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蒸留所を通して見る世界:タスマニアのゴッドファーザーによる蒸留所・ラーク蒸溜所

2019年10月、ベストシングルモルトを輩出するオーストラリアのタスマニアへ行きました。タスマニアは九州と同程度の面積であるにも関わらず、蒸留所が50か所を超えるため、まずは一番歴史のある1992年設立のラーク蒸溜所から見学を始めました。

タスマニア、そしてラーク蒸溜所の歴史

タスマニア島の北の玄関港であるデポンポートからレンタカーを借りて、4時間かけて南のホバートへ向かいました。その間に見た風景は、植生は少し異なりますが、かつて見たスコットランドの風景に似ており、懐かしささえ感じられました。

タスマニアの風景

そして辿り着いたツアー集合場所は、州都ホバート市街にあるラーク蒸溜所の自社経営のバーです。そこでは自社製品に加え、5大ウイスキーの充実した品揃えを見て、『オーストラリア、特にタスマニアはそれら産地と同じルーツなのに、なぜ150年もの間ウイスキーを造ってこなかったのか?』という疑問が思い浮かびました。

ちなみにオーストラリアでは、ウイスキー製造に関する布告が1825年(同じ大英帝国内のスコットランドのザ・グレンリヴェットが政府公認蒸留所となった翌年)に出されています。しかし、タスマニアでは飲酒による社会問題により、1839年には度数の高い蒸留酒が禁止されています。なお、全ての酒を禁止にすると暴動が発生するため、ビールとワインは許可されたことから、島内で醸造酒の文化は強く根付いていきました。

※メインランドではメルボルン近郊のコリオ蒸溜所(1929-1989年)などでウイスキーを造っていましたが、その味わいはもはや黒歴史のようです。

なお、ビル・ラーク氏の蒸留所の設立は、義父とグレンフィディックを飲みながら『タスマニアでウイスキーを造れないか』という他愛のない話をしたことが発端だったそうです。そんな中、奥さんであるリン・ラーク氏がたまたまオークションに出品されていた家具と古い5ℓの蒸留器セットを発見し、ものは試しにと落札したそうです。もちろんノウハウがないため、行きつけの酒屋へ相談したところ、リタイアしてスコットランドからタスマニアに移住してきたウイスキー職人を紹介されたそうです。その後、縁が縁を呼び、ついには『タスマニアでウイスキーが造れるか、否か?』という命題に真剣に向き合うべく153年ぶりに酒造免許を取得して1992年に設立したのがラーク蒸溜所です。

ラーク蒸溜所の製造工程

ミニバンで30分弱移動したところにある現蒸留所での製造は独創的です。島にはビール文化が根付いているため麦や精麦所もあり、またピートもふんだんにあります。ただ、精麦所ではピートでの乾燥が嫌がられたという経緯から、リン氏の発案で自らピートで燻すというPost Peat Maltingという技法を確立しています。1バッチ300㎏のうち、半量を約6時間燻し、残りのノンピートの麦と合わせてフェノール値約4~8ppmの麦芽を造ります。

ポストピートモルティング

発酵は、ステンレス製1500ℓのオープントップ発酵槽8基にて、地元ビール醸造所に薦められたエール酵母とディスティラリー酵母を使って行います。また、土地の要素を取り込むべく、7日もの時間をかけて乳酸菌による後発酵を促しています。ツアー中、経過日数毎の醪を飲ませてもらうと、最初の数日の醪はガイドさんが「仕事で一番つらい」と冗談を言うようなきつい香味でしたが、7日目のものにはアルコール度数が8%と高いものの、まろやかな酸味とまとまりがありました。

※見学時、オーバーリム蒸溜所の醪も同設備で造っていました。発酵槽はステンレス製ですが、その高さはラーク用のものより高く、かつフードをかけています。これにより香味の違いを出しているようです。

その醪を、元々は地元の工務店でラーク氏に頼まれて蒸留器を作り始め、今では島内有数の蒸留設備メーカーとなったナップ・ルワー社製の単式蒸留器(初留釜1800ℓ+ワームタブ冷却器、再留釜600ℓ+シェル&チューブ冷却器)で蒸留します。

Lark蒸留器

ミドルカットは官能で行い、また初留液を再留釜へ移すのも手作業で行っています。そのため、創業後20年以上経過した現在も1バッチの生産量が120ℓ程度であり、年間でも30000ℓと極めて少量です。

樽詰めする際には、63.4%に加水調整した後に、バーボン樽やシェリー樽、島内の様々なワイン樽などで熟成させます。ツアー中に樽出原酒を飲ませてもらいましたが、それらは10年未満の若い原酒であるものの、天使の分け前が年8%と高いことからしっかり熟成がされており、樽感の効いたビターチョコレート様の香味がしました。独特な造り方ではあるものの、『タスマニアには、まごうことないウイスキーがある!』と実感しました。

ラークの熟成庫

タスマニアウィスキーのゴッドファーザー

ラーク氏は『タスマニアでウイスキーが造れるか、否か?』という命題に答えを出す際に多くの支えがあったことから、自身も島内外のウイスキー造りを志す人たちを惜しみなく手伝いました。そのため、タスマニア・ウイスキーのゴッドファーザーと呼ばれ、ウイスキー専門誌の権威である『ザ・ウイスキー・マガジン』の殿堂入りをしています。その情熱に敬意を表すべく、タスマニア・ウイスキーを飲む、もしくは見学される際には、その原点とも言うべきラーク蒸溜所から始めることを強くお勧めします。

この記事を書いた人

Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。
Tatsuya Ishihara
Tatsuya Ishihara
サラリーマン業の傍ら、『なぜウィスキーが好きなのか?』という命題のもと、5大(+α)ウィスキー、テキーラ、ジン、焼酎等100箇所以上の蒸留所を見学。またその命題をみんなに問いかけた写真作品展「Why do you like Whisk(e)y?」を仲間とともに開催。