少し前、タスマニアに四半期に一度くらいのペースで通っていた時期がありました。ウィスキーの蒸留所やワイナリーを求めて島内をあちこち走り、世界へ向けて成長しつつある独自の酒文化の兆しに心躍らせていました。
そのころはオーストラリアに傾倒していて、シドニーに会社を作ったりもしました。ビザの法律改正の影響を受け、結果的には私自身が現地で仕事をすることは難しくなったため、会社はすぐにたたむことになってしまいましたが……
彼の地に勝手な夢を抱いて踏み込んで、ますます好きになっていく途中でガクンと躓いたような感じでした。その後、少し足が遠のいている間に日本の仕事が忙しくなり、そうこうするうちに新型コロナ禍でさらに渡豪は困難に。
それでも、時々あの国のこと、とりわけタスマニアのことは思い出します。南極につながる清々しい海。マヌーカの花咲く山肌。果てしない牧草地と空と動物たち。豊かな海の幸山の幸があふれる港沿いのレストラン。そして酒造りの場の数々。
今夜ふと取り出したのは、Port ArthurにあるMcHenry蒸溜所を訪問した際に購入して持ち帰ったシングルモルト「バレル7」。2012年10月23日蒸留、2017年7月27日ボトリング。140本ある中の73本目。アルコール度数44%。
ん?
瓶詰は2017年7月27日……
それって、まさに3年前の今日です。なんという偶然でしょう。ふと思い出して引っ張ってきたボトルが、まさに3年前の今日の瓶詰だったなんて。感動してしまって、心が震えました。インスピレーションって、不思議ですね。
タスマニアの南側から突き出た半島にあるPort Arthur。格別に夕陽を映す海が美しいところで、思わずため息が出るような場所。小高い丘の上にあるMcHenry蒸溜所は、オーストラリア最南端の蒸留所だそうです。2010年創業、家族経営の一代目。
今のところ、McHenryの主要プロダクツはジンです。透明感のあるものから色の濃いものまで、それなりに幅広いジンを造っておられます。かつ、お世辞抜きにけっこう美味しいのです。日本にも少量ですが入ってきていますね。
シングルモルトのほうは……
まあ、モルトファンの立場からすると「これから」という感じです。
トップノートは穀物様であまり立体感はなく、おとなしい感じ。口に含むと、香りから想像するよりは個性があり、ドライな中に甘みがある独特のテイスト。フィニッシュにかけて若干粗さが出て、ドライさが立ちすぎるような面も感じられます。
でもやっぱり、造り手と会って山の中を水源まで案内していただいて、道すがら伺ったお話などを思い起こすと、たまらなく懐かしく切なくなりますね。グラスを片手に目を閉じると、タスマニアの夕陽が目に浮かびます。ああ、また行きたいなぁ。
なにかと旅が制約されるご時世ですけど、やっぱり旅がしたいですね。旅の記憶を呼び覚ますモルトのボトルに、そんなことをしみじみと感じる夜でした。