来の華やかでドライなウッディネスが楽しめます。」
「確かに、華やかな香味がまっすぐに感じられますね。」
「グレンモーレンジは、免税店向けの19年のほうがバーボン樽熟成原酒100%で、さらにフルーティーで華やかなフレーバーを楽しめるのですが、日本国内では入手経路が限られているので、広く手に入りやすい18年をベンチマークにしてみました。」
「グレンモーレンジ18年はもう誰が飲んでも美味しいというか、BARとしても安心して提供できる1本です。普段ウイスキーを飲まれない方で、何か美味しいものをと言われたら、グレンモーレンジを紹介することが多いです。」
「シェリー樽熟成のリッチな味わいの対極にあるのが、このグレンモーレンジにあるバーボン樽由来の華やかさ、フルーティーさです。2つの樽のキャラクターは、ウイスキーを探求するうえでのキッカケにしてもらえるのではと考えています。ブランデーサイドから見てどうでしょうか。」
「先ほどのアラン18年は甘さが舌にじっとりと残る感じでした。ブランデーでも樽等の特徴から甘みのしっかりしているタイプか、繊細で華やかなタイプがあり、グレンモーレンジ18年は後者ですね。自分の好みの系統によって選んでいけるのが良いと思います。」
「最後に、直近のリリースから、バーボンバレル熟成の当たりカスクと言えるボトルの一つが、クライヌリッシュ1993-2019 The Whisky Crew 52.2%です。値段が上限一杯なのと、ボトラーズリリースなので参考程度ですが、良ければこちらも飲んでみてください。」
「ああ、これは美味しい。バーボン樽熟成らしいアプリコットジャムのようなフルーティーさ、余韻も長く、クライヌリッシュらしいワクシーなキャラクターも備わっている。」
「これは凄いですね、慣れないので語彙が限られてしまいますが、華やかでフルーティーで、鼻で呼吸するのが楽しい。ただ度数が高いので、ブランデー好きで楽しめる人は限られるかも……。」
「確かに。カスクストレングスの高度数なリリースを美味しいと思えるようになるには、ある程度の経験値が必要で、だからこそ最初は加水のリリースから入ったほうが良いのかもしれません。」
「ブランデーにも50%、60%のハイプルーフリリースがありますよね。あまり数は無いと思いますが。」
「はい。実は今日持ってきたこの価格帯で紹介する銘柄はハイプルーフ仕様もあります。が、好みが分かれるボトルですね。自分は樽の強さが気になるので、加水仕様のものを持参しました。先ほどと同じくグランドシャンパーニュ地区からですが、40年熟成のダニエル・ブージュ トレヴューです。通称ブラックコニャック。日本市場の価格帯は1万円台後半くらいから手に入ると思います。」
「色が凄いですね。ブラックというか、まるでめんつゆのような……(笑)。」
「40年熟成で2万円しない、この辺りからブランデーはコスパの良さが出てきますね。」
「全ての銘柄がこの基準ではなく、大手メーカーには高価格帯のものもありますが、特に葡萄の栽培から蒸留、熟成まで一貫して自社で行う、所謂プロプリエテールが造る様々な銘柄の長期熟成を経た原酒を楽しめるのが、ブランデーの魅力だと思います。」
「熟成したコニャック特有の艶のある甘い香りの広がりが凄いですね。そして何より余韻のタンニン、樽の強さが、ぎゅっと全体を引き締めてくる。うん、これは加水仕様でちょうどいいかもしれません。」
「これは正直、樽の強さがどう捉えられるかが未知数でした。というのも、ウイスキー好きの方は力強くハッキリとした味わいを好まれる印象があったので、樽の強さも許容される方が多いかなと……。実際どうなのか感想を伺ってみたかったところもあります。」
「こういう緩い飲み口から、色濃い甘さとタンニンという特徴は、10年くらい前にGordon & Macphail社がリリースしていた30~40年熟成のシェリー樽モルトを彷彿とさせる部分があります。」
「以前、酒育の会で開催したコニャックツアーに行った時の話ですが、現地でダニエル・ブージュの熟成したボトルを買う愛好家は多かったですね。まさにこういう真っ黒なタイプです。」
「ダニエル・ブージュはカラメルや砂糖の添加をしない造り手でもあります。最低5年間リムーザンオークの新樽で熟成させ、そこから古樽に移し替えて熟成を継続する手法をとっていて、この独特の濃い色は新樽由来ということになります。」
「最初に強くタンニンや成分を出して、それをリフィル樽での熟成を経て、馴染ませて整えていく手法なのでしょう。」
「自分はタンニンに比較的寛容なので、このボトルも抵抗なく楽しめますが、人によっては渋みを強く拾ってしまうかもしれません。」
「確かに、このボトルは二極化する可能性があると思っています。実際ブランデー好きであっても結構好みや評価が分かれるボトルでもあります。そういう意味で、このボトルを好みそうなウイスキー好きというと、どの系統が好みの方になりそうでしょうか。」
「やはりシェリー樽熟成のウイスキーを好む方だと思います。シェリー樽にも様々なタイプがありますが……そういえば、ブランデーの熟成に使われる樽は、ウイスキーの熟成に使われるアメリカンオークとスパニッシュオーク、どちらに似ているのでしょうか。」
「主に使われているのはフレンチオークの中でもリムーザンオークとトロンセオークで、特にリムーザンオークが多いですね。どちらもオークが採れる場所の名前です。先ほどテイスティングしたグレンモーレンジが使うアメリカンオークは、年輪の間隔が狭く、トロンセオークがこの特性を持ちます。リムーザンオークはその逆で、年輪の間隔が広く、タンニンやポリフェノールが多く得られるという点ではスパニッシュオークに近い傾向があると言えます。」
「リムーザンオークの新樽はエキス、タンニンが強く出るため、メーカーによってはリムーザンオークの新樽の使用を控えるところもあります。有名処ですとコニャック大手メーカーのマーテル等はトロンセオークを好んで使い、クリアな味の傾向に仕上げています。」
「そう考えるとシェリー樽熟成のウイスキー好きが好みそうだと感じたのも納得です。」
「全く同じフレーバーと言うわけではありませんが、このダニエル・ブージュは熟成した原酒だからこそ纏う樽由来の香味の落ち着きというか、ある種の気品が備わっている。こうした長期熟成のコニャックは、熟成の尊さをも感じさせてくれる1本ですね。」
ブランデー×ウイスキー:クロスレビューまとめ
「だいぶ長くなってしまいましたが、そろそろまとめに入りたいと思います。本日はウイスキー、ブランデー、それぞれのジャンルで好ましいと思うボトルや、感想を聞いてみたいボトルを選んでいただき、テイスティングをしてきましたが、振り返ってみてどうでしょうか。
「価格帯によるパフォーマンスの違いが印象的でした。材料となる麦と葡萄の違いがこういうところにも表れているのかと。ただ、1万円以上の価格帯にある、30年、40年と熟成されたコニャックが持つフレーバーや質感には、ウイスキーの長期熟成品にも通じる要素があることを、新しい銘柄を通じて勉強できたのが大きな収穫でした。」
「ストレートで飲むことを前提とした価格帯の2本としては、ウイスキー側のキャラクターに合わせて樽感のしっかり出たタイプを選んでいます。一方で、ウイスキーにも様々なタイプがあり、飲むシーンによってブランデーやウイスキーを区別しない楽しみ方も出来そうだと感じました。実際、アラン18年は個人的に大ヒットです。」
「今回はブランデー好きという前提だったので、ピーテッドモルトは選択肢から除外して、ハイランドタイプのモルトから選んでいます。でもスコッチウイスキーと言えば、麦とピートの組み合わせが伝統的なキャラクターです。別なジャンルとのコラボがあれば、そういうボトルの感想も伺ってみたいですね。」
「テキーラ、ラム、あるいはリキュールとの組み合わせも面白いかもしれませんね。日本はこれだけ多くのお酒が市場にあり、そのほとんどは適正な価格で手に入ります。多くの愛好家は、これだという一つを深堀りする傾向がありますが、そうして自分の中で軸が出来た後で違うジャンルに触れることで、それまでの経験値を基礎としたうえでの楽しみ方が出来る。今回で言えば、ウイスキーを通して見るブランデー、ブランデーを通して見るウイスキーといった具合ですね。こうした取り組みは今後も続けていけたらと思います。今日はありがとうございました。」