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Still graffiti in America

Tasting Vocabulary 101

スパイス part・2

前回「甘い」スパイスの話をしたが、今回は「辛い」スパイスの話を。

“Black Pepper” (https://flic.kr/p/5znc2N) by amidnightpoem CC BY-NC-SA

この手の代表格は何と言ってもコショウ。と言っても、ラーメン屋に必ずと言っていいほど置かれているあの粉末状の黒コショウとはちょっと違う。テイスティングでよく用いられるのは同じ黒コショウだが、スコッチ・ウィスキーに見つかるのは舌の上の刺激よりも、どちらかと言うと荒く挽いたばかりの黒コショウ特有の刺激的な薫りの方だ。黒コショウには発酵から生じる精油分が含まれていて、砕いた瞬間が最も薫りが強い。日本でも黒コショウのエッセンシャルオイルが売られているので、是非試してみるといい。

例外はライ・ウィスキー。ライ特有の口の奥でピリッと弾けるような刺激は、まさに口の中でコショウを噛み砕いたよう。

High Gravity

Christmas Ale

“Getting into the Christmas spirits “(https://flic.kr/p/aRAVZn) by Eric CC BY-NC-SA

Thanksgivingが終わるとカリフォルニアは一気にクリスマスモードに。

この時期やはり挑戦したいのがホリデー・エール。糖蜜を加えたワートにシナモン・ナツメグ・カルダモン。スパイスの利いたエールを片手に一人ゆっくりとカウチで映画を見るもよし、ホームブリュー仲間とのクリスマスパーティーで色々飲み比べるもよし、はたまた10年後のクリスマス・シーズンを夢見て気長にエージングをするもよし。

でもスパイスの入れ過ぎは禁物。このさじ加減がわかるようになれば一人前のbrewer。

おすすめはspice tincture(スパイスチンキ)。ウォッカなどのニュートラルスピリッツにスパイスを一週間ほど漬け込み、ボトル詰め時にそれを少量足せば、細かい調整が可能に。

時代の証人

E. H. Taylor Jr.

幻想的とすら思えるOld Taylor蒸溜所。朽ち果てるがままの庭園に拡がる静寂が往時への想いをかきたてる。

19世紀中頃から20複数の蒸溜所を経営していたE. H. Taylor Jr.は、バーボン産業を現代的なビジネスとした立役者の一人だ。Taylorは経済界や社交界の重鎮からの感謝の手紙を広告として利用するという、セレブ広告の先駆けを作ったおそらく最初の人物だった。

バーボンに「Old」の3文字を加えればブランド価値が上がるとされていた時代、彼は自社に宣伝やマーケティング専門の部署を設けるなど、他を圧倒する独創性を持っていた。

バーボンは当時樽のまま売られていたが、彼はタガをあえて真鍮製にしピカピカに磨いてから出荷させたという。蒸溜所ですら彼にとってはショーケースだった。石灰岩でできたOld Taylor蒸溜所は屋外プールを備えたまるで白亜のお城。週末ともなれば多くの観光客で賑わったという。Taylorはバーボンツーリズムの先駆者でもあった。

また世界初の食品規格を支えたのも彼だった。当時は無色の蒸留液に色と味を加えただけの得体の知れないバーボンのマガイ物が横行し、消費者の信頼は地に落ちていた。

政府は蒸溜所の熟成庫を官営保税庫とし、そこで4年以上熟成かつボトル詰めされたウィスキーだけが「Bonded」を名乗れることを提案。いわば現在のJAS法の先駆けだ。業界の多くが政府の介入を渋る中、Taylorは説得に成功。こうやって、現在に続く「Bondedウィスキー」が生まれたのだ。

この記事を書いた人

ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。
ジミー山内
ジミー山内
ウイスキーアドバイザー。米カリフォルニア在住。アメリカン・ウィスキー及びクラフト・ビール関連業界に深く携わる一方、日本で気鋭のクラフト・ブルワリーであるTokyo Aleworksを創設。スコットランド在住時はScotch Malt Whisky Society本部で樽選定員として数多くのモルト・ウィスキーを世に送り出している。