High Gravity
ボトリング
自家ビール造りの最終段階といえば、パッケージング。アメリカでもホームブルーイングだと瓶詰めが一般的。せっせと集めた市販のビールの空き瓶に完成した自分のビールを充填し、打栓機でキャップをすれば完了。ちょっと聞くと簡単そうだが、いやいや実はこれが相当手間のかかる作業なのだ。
事前に空き瓶を洗浄しておくことはもちろん、ビールを充填する際のすすぎ・殺菌・ドレインは必須。カーボイなどに入ったビールは殺菌したバケツなどに移し替え、そこからようやくボトリング作業に取り掛かることができる。おっと、沸騰したお湯に溶いたコーンシュガーを(もちろん冷ました後に)ビールに加えることをお忘れなく。こうすることでキャップがされた瓶内で二次発酵が起きて、開封時にいかにもビール!といった発泡感が得られるわけだ。
瓶へのビールの充填後にすばやく打栓。これを一本一本根気よく繰り返していく。一般的な仕込みサイズである15ガロン(約20リットル)でも瓶の本数は30本近くにもなる。15ガロンともなればその数は100本近い。キッチンを汚さずこれだけの本数を手際よくビールを注ぐのは至難の業。その間、空気に触れるがままのできたてビールはどんどん劣化していく。CO2の強制注入も含め、さらなるステップアップを求めるならぜひビール樽、すなわちケグの使用を考えたいもの。ということで次回以降、数回に渡ってケグについてお話していく予定だ。
Tasting101
Oaky
ほぼ全てのウィスキーがオーク樽で熟成されていることを考えれば当たり前と思われるのが「Oaky(オーキー:オークっぽい薫り)」だろう。
日本語に訳せば「樽香」に近いかもしれない。でも日本語で樽香というと、どちらかといえばバーボンのバニラ香や心地よい熟成感を思い浮かべるかもしれないが、実は英語での「Oaky」はどちらかというと否定的な意味を含むことが多い。鉛筆臭などとも呼ばれる未熟性な生木臭も時としてOakyと表現されるが、やはり多いのは過熟成のウィスキー。古い家具やセメダインの匂いなどが想像しやすいかもしれない。もう20年も前、名物ブレンダーであるリチャード・パターソン氏と共に「史上最高価格のウィスキー」ともてはやされた超長熟ウィスキー:ダルモア62年間熟成を味わった時のその強烈な印象を今で鮮烈に覚えている。「Wow! ニス塗りを重ねた超古いアンティーク家具をかじってる感じ!」
Stein
時代の証人
現代のスコッチ・アイリッシュの両ウィスキー業界を作り上げた一族は誰かと問われて「Stein」の名を上げる人はおそらくいないだろう。Haigがスコッチ・ウィスキー史の表舞台で輝く名家だとすれば、Steinは影の支配者ということになるかもしれない。
SteinはローランドのClackmannanで農業を営む一族だったが、Andrew Steinは18世紀前半に近くのKennet Pansに当時最大の商業蒸溜所を設立している。面白いことに三代目のJohn Steinはこの蒸溜所を引き継ぐ一方で、アイルランドにダブリン蒸溜所を開いている。
一方、Haig一族のRobert HaigはAndrew Steinより一世紀近く前に近所でスコットランド初と言われる商業蒸溜所を営んでいた。近隣同士、Stein・Haig両家の交流は密だったようで、Haig家4代目のJohnはJohn SteinのいとこMargaretと結婚している。10人の子供のうち、母親と同名の長女MargaretはJohn Jamesonという男性と結婚しているが、後に彼らはアイルランドに移り住み、John Steinのダブリン蒸溜所を買い取って「Bow Street蒸溜所」と名を変えている。そう、これがアイリッシュ・ウィスキーの代名詞Jamesonの始まりだ。
一方、末っ子のWilliamはJane Steinと結婚し、Janeの兄弟のRobertが営んでいた蒸溜所を継いでいる。その後、自身の蒸溜所を設立。そこでRobertが発明した二塔式連続式蒸溜器を使用し初のグレーン・ウィスキーを造っているが、これが現在に続くCameronbridge蒸溜所だ。Robertの発明はすぐさま改良が加えられ、かの有名なコフィー式蒸溜器となっている。さらにWilliamは世界最大の洋酒メーカーであるDiageoの元となるJohn Haig Whisky& Co.を設立している。こうしてみるとStein一族がいかに我々が愉しむ現代のウィスキーに大きな影響を与えたのかがわかるだろう。