Tasting Vocabulary 101
スパイス part・1
ウィスキー・テイスティングの用語の中で「スパイス」ほど範囲の広いコトバも少ないだろう。
スパイスと日本人が聞くと、何やらインドカレーのエキゾチックな薫りを連想してしまいそうだが、さすがにターメリックやクミンといったスパイスを表現に使うことは少ない。大雑把に言って、ウィスキーで「spicy」といった場合、7割がた「甘い」スパイスを意味していると言っていい。欧米で甘いスパイスというと、人々は大概クリスマスのスイーツに使用するスパイス、つまりシナモンやナツメグ、クローブそしてジンジャーなどを連想する。
スコットランドで樽選びを始めた頃、spicyと言われて高校時代よく通った横浜・山手のクリスマス・トイズの店内を連想したものだ。
日本で身近にあるものといえば、アップルパイのフィリングの匂いが近い。グリュー(マルド)・ワイン用のスパイスパックがあれば、それがこの手のスパイスを理解するのに一番手っ取り早いかも。
High Gravity
Nitro
秋口とはいえ、カリフォルニアに降り注ぐ午後の日差しは僕らの体力を奪っていく。
一息つこうと地元のBrew Pubへ。バーマンがタップから漆黒の液体を注ぎ込む。見るからにクリーミーな泡がグラスに踊る。
ギネスばりのスタウト?
いやいや、ビールにはまだ陽が高い。
水出しコーヒーを意味するCold Brewを樽に詰め、スタウト同様に窒素添加してビアタップからサーブするのが流行りだしたのはここ数年のこと。英語で窒素はNitrogen。略語のNitroはその発音「ナイトロ」から夜(ナイト)を連想させ、ブラック・コーヒーのイメージにぴったりだ。
今ではホームブリューショップでもCold Brewキットが売られ、コーヒーとクラフト・ビールのおもしろい融合が進む。
時代の証人
Frederick Stitzel
バーボンといえば樽熟成、というのは19世紀には既に一般的な認識だった。
アメリカン・ウィスキーのもう一つの雄、ライ・ウィスキーが必ずしも樽熟されていなかったのとは対照的だ。当時の熟成庫はスコッチなどと同じく樽の上にレール状に二本の棒を並べ、その上にもう樽を並べるダネージ組みが一般的だった。
ただ、数段以上組めば下の樽は重みで変形し、中身が漏れ出てしまう。樽熟というブランド価値を維持しつつ、高まる需要に応えるためにはどうにかして熟成庫のキャパシティを増やす必要があった。
革新が起きたのは1879年。Pappy Van Winkleで有名なStitzel-Weller蒸溜所を造ったFrederick Stitzelは現在のリック式と呼ばれる棚組み法を特許申請。これにより、垂直方向に30樽近い組み上げが可能になり、熟成庫の収容量が激増しただけでなく、屋根付近と地表付近での温度差が生まれ様々なスタイルの熟成が可能になった。
またダネージ組みのように下の段の樽を動かすために、上の段の樽を動かす必要がなくなり、さらには樽の間にできた空間により空気の循環が生まれ、より早い熟成とカビの発生が抑えられることになった。
現在の最新の熟成庫でも使用されるこの棚組方式は僕らが知るバーボンのスタイルの原点を作ったといえるのだ。