Tasting Vocabulary 101
No.1 Rhubarb
最近でこそ日本でも目にするようになってきたが、10年ほど前まではほとんど知られていなかった食材、ルバーブ。
日本では食用大黄(ダイオウ)と訳されるが、そもそも大黄を知る人自体ほとんどいないだろうから、単にルバーブと呼んだ方が通じるかもしれない。大抵の場合、店頭では葉っぱが取り除かれた状態で売られ、一見すると赤いセロリのようにも見える。
ヨーロッパ、特にイギリスでは一般的な食材だが、そのままでは酸っぱくてとても食用と言えるような代物ではない。食べ方はジャムか砂糖漬けのパイ・フィリングとほとんど決まっている。鮮やかなピンク色に、爽やかな酸味と甘み。その色合いといい、味わいといい、若いポート・フィニッシュのウィスキーを表現するのにこれ以上適した食材は他にないだろう。
どこかで見かけた時は是非お試しあれ。
High Gravity
Session
アメリカの国民食と呼べるものの一つがBBQ。日本ではキャンプなどにつきものと考えられているが、アメリカでは週末に家族や近所の友人などを招いて頻繁に行われるパーティーの一環だ。
7月の建国記念日前ともなれば本格的なシェフによるグリルの方法やソースのレシピに関するクッキングスクールも開かれ、さながらBBQは男たちのちょっとした腕の見せ所に。「ピット」と呼ばれるBBQグリルの前に立つのは鍋奉行ならぬ、BBQ奉行といったところか。
こんな時好まれるのがSession IPAだ。アルコール度数は通常のアメリカンIPAの約半分ほど。IPA特有の苦味・フルーティーさを楽しみつつ、暑い昼下がり友人と何本でもイケてしまうこのIPAは、しかしながら度数を抑えるために使われる麦芽量が少なく、モルト感とホップのバランスが難しい。
Low gravityでありながらHigh BU。ベースとなる麦芽のチョイスがモノ言う。
Maris Otterなどはどうだろうか?
時代の証人
Dr. Crow’s Sour Mash
サワー・マッシュ。バーボン造りにおいて欠かせないこの製法は、19世紀の蒸溜業者たちが仕込毎に異なる品質をどうにかして安定させたいという要求から生まれた。方法は極めて原始的。
蒸留器の中に残った廃液から固形物を取り除き、次回のマッシュ(コーンやライ麦、大麦などの原材料から得られた甘い糖液)に混ぜて発酵させるというものだ。この廃液をバックセットという。ラムにもダンダーと呼ばれる廃液を使った似たような工程があるが、ウィスキーでいえばスコッチもジャパニーズも使用しないバーボンだけのテクニックだ。
おもしろいことにこの製法を確立したのはスコットランド人だった。僕の母校でもあるエジンバラ大学で薬学を学位を修めたJames C. Crow博士は、1820年代にケンタッキーに移り住みバーボン造りを始めた。科学的トレーニングを積んだ彼は、マッシュの糖度や酸性度を計測し、それまで経験則で行われていたバーボン造りを抜本的に変えたという。その一つがサワー・マッシュ製法だった。
マッシュの中でイーストがアルコールを醸すと、今度は乳酸菌が発酵して酸性に傾く。それを次の仕込みに利用することで、酸っぱいマッシュが出来上がるわけだ。イーストは酸性環境で元気に活動するので、発酵の初めに起こりやすい雑菌の繁殖を防いでくれる。
こうして高品質のバーボンを生み出すことを可能にしたCrow博士は世に「Old Crow」というバーボンを送り出し、その後、同ブランドは1960年代までアメリカ・バーボン界を牽引したのだった。