これまでリカルでは、ウイスキーはウイスキー、ブランデーはブランデー、リキュールはリキュール……と、ライターの専門性に基づく内容を発信してきました。
一方で、日本は世界で最も多くの酒類を楽しむことが出来る環境があり、世界トップクラスの食文化もあります。一つの分野を深堀りするだけでなく、異なる分野の楽しみ方やきっかけとなる情報を発信していくことは、酒育の会の理念でもあります。
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一口にお酒といっても、ジャンルによって異なる特徴があるため、普段何を主に飲んでいるかで、他のお酒に対する感想や評価軸も異なってきます。
そこで今回の企画は少し視点を変え、ブランデー好きがウイスキーを評価し、ウイスキー好きがブランデーを評価するといった、“クロスレビュー”をテーマとします。
今回来て頂いたのは、リカルのライターとしても登場するお二人。「Brandy Daddy」のアツローさんと、「くりりんのウイスキー置場」のくりりんさんです!
お二人には、事前に相手のジャンルの愛好家が好みそうなボトルを価格帯別に3本程選んで頂きました。読者の皆様は、自分が日頃楽しんでいるジャンルのライターが、クロスレビューを通じて他のお酒にどのような感想を持つのかを、新しいジャンル探索の参考にして頂ければ幸いです。
「宜しくお願いします。」
「今回は、ブラウンスピリッツとして近いジャンルと言える、ブランデーとウイスキーがテーマです。元々両者はヨーロッパを中心に市場を奪い合ってきた歴史があり、現在のスコッチウイスキーの原型とも言えるブレンデッドウイスキーが広まった背景には、甘く飲みやすいブランデーに対抗するためだったという経緯もあります。現在は両ジャンルの市場価格が大きく乖離していないこともあり、どちらも5,000円程度、10,000円程度、それ以上、という3つの価格帯を基準に、ボトルを選んでもらっています。 まず、ボトル紹介の前に両ライターからそれぞれのジャンルへの印象などをお伺いしたいです。」
「私は熟成したブランデーのふくよかでやさしい香味や、小さな農家が数世代に渡って伝統を守りつつ新しい事にも挑戦する造り手の背景にも惹かれています。ブランデーばかり飲んでいる印象を持たれがちなのですが(笑)、実は普段Barに行った際は6~7割方ウイスキーを注文しています。ウイスキーのざっくりとした印象としては……もちろんウイスキーも同様のふくよかさやフルーティーさがしっかり感じられるものもありますが、度数の高いものや、特有のピートフレーバーもあることから、より力強いお酒というイメージですね。」
「ウイスキーもかなり飲まれているんですね。てっきりブランデーオンリーなのかと……(笑)。自分はもっぱらウイスキーの住人なのですが、最近はウイスキー以外も酒類を開拓中で、ブランデーもその一つです。ブランデーは香りの広がりは素晴らしいですが、ウイスキーに軸を置くと、飲み応えというか、味のコシという点で物足りない印象があります。」
「ポール・ジロー等はウイスキー愛好家にも知られている銘柄ですね。」
「実はポールジロー・ヘリテージが、自分がブランデーにハマったキッカケの銘柄でした。お酒を飲み始めた頃は蒸留酒に対して苦手意識を持っていたので、あれを飲んでいなければ、今この場に自分は居ないかもしれません。」
「熟成したコニャック独特の甘やかなフルーティーさは、ウイスキー好きの琴線にも触れるものがあると思います。実際、最近はウイスキー側での原酒枯渇から、熟成したモルトに近い味わいを求めて、コニャックやアルマニャックがボトラーズメーカーからリリースされるなど、注目を集めつつもあります。逆に言えば、該当するフレーバーがブランデー好きにとってもなじみがある要素と言えるため、ボトル選定の条件にもしてみました。今回の企画では、自分が知らない銘柄との出会いが楽しみです。」
価格帯5,000円程度:ABK6 VSピュアシングル、キリン シングルグレーン富士
「それではまず5,000円程度、スタンダードグレードのボトルからレビューしていきましょう。この価格帯は飲み方の指定があれば合わせてお願いします。」
「ブランデーからはコニャックABK6(アベカシス)VS ピュアシングルです。」
「大手メーカーのコニャックであれば安定した造りが評価できますが、ABK6のコニャックは主として原料となっているファンボアの葡萄に由来する特徴をしっかり感じられる点を評価しています。ABK6コニャックはファンボア、プティットシャンパーニュ、グランドシャンパーニュに合計370ヘクタールの自社葡萄畑を保有しています。生産量としては中規模にあたるコニャック生産者ですが、葡萄の栽培、蒸留、熟成、ボトリングまで全て自社で行っているシングルエステートコニャック、いわゆるプロプリエテールです。
全ての工程を自社で行い、どこにも原酒提供を行っていない生産者としては最大級の規模となるABK6が主にカクテル等で使われることを軸に造ったこのABK6 VSに興味があり、今回はお持ちしました。
ブランデーはこの価格帯だとどうしても若い原酒由来のアルコール感、エステル系のニュアンスが目立ってしまう場合があるので、シンプルな飲み方としてはストレートではなくジンジャーエール割りで飲んでみるのが私はオススメですね。」
「早速作ってみます。コニャック・ジンジャーは定番のカクテルですね。今回使ったジンジャーエールは定番のカナダドライです。ウィルキンソンの辛口タイプのものよりこちらのほうが、甘みが引き立つように感じられます。」
「コニャックらしい華やかな香りの鼻抜けはそのままに、若い原酒由来の要素はジンジャーエールの甘さが中和しつつ、さっぱりと楽しめますね。今日みたいな暑い日のスターターにぴったりだと思います。」
「シュウェップス等、トニックウォーターで割ったり、あとはレモンピールを使うのもオススメですね。また、長熟のコニャックはタンニンや熟成感とトニックウォーターなどの割り材が喧嘩して調和しにくい場合もあるので、こういう飲み方は若いコニャックのほうがスッキリ安定していて良いと思います。」
「熟成年数はどれくらいですか?」
「このABK6 VSはおよそ3~7年熟成のコニャックをブレンドしたものですね。」
「同価格帯のウイスキーは10年~12年熟成が一般的なので、ブランデーは若く感じてしまいますね。ウイスキーハイボールと比較すると、今回のコニャック・ジンジャーはどうでしょう。」
「最近のボトルは樽香がドライで、原酒の若さが目立つものも少なくないので、年数差ほどクオリティに違いは無いように思います。ただ、この価格帯のウイスキーの場合はハイボールという選択肢が自然とありますが、ブランデーの場合は割って飲むことがあまり知られていないのではないでしょうか。形を整えないと飲めないのがブランデー、特にコニャックという印象が……。」
「大ぶりなバルーングラスでストレート、というのが根強いイメージとしてよく聞きますが、そのような大きなグラスはよほど熟成が進んでいるものでないとアルコール感が強く出て厳しいと思います。実際、某大手グラスメーカーも大きなバルーングラスはブランデー用グラスには推奨していなかったりします。ストレートの場合はこのようなチューリップ型のグラス(下写真)が、およそどのブランデーにも対応できる万能グラスだと思います。」
「大型のグラスはグラスの中の空間にアルコールなどの刺激成分が溜まって、強調されてしまうからでしょう。そういうグラスで若いブランデーを飲むと、ああ、もうブランデーは良いかなとなってしまうかもしれない。だからこそ、今回のブランデー・ジンジャーもそうですが、若いブランデーをソーダやトニックウォーター等で割って手軽に楽しむスタイルは、もっと様々なジャンルの愛好家にも試してほしいです。」
「先ほど触れましたように、ウイスキーはハイボールですっきりとした味わいが前提なら、銘柄は色々あるのですが、今回はブランデー愛好家が抵抗なく楽しめるような“甘み”をキーワードに、キリンが発売したシングルグレーンの富士を選んでみました。」
「富士御殿場蒸溜所で蒸留・熟成されたグレーン原酒のみを使ったウイスキーです。まずはストレートで、後はロックで飲むのもオススメです。BARならオールドファッションドなどのカクテルベースに使ってみるのも面白いかもしれません。」
「バニラのような香りが強いですね。葡萄とは異なるものですが、傾向としては甘口と言えますし、口当たりも柔らかいので、ストレートでも十分飲みやすいです。」
「穀物由来の甘さははっきりあるのですが、スコッチのライトで個性に乏しいタイプではなく、バーボンのような新樽由来の樽感が強く主張することもない。あるいはカナディアンというわけでもない、面白い造りですね。」
「グレーンウイスキーはあまり経験がありませんが、市場的にはどのくらいのシェアがあるものなのでしょうか。連続式蒸留器で造られているということですよね。」
「グレーンウイスキー自体は珍しいものではないですが、これまでは一部のボトラーズリリース等、マニア向けのジャンルという立ち位置でした。それがモルト原酒の高騰を受けて、長期熟成のスコッチグレーンが注目されたり、新しいブランドの確立を狙って国内メーカーがスタンダードブランドに組み込むなど、一般に認知されつつあります。グレーンウイスキーの製法は、一口に連続式と言っても色々なタイプがあり、キリンの富士御殿場蒸溜所ではそうした設備を使って造り分けされた原酒をブレンドして仕上げています。熟成年数の話が出ていましたが、これもABK6 VSとそう変わらない熟成年数の原酒で構成されているはずです。」
「それにしては、樽由来のえぐみ、セメダイン系の香味も少ないですし、上手く造ってありますね。キリンはバレルエントリーを50%に調整しているので、その違いがあるのかも。」
「麦と葡萄では原料のコストが違うのもありますが……5,000円以内の価格帯で比較してしまうと、やはりウイスキーのコスパの良さが目立ちますね。」
「ブランデーはファンボア、ウイスキーはグレーンと、一般的なリリースで縁の下の力持ちになっている原酒がチョイスされたわけですが、ブランデーもウイスキーも、様々な地域の原酒をブレンドするにあたって、これらの原酒が使われていないと仕上がりが大きく変わってきます。」
「ウイスキーの場合はモルトだけのブレンデッドだと、どうしてもトゲトゲしいというか、ばらつく感じになりがちですね。例えるなら、十割蕎麦と二八蕎麦の関係に似ていて、多少小麦が入っているほうが口当たりがよい。まさにグレーンなわけですけど(笑)。この富士は一般に販売されているスタンダードリリースですし、ここからブレンデッドウイスキー等、ウイスキーの他のジャンルへの取っ掛かりにしてもらえたらと考えています。」
「コニャックは5,000円以内の価格帯では、モノによってはストレートだとちょっと厳しいかな……という方が多いのも事実です。個性を出すのが難しい価格帯でもありますが、小規模生産者による造り手や土地の特徴を活かしたリリースも日本に入ってきています。そうした銘柄から上位のブランデーとの共通点を楽しんでもらえたら良いなと思います。」
「なかなか良い飲み比べができましたね。それでは続いて少し価格帯を上げて10,000円前後のボトルで見てみましょうか。」
次は1万円前後と1万円以上のボトルレビュー2本立て!