Tasting 101
花
ウィスキーに限らず酒を花の薫りで表現することは多い。ラベンダーやキンモクセイのようにはっきりとした薫りを的確を使えば「あぁ、確かに!」となるだろうし、ポジティブなイメージも持ちやすい。一方で花による表現は落とし穴が多いのも事実。
バラのように世界中どこでも手に入る花は良いとしても、地域性が高い花は厄介だ。ハリエニシダの花はスコットランド人に甘美なココナッツ臭を想起させるが、果たして日本でこれを思い起こすことができる人がどれほどいるだろうか。もっと面倒なのは「イメージ先行型の薫り」。代表格は桜だろう。日本に生まれ育ったなら「桜の薫り」を想像するのは難しくないだろうが、それは「桜の花」ではなく、「桜の葉」の薫り。そう、桜餅のあれだ。その強烈なイメージから日本では桜の花を連想してしまいがちだが、これは葉を塩漬け発酵させてできる「クマリン」によるもの。ちなみにクマリンはココナッツの薫りと同じラクトンの一種でウィスキーにもほのかに感じることがある。
High Gravity
Coca-Cola vs. PepsiCo
前回ソーダ・ケグは元々業務店での炭酸飲料水用の樽だったと書いたが、アメリカの炭酸飲料会社といえばやはりCoca-Cola社とPepsiCo社。ケグもこの二社によって仕様が異なっている。容量や形状、寸法などはほぼ同じだが、違うのは外部チューブを接続するソケットの形状。念願のソーダ・ケグを購入し、気だるい瓶詰め作業からようやく解放!と思っても、ソケットの形状が違っていて発酵槽から樽にチューブが接続できないのであればビールを詰めることもできない。
Coca-Cola社用のソケットはピン・ロック方式と言って、車のテールランプ電球などと同じ「押し回し」式。一方のPepsiCo社用ケグはボール・ロック式と呼ばれるもの。こちらは一般家庭のガス・ホースと同じ接続方式だ。どちらの方式の取付器具もホームブルーイングショップで簡単に入手できるが、主流はPepsiCo方式。今ではCoca-Cola用中古ケグも多くはソケットがPepsiCo型に既に置き換えられて市場に流通しいるので、とりあえずはボール・ロック式の取付器具を買っておけばまず問題ないはずだ。
時代の証人
高峰譲吉 Part. 2
1890年、高峰は彼の麹によるウィスキー造りの技術に興味を持った米国企業に招請される形で渡米している。最終目的地は「世界のウィスキー・キャピタル」として知られていたイリノイ州ピオリア(Peoria)。現在でこそ面影は殆どないが、当時ピオリアは世界最大の蒸溜酒生産都市であり、その生産量は高峰が移り住む既に10年前の段階でなんと年8500万リットルに達していたという。時代は前後するがカナディアン・クラブで有名なハイラム・ウォーカーが禁酒法撤廃後の1933年に世界最大の蒸溜所を設立したのもピオリアだ。
彼を呼び寄せたのは同都市に本社を置く「Distilling and Cattle Feeding Company」という企業だったが、より一般的には「The Whiskey Trust」として知られている。そう、「反トラスト法」のトラスト(trust)である。石油のスタンダード・オイルに代表されるように、トラストは市場独占を目的とした複数企業の統合体のこと。当然The Whiskey Trustも米国ウィスキー市場の寡占を目指して組織されたものだが、1887年の形成からわずか数年以内、高峰が着任した1890年までには全米80社以上の蒸溜業者が吸収され、米国産蒸留酒のなんと80%を生産するまでに至っていた。しかもピオリアにあるわずか六つの蒸溜所でそのうちの約半分を生産していたというから驚くほかない。
The Whiskey Trustはその一つ「マンハッタン蒸溜所」を高峰のために実証研究用蒸溜所に改装している。いかに同社が高峰の技術に期待をかけていたかが判るだろう。次回は高峰の技術や赴任後について見ていこうと思う。